友の思いを歌に

正体不明の素人物書き

友との別れ。その後・・・

 私は真凛まりん。高校2年だけど、何もかもやる気をなくしていた…。

 本当なら、今頃は友達の姫花ひめかと一緒に、学園祭のステージに立ってたはずなのに…。


 私には幼稚園の頃から、仲がいい幼馴染の女の子がいた。それが姫花である。

 姫花は小学校のころから詩を作るのが好きで、完成してはそれを真っ先に私に見せてきた。

 その詩は、何もわからない私でもいいなと思うぐらい素敵な内容だった。


 私はいつか、自分で好きな曲を作ってみたいと思うようになり、小学校のころから、親に買ってもらったパソコンの音楽ソフトで使い方を教わりながらいろいろ作るようになり、姫花に聞かせたりした。


 中学生になり、姫花か歌を一緒にやらない?と誘われて、自分にできるか不安だったけど、姫花と一緒に歌える嬉しさが強くてOKした。


 メンバーは二人だけだったけど、姫花が作った詩に私がパソコンで作った曲を入れて、それを歌にして一緒に歌うのは、本当に楽しかった。


 でも…そんな楽しい日々は、突然終わりを告げた。

 姫花が16歳のときに、病気で天国に行ってしまったからだ。


「私がいなくなっても、曲作りは止めないで…」

 そう言い残して、私の目の前で眠るように息を引き取った。


 私には無理だった。

 姫花が作った詩が、私の作った曲に合わさることで一つの歌になるのだから。


 その姫花がいなくなった今、誰の作った詩を自分の曲に合わせればいいのだろうか…。


“神様は、乗り越えられない試練は与えない”と誰かから聞いたけど、姫花が死んだときは嘘だと思った。

 同時にこの時ほど、神様を恨んだことはなかった。

 これからというときに、神様は私から一番大切な友達を奪ったからだ。


 ある日の夕方、誰もいない海で思いっきり叫んだ。

「姫花を返せーーーーー!!!!!!」

 腹の底から思いっきり声を出し、しばらく荒い息をした。

「姫花ーー!!! 帰ってきてよーー!!!」

 どれだけ叫んでも、姫花は帰ってこない。それをわかってても、言わずにいられなかった。

「姫花…本当に、いい子だったのに…どうして、16歳で…っ…」

 私は膝から崩れ落ち、姫花の名前を呼びながら叫ぶように泣いた。



 それから半年が過ぎても、私は姫花の死を受け入れられずにいた。

 受け入れてしまったら、姫花の死を認めるのが怖くて、墓参りにも行けずにいる。

 墓参りどころか、家に行くこともできず、それが原因で通夜や葬儀にも参列していないのだ。

 そんな私を、姫花は薄情な友達だと思っているだろう・・・。


 それからまた半年が過ぎて、姫花の一周忌の日が近づいてきた。

 行かなければいけないとわかってても、姫花がいない事実に目を向けられず、家に足を進めることができない。


 ある日、学校から帰ってくると、家の前に年配の女性がいた。

 その女性は姫花の母親で、私を見つけると挨拶して歩み寄ってきた。

「姫ちゃんから、一周忌が近づいてきたら、これを真凛ちゃんに渡してほしいって頼まれてたの」

 そう言って見せてきたのは、一通の封筒。

 私はそれを受け取って、姫花の母親に礼を言って家に入り、自分の部屋で封を開けて中身を見た。

 その中には手紙が入っていて、姫花の筆跡で文字が書かれていた。

 日付は姫花がこの世を去る2ヵ月前…つまり、姫花が私の目の前で倒れて入院してすぐということになる。



 真凛へ


 あなたを置いて先にあの世へ行ってしまうことを許してなんて言わない。


 きっとこの手紙を見てるときも、私がいないことで孤独な思いを抱えがら過ごしてるのかな?なんて思ってしまう。


 真凛の作った曲、私は本当に大好きだった。


 私が作った詩に、真凜が作った曲を入れて一つの歌になったとき、世界に一つしかない宝石を手に入れたような気分だった。


 できればその歌を、私の一番の友達である真凛と、学園祭のステージで一緒に歌いたかった。


 真凛、あなたがこの手紙を見てるとき、私はもういないけど、空からあなたを見守ってるから


 だからどうか、私のお墓の前でも泣かないでほしいの


