任命式

 最後の楽園「方舟」一人の天才科学者「unknown」が設計した都市。人類が生き残るために作られたこの都市は、多くの問題を抱えていた。都市内での人口の増加、またそれに伴う、資源の消費だ。現在の人類は、約100万人に増加し、更に増え続けている。近い将来、都市内のエネルギー生産量を超えてしまうだろう。この問題を解決するべくある組織が結成された。「資源開発省」別名「死傷」だ。


 この組織は方舟の外での探索を任務とし、方舟で使用できる資源の発見、採取を目的とした組織だ。だが1度探索に出発して無事に帰還する部隊は極少数だ。レイブンだけが無事に帰還する例は、それなりにある。だが、部隊を率いる者は、ただの人間だ。そのため奴等と遭遇するとほとんどが生き残る事が出来ない。また奴等との遭遇率はほぼ100%のため必ず戦闘になってしまう。もし無事に帰還することができれば1人前と組織に認められ、より過酷な場所に送り込まれる。どっちにしても地獄なのだ。そのため、死に至る傷と隠語として使用されている。



 ある一人の武官がその「死傷」へと向けて歩いていた。その男の顔は、女性がつい見惚れるくらいかっこよく爽やかな印象を与える青年なのだが、疲れた様子が分かるほど目が死んでいた。青年は先日無事、軍学校を卒業したのだが、配属先を任命される儀式があり、彼は次席の成績であったため中央「作戦立案省」に配属されると考えていた。

中央は所謂エリート達の集まりだ。出世コースと言ってもいい。色々な課題を現場へと落とす指揮系統のトップだ。

実際は彼の成績は、歴代でも類を見ないほど優秀だったのだが出自が問題視されたため、どれだけトップの成績を取っても彼は万年2番手だった。

彼はため息を付きながら先日のことを思い返す。


 壇上に様々な勲章を着けた軍服を身にまとった肥えたおっさんがなんか長々とくだらない話をしていなぁーと思っていると隣の奴から視線を感じ、そちらへと目線を向けると首席さんと視線があった。どこか不機嫌そうに自分を見る彼女。あら?なにか怒ってらっしゃる。自分なんかやっちゃいました?と思っていると首席さんが小声で話かけてきた。


「結局卒業するまであなたに勝てませんでしたわ、それでも私が首席になるのは全く納得いかないのですが。どれだけ抗議しようと無駄だと、この数年で分かりましたし」


 彼女がジト目をしながら、不満そうに壇上のおっさんを睨んでいる。若干おっさんの顔色が悪くなっている気がするが、それもそうだろう彼女の名は「ニフル・フェンリル」方舟で絶大な地位と権力がある3大企業の一つ「オーディン」トップ、フェンリル公爵の一人娘なのだから。彼女と対等なのは、「シヴァ」と「スサノオ」の身内ぐらいだろう。顔面蒼白になり今にも倒れてしまいそうなおっさんに心の中でエールを送った。


 ようやく顔が青いおっさんの話が終わり。いよいよ任命式が始まった。壇上に一人の美しい女性が現れ周囲にどよめきが起こる。彼女を端的に言い表す言葉があるのなら天上の美の化身、または、女神といってよいだろう。

自分は、なにか映像で見たことある人だなと思っただけだが、ニフルは大変驚いていた。なにせ彼女が公の場に現れることはほとんどないからだ。彼女が前回姿を表している映像が残っているのが約50年前に奴等が方舟に襲撃をかけてきた事件の時に人々の前に姿を現した映像しか見つからなかった。彼女の存在自体が都市伝説になっていたほどなのだから驚いて当然だろう。


 彼女 神話型レイブン「ノア」はどよめきを無視し、唐突に話を始めた。その瞬間

全身に稲妻が走り一瞬を呼吸を忘れてしまった。式に来ていた全ての人間が同じ事を体験しただろう。空気が芯と張り詰めて自分の心臓の鼓動までが聞こえてきそうなほど、場に静寂をもたらした。存在の格があまりに違いすぎると感じた。


「ふふふ、皆さんそんなに怖がらなくていいのですよ。取って食べたりいたしません。あなた達に会えて私はとても気分がよいのです。」


ノアが微笑しながら、こちらを見ている気がした。


「それでは任命式を始めます。まず最初に言いますが、どの配属先だろうと優劣は存在しないと申し上げて起きます。方舟における全ての物、人、なんであろうと重要な資源なのですから。無駄など存在しません。自分は特別などと勘違いをしないように深く心に刻みつけなさい。」


 先程の温和な雰囲気を一変させ、その顔は固く険しい。彼女から放たれた威圧は、ナイフで突き刺されていると錯覚するほどだった。少なからず今の方舟の現状を憂いているのだろう。


 方舟での生活が始まった200年前に現在の制度、貴族制度と君主制が始まった。人民統制と上意下達を効率的に行うため、次世代型AI「ノア」と当時の3大企業のCEOが制度を取りまとめた。これにより階級社会の形成となり、貴族は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となり、名誉貴族として騎士爵がある。その下に平民がある、その下も、、、

当初の内は、自浄作用があったため(三大企業による公安組織を作る、後に形骸化してしまう)貴族による腐敗などもなく方舟の運営は、順調にいっていた。だが、当初の志(人類を存続させ、方舟を不要にすること)を立てた人々が年月が立つほど少なくなり、次代への引き継ぎが円滑に出来なかった。それが徐々に方舟と人々に歪みを作っていくこととなる。


「それでは、まず首席 ニフル・フェンリル 「作戦立案省」階級 少尉」


 式に参加していた貴族の人々から歓声が上がる、隣の彼女を見ると、当然と顔にでているが、やはりどこか嬉しそうだ。彼女はそのまま壇上へ歩いていき、敬礼をし任命書と階級章を受け取っている。ノアがニフルに話しかけているのが見えるがこの場所からでは内容は分からなかったが、ニフルが神妙な面持ちでうなずいているのが分かった。

 それから次々と同期達が、配属先を言い渡され嬉しそうに喜んでいる。あれ?普通首席の次って次席じゃないかい?と首をかしげていると、最後に自分が呼ばれノアに告げられた。


「最後に次席 「、、、、、、、、省」 階級 少尉」


ん?よく聞こえなかった?なんていった?

 「あーすみませんノア様、よく聞こえなったものでもう一度よろしいですか?」

そう尋ねると、ノアはその美しい瞳を真っ直ぐに自分を見つめながら、我が子を慈しむかのように優しく言葉を紡いだ


「次席「資源開発省」です。期待しております。」

うわーノア様、今日1の笑顔じゃありません?

資源開発省、資源開発省、もしかしなくても死傷?・・・・・俺の人生詰んだ。おわた


血が頭から一気に下に落ちていくのが分かった。俺はそのままぶっ倒れた。












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