第68話 冒険者ギルド
「ここが冒険者ギルドになります。乱道様はお強いので、こちらで身分証を作っていた方がお得です。生産者ギルドでも身分証を作れるのですが……どうしても下に見られてしまいますので」
キャロがそう話しながら少し寂しそうに顔を下に向ける。
どうやら生産者ギルドは、冒険者ギルドに集まった魔獣や薬草の素材を分けてもらっているから、下に見られているようだ。キャロは商人だから生産者ギルドに登録しているらしいんだが。
この状況を改善したいのが伝わってくる。
「そうか……なんて顔してんだよ」
俺はそう言ってキャロの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「わっ! 乱道様……むむう」
「キャウ!」
俺の真似をしてか、稲荷がキャロに抱きついた。
「稲荷ちゃん。……はい、では中に入りますよー!!」
稲荷のおかげで少し気持ちが落ち着いたのか、いつもの元気のいいキャロの姿に戻る。
キャロが勢いよく冒険者ギルドの扉を開けると、中にいた奴らの視線が俺たちに集まるのが分かる。
俺っていうか、キャロに。
なんだ?
みんなが一斉にキャロを見つめている。
「能無し王女様……」
「王族なのに才能なし」
「冒険者ギルドに何しにきたんだ?」
「スキルもなんも持ってねーのに」
初めはキャロが王女だから注目してるのかと思えば、どうも言葉に悪意を感じる。
……キャロのことバカにしてないか?
この世界のことよく分かんねーが、仮にもキャロは王族だぜ?
それを一般市民がそんな風に言っていいのか?
キャロは大きなウサミミをピクピクと動かせ、口を横一文字に噤む。
うさぎ獣人だし耳が良くて、周りの悪口が俺より聞こえてるのかもしれない。
言い返してもいいのにキャロは何も言わない。
なんだか感じ悪りぃなぁ。
エセ王国の時も思ったんだが、冒険者ギルドっていい気がしないな。
俺は羽織っていた上着をキャロの頭にかぶせた。
「色々なんか言ってる奴がいるみたいだが、気にすんな。俺はお前のことを尊敬してるぜ。んでさ? もう出ようぜ、俺は生産者ギルドで登録する」
「ふぇ!? そんなことしたら下にみられちゃいますよ!? 乱道様はすごくお強いんだから冒険者ギルドで登録した方がいいですって!!」
キャロは俺の意見を必死に止めるが、その表情は言葉に反して嬉しそうに見える。
「いいから! 行こうぜ」
『そうですね。私も同意見ですね。なんだか良い気がしませんね』
我路が周りの奴らを睨む。
さすが感のいいイケオジ、場の嫌な空気を察したんだろう。
このままだと剣を抜刀して、暴れかねない勢いだ。まぁ紳士な我路は実際そんなことしないと思うがな。
「乱道様……我路さん……」
俺はキャロの方を掴みそのまま冒険者ギルドをでた。
でた後もキャロが本当にいいんですかと何度も言うから、もうその話はすんなっと口を指で押さえたら、なぜか真っ赤な顔して急におとなしくなった。
なるほどな、キャロがうるさい時はこうしたら大人しくなんだな。
俺は一つ学習した。
「ここが生産者ギルドです」
「ほえ~、冒険者ギルドと比べると建物が小さいなぁ」
俺は案内された生産者ギルドを見上げる。冒険者ギルドはレンガで作られた重厚な作りだったのに対し、言い方は悪いねーがちゃちい。
木で作られてて、建物自体の大きさも冒険者ギルドの半分にも満たない。
「……はい。予算もあまりないですし、だから言ったじゃないですか。生産者ギルドでいいんですかって」
「いや、バカにしたつもりはねーんだぜ? さっ、いこう」
中に入ると、さっきの冒険者ギルドとは全く真逆の反応が。
みんながキャロに注目しているのは同じなんだが。
「キャロ様だ!」
「今日はどんな物を持ってきたのかな?」
「変わった薬草とかあるのかな?」
皆がキャロのことを羨望の眼差しで見ている。
キャロはそれを少し照れくさそうにしながら、俺を受付に案内してくれた。
「キャロ様! お疲れ様です。今日はどうされましたか?」
「この方の身分証を作ってもらいたくて来たんだ」
キャロはそう言って俺の腕を掴み受付のカウンターの前に引っ張る。
「新規作成ですね。生産者ギルドで作っていただき感謝します。ではこの魔道具に手を触れてください」
そう言って受付の女性が俺の前に丸い玉を差し出す。これはエセ王国で見た玉に似ているなぁ。
また数値が測れなくて、魔力なしと思われバカにされるか、ってのが頭をよぎったが。
だまって触れた。
すると玉が光り輝き、割れた。
「なっ、こここここっ!? こっれわぁぁぁぁぁっ」
「ららららっ、乱道様!?」
割れた玉を見て受付の女性とキャロが声を上げる。
さらには周りにいた人たちまでもが騒ぎ出す始末。
この反応ってなんかヤバそうな空気が……。
エセ王国と反応は違うみたいだが……。
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