 きっと私は、そこにいないから


 それどころか、私は風になって自由に空を飛ぶの


 墓の下でじっと眠るなんて、私には似合わないから


 だから真凛も、自由に生きてほしい


 私は真凛から見えないけど、私はいつもそばにいるから


 何十年か過ぎて、真凛が天寿を全うしたら、また会おうね


 そして、空でまた一緒に歌える日を、今から楽しみにしてるわ


 だから、それまでの間は…さようなら


 一番大好きな真凛へ    姫花より



「姫花…っ…」

 手紙を読み終えて、私は静かに泣いた。

(長くないって、わかってたのね…)

 今のままではだめだと、どんなに今が辛くても、前に進まなければいけないということはわかっていた。

 でもそれが、私には怖かった。

 一番の友達である姫花を忘れてしまいそうだったから。

 でもそれは違った。

 前に進んでも、姫花のことを忘れることはないと、この手紙で気づいた。

 そしてこの手紙のおかげで、私は姫花を忘れずに済むとも思った。



 数日後の一周忌の日、私は姫花の家にいた。

 これ以上姫花の死に目を背けないのはもちろんだけど、姫花の思い出とともに前に進んでいく決意を示すためである。

(今まで来ることができなくてごめんね。でも、私はもう立ち止まらないから。だから姫花、これからの私を見てて!)

 お参りをした後、墓参りをして帰り、姫花の手紙を改めて読んだ。


 そして、2年後の三回忌の法事の日。

 私は一周忌の時と同じように姫花の家にいた。

 来ていた同級生たちとお参りをして、昼の食事を終えて雑談を交わして、気づけば夜になり、みんなが帰っても私はまだいた。

 姫花の両親には事情を説明して、仏間には自分しかいない状態にしてもらった。

「姫花、あなたの手紙から歌詞を作って、それに私がパソコンで作った曲を入れて歌にしたの。曲名は「空にいる友より」。これを最初に姫花に聞いてほしいの」

 私は言いながら、ボイスレコーダーをポケットから出して再生ボタンを押した。



 私は風になり 自由に空を飛んでる


 きっと土に帰っても すぐにまた飛び立つわ


 そうしながら いつかあなたにまた会える日を楽しみに待ってる


 私の最高の思い出は あなたの優しい笑顔


 あなたも何でもいいから 最高の思い出を作って 


 そしてまた会ったときに 思い出を語り合おうね


 それまではお別れだけど あなたを忘れないから


 大好きなあなたを 私は絶対に忘れない



 パソコンから流れた曲に、私がスタジオを借りて歌声をレコーディングした音声データを、姫花の遺影の前で流した。

 これを歌っているとき、泣いてしまいそうになったのは余談かな?

(歌い終わってから泣いたのは、誰も知らない事実である)


 一周忌の日から、姫花の手紙を見ながら歌詞を作り、その歌詞に合いそうな曲をパソコンで作っていた。

 そして三回忌に間に合わせる思いで1年半という長い(?)時間をかけて完成したのが、この歌だった。

「姫花は私に「曲作りを止めないで」って言ったけど、どんなにいい曲を作っても、姫花がいなかったら意味がないよ。だから、曲作りはこれで最後にするね」

 姫花との約束を破ることになってしまうけど、私は全てをやり遂げた気分だった。

 だからもう、これ以上曲作りはできないと思う。


「でも、いつかそっちへ行ったら、私が作った曲と姫花が作った詩を合わせて一つの歌にして、また一緒に歌おうね」

 そう言って立ち上がり、姫花の両親に挨拶して家を後にした。


『真凛…素敵な歌を、ありがとう』

 夢の中で、姫花は言いながら私の手に触れて、優しく微笑んで消えた。


 朝になって夢から覚めた時、ふと手を見ると、姫花の手の温もりが残っていた。


 姫花…ありがとう。私も、姫花が一番大好きだよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

友の思いを歌に 正体不明の素人物書き @nonamenoveler

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画