とある国の因果応報を生と死の狭間から見届けてみた
こなひじきβ
第1話 魔王討伐、勇者の死
「やった! 止めの一撃が決まったっ!」
「ふっ……、認めてやろう。勇者アルスよ、お前は儂に打ち勝った……。人間にも、少しは骨のある奴がいたものじゃな……」
アルスの渾身の一撃が、魔王ラミアに届いた。とうとう魔王討伐という長い旅に終止符を打つことができた瞬間だった。
「これで、世界が平和に……」
かつて人類の脅威となっていた魔王も、従えていた幹部たちも倒した。これで勇者の冒険は終わり、来たる平和を満喫できる……と思っていた。
だが、そんな期待は次の瞬間に裏切られる事となった。アルスの背後から、誰が放ったのか矢が飛んできた。矢は無慈悲にもアルスの体に刺さってしまった。
「がっ!? こ、これは……毒矢!?」
「アルスっ!?」
全身に回る猛毒、あまりの強さに死を免れる事が出来ないと悟った。聖女ミリアの叫び声が遠巻きに聞こえる。倒れるまでのスローモーションに感じる時間の中で、矢が放たれた方角に首を向ける。
アルスが見た光景は、彼を絶望に陥れた。矢を放ったのは、王家の弓兵の一人だった。鎧を着ているせいで誰かはわからない。
「嘘……だろ……?」
意識が朦朧としていく中で、ただ一つ分かった事がある。勇者アルスは最早用済みと王国に切り捨てられた、という事だ。アルスの視界はそのまま暗転してその場に倒れた。そして彼は、二度と起き上がる事は無かった。
「陛下。ご命令通り、魔王の討伐及び勇者の殺害に成功致しました」
「うむ、ご苦労であった」
伝達役からの報告を受けたオワコン王国の国王は、とても国民の前では見せられないような醜悪な笑みを浮かべた。
「これで世界の脅威となる魔王、そして勢力図を揺るがしかねない勇者を同時に葬ることができた」
「ええ。勇者への莫大な報酬を支払う必要も無くなりましたからなぁ」
「うむ。我ら王国の膿を取り去った今、ただ繁栄していくのみの未来が待ち遠しいわい」
側近である初老の男性も、白い顎鬚を触りながら国王に同意する。例の弓兵を仕向けたのは、他の誰でもない国王だった。
勇者は魔王を倒すための存在に過ぎないと判断した彼らは、自らの利益の事しか考えていなかった。これまで勇者の旅に支援を与えていたが、そこに敬意は無くただ早く終わらせてほしいというだけだったのである。
この後、世間には『勇者は魔王討伐を達成したと共に、名誉ある戦死を遂げた』と公表された。国民たちは勇者の死を悲しみはしたものの、平和への喜びに気持ちをすぐに切り替えた。真実を知ろうとする者は、誰も現れなかった。
ただ、全てを勇者の近くで目撃してしまった彼女を除いては。
「誰もアルス様の戦死を疑わずに、ただ平和を享受している。醜い王の本性に気づくことも無く……」
彼女の独白は、人のいない教会に虚しく響く。ミリアはずっと王の所業を民衆に暴くため数日間、寝る間も惜しんで動き続けた。
しかし民衆の誰も彼女の言う事を信じなかった。ミリアが聖女として献身的に国のためという使命を全うしてきた人物であるにも関わらず、王の言葉に皆惑わされてしまっていた。
王命によって反逆者へと陥れられ、逃亡を続けていたミリアは、最早限界と悟った。王国に、人類に救う価値は無いと見限った。
「……こんな国、滅んでも仕方がありませんよね? アルス、今行きますから待っていてくださいね」
虚ろな目で抱えていた禁書を開く。そこに書いてある呪文を唱え始めると、教会の床全面に巨大な魔方陣が展開される。何事かと駆け付けた騎士たちが教会のドアを蹴破る。
しかしその時既に彼女は呪文を唱え終えており、そこには誰もいなくなっていた。『術者の選んだ魂と自らの魂を、狭間の世界に送る』と書かれた禁呪は、正しく発動された。
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