人滅「Noah's Ark」

真下ハジメ

プロローグ 


 それは突然現れ、人類と敵対した。

 

 人類に襲いかかってきた未知の物体は、人類の99.999%を滅ぼし、地上を支配した。無抵抗に滅ぼされた訳ではない、軍が全ての人員、兵器を投入し禁忌とされている大量破壊兵器まで使用したのだがどれだけ抵抗しようと、奴らは次々と現れ世界中の国を侵略していった。


 各国の国家元首達は、この未曾有の危機に適切な対応を取ることが出来なかったが、ある人物に対策手段を依頼していた。数年前に突如現れた天才科学者「unknown」数々の画期的な技術を発表し、世界中の問題解決に貢献してきた人物だ。その人物と橋渡しになっているのが次世代型AI「ノア」だ。そのノアが各国の元首達が集う会議のディスプレイに映像で現れ、唐突に依頼の対策を発表した。世界有数の巨大軍事開発会社「オーディン」「シヴァ」「スサノオ」が生産し、「unknown」が設計した、殲滅兵器「レイブン」の開発、運用テストを実施、敵対対象の殲滅を行ったこと、人類の安住の地となる都市「方舟」を建築したと。


 戦場におけるレイブンの運用は大成功だった。異常な戦果だったと言えるだろう

プロトタイプ 神話級レイブン「ノア」

 初期ロットとして決戦用に開発された彼女は敵を破壊することに特化して製作された為、人類を守護することは苦手であったが一度戦場に現れれば。彼女は自身に汚れ一つ着けることなく敵を殲滅させた。その姿があまりにも神々しく見えたため戦場の軍属将校達から「戦女神」と異名で呼ばれるようになる。


 ノアだけでなく、初期に開発されたレイブン達は戦場で活躍するだけでなく、民衆を守護するための都市防衛戦でも活躍した、それにより民衆から絶大な人気となる。

レイブンの活躍により、局所的な勝利を収めることが出来たことで人々に希望が生まれたが、あまりに敵の数が多く、味方の数が少なかった。世界中の人々がレイブンに守られ安全に生活をすることができる方舟に入植を希望したが、リソースが限られているためすべての人を受け入れることが出来なかった。受け入れられたのは、ノアに協力した企業を筆頭に様々な研究者や遺伝子が優れている人を中心に集められた。


 方舟が収容できる人数を超えた為、その扉が閉じられた、それでも方舟の外壁には、どれだけの人間が集まっているのかわからない程の人の群れがあった。皆が助かりたいと思い、方舟に入れろと叫んでいる。怒号のように響く人々の声、その声に惹かれるように奴等が集まって来ていた。最初に気づいたのは人の群れの一番外側にいた親子だった。


「お父さん、方舟に入れないのかなぁ。きっとレイブンのお姉さん達が助けてくれるよね」


 娘が私の方を見ながら、ニコニコとした笑顔で見つめてくる。私は正直ダメだろうと思っているが、娘を不安にさせるわけにはいかない、笑顔を作った。


 娘は妻と一緒に街で買い物をしているときに、奴等の襲撃があった。妻と娘は襲撃 場所のすぐ近くにいたため戦闘に巻き込まれてしまった。娘が保護されていると連絡があり、すぐに駆けつけると娘はレイブンの女性と手をつないでいた。彼女から妻のことを聞くと、娘に覆いかぶさるようにして亡くなっていたらしい。間に合わなくて申し訳ないと謝罪があった。つい怒鳴ってしまいたくなってしまったが、娘の泣き腫らした顔と彼女の顔が不思議とダブって見えてしまい何も言えなくなった。

私は、娘を抱きかかえてそっとささやいた「お家に帰ろう、ママも一緒に」娘が抱えていた、妻の遺品を携えて。


 そんな辛い経験をした娘が不安に思いながらも笑顔を絶やさず、私と話している。娘が突然、頭痛と耳鳴りがすると言いだしその場に蹲ってしまった。私も慌ててしゃがんで大丈夫かと心配していると。娘があの日と一緒だと言いだした。どういうことかと娘に訪ねようとした瞬間、周囲に轟音が響き渡った。人々の悲鳴で何も聞こえなくなる。私は娘を抱き、この場から逃げようとあたりを見回した。そして見た、奴等だ、奴等の狩りが始まったのだ。私は方舟の方向に逃げようと娘を抱えたまま、人垣を掻き分けていく。途中で後ろを振り返り、悍ましいものを見た。人間をおもちゃのように壊し、弄び、楽しんでいる。そうまるで、人間の子供がいたずらをするかのようだ。笑い声さえ聞こえてきそうだが、奴等の周囲は、血と臓物で溢れている。私も周囲の人も恐怖に駆られ、より方舟の方へと急いだ。




 彼女は奴等の光景を映像で見て、そして気づいたら走り出していた。守らなければいけない、絶対に危険にさらしてはならないと。

同じように自分と同じ部隊の仲間も走り出し、そして方舟の出口から外へ飛び出した。


危ない奴等は危険だ!本能が叫ぶ

殲滅しなければ危険が及ぶ


危険が及ぶ


に危険が及ぶ


方舟に危険が及ぶ


すべて殲滅しなければ


人も奴等も、、、



 外に飛び出し、一番最初に目についたのは、子供を抱きかかえていた男だった。男と子供はどこか安心したような顔をしていた気がしたが、どうでもいい、はやく処理しなければ。私は、自身の兵器を展開し、最大出力でそれを放った。すべて消え去るがいい。彼女によって放たれたそれは、人々も奴等も平等に蒸発させた。あとには焦土とかした地が残るだけだった。初期ロットとして作られた彼女達は、まだいる奴等を滅ぼし、方舟に安らぎをもたらすために一部が外での活動を選択した。仲間たちの多くは生き残れないだろう。彼女は一度振り返り、方舟の方を見ると扉が閉まり始めていた。それを一瞥し、彼女達は歩み始めた。


方舟の扉が、音を立てて再び固く閉じられた。




人類は徐々に奴等によってその数を減らし、方舟が最後の楽園となった。


これは、現在から200年前出来事だ・・・




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