繋がり

@fuyukinkan

壱話 終わりから始まり

「じゃあね」


そう言って杏子は、いつもの元気な笑顔で手を振っている。


「うん、じゃあね」


そう言って私は背を向けた。


………………………………………………·····……


·····……………………………………………………


…………………………


それから三年が経ち、高校生になった。杏子が転向して、それ以来弓道を出来ていなかった。杏子のお爺さんに弓道を教わっていて、そのお爺さんも一緒に引っ越してしまったからだ。弓道で全国に行ければ杏子にもう一回会えるのでは?そう考え、私は弓道部を見に行くことにした。


「君弓道部の体験来たの?」


「はい、そうです」


弓道場に向かう途中、後ろから突然声をかけられた。後ろを振り返ると、ジャージを来た女生徒が居た。上履きの色を見るに三年生なのだろう。


「そっか、じゃあ着いてきて!」


そう言って弓道場に案内された。しかし弓道部とは言っても、空き地に畳に的を張りつけ、そこから少し離れたところに床板と木の屋根を置いただけの仮設道場みたいなものだった。そして先輩は、小屋からゴム弓を持ってきた。


「はい、これ!」


そう言ってゴム弓を渡された。


「これはゴム弓っていって弓の練習をするものだよ。これ使って弓引く練習して。射法八節(ゆ身を引くための八つの動作)っていうのは、あそこの先輩が教えてくれるから」


「わかりました」(まぁ、知ってるんだけどね)


「おーい、てっちゃん、この子に射法八節教えてあげて」


「わかった」


そう言って、ガタイのいい人が来た。


「一応聞くけど君経験者?」


「中一の時だけやってました」


「はぇ、中学から弓道やってるんだ。中学校に弓道部がある感じかな?」


「いや、部活外のチームみたいなところでやってました」


「へぇ、そうなんだ、じゃあ射法八節とかわかってるよね?」


「そうですね」


「今から立が始まるから見ててごらん」


そして先輩達が弓を引き始めた。


「斜面打起し(少し弓を引き分けてから打起す引き方)じゃないんだ」


そうボソッとつぶやく。すると先輩は


「中学の時斜面でやってたの?」


「はい、日置流印西派です」


「そっかぁ、実は俺も斜面なんだよね」


「そうなんですか」


「まぁ、親父が中学から弓教えてくれさ、その親父が斜面だったんだよね」


そう話してる間に先輩達が弓を引き終わった。


「次は俺が弓を引く番だから、見てて」


そう言って手袋みたいなもの(ゆがけと言うらしい)をして、矢を持ち整列みたいなことをしていた。


「はじめ!」


はじめの合図で先輩たちが的の前に立った。さっき話していた先輩を見ていた。弓構えの時点で他の人とは違ってなんとも言えない凄みがあった。そして矢を放った時の勢いも的に中った時の音も他の人とは比べ物にならないくらい凄かった。先輩達が引き終わったので、話しかけに行った。


「すごいですね!ほとんど的の中心に中ててるし、矢の勢いも凄かったです!」


「まぁ、他の人より強い弓使ってるから」


「何キロの弓ですか?」


「直真Ⅱカーボンの二十五キロだよ。親父が元々使ってた弓なんだけどね」


「そうなんですか」


「挨拶しまーす」


そう言って部長らしき人が射場に人を集めた。そこで一日の反省や今後の予定などを話していた。




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