第53話 ミント

「あの……お兄ちゃん?」


 急に手を引っ張られ、ミントが戸惑っている。

 そりゃそうだよな。初対面の男にいきなり手を握られたら。


「あっいや……あのさ? 俺を枯れた井戸の場所まで案内してくんねーか?」


「え? お兄ちゃんを?」


 ミントが不思議そうに首を傾げる。


 枯れた井戸に、何の用があるんだろうと思ってるんだろうな。


「俺がどうにかできるって訳じゃないんだが、ちょっと気になって」


「………良いけど……僕は森に行って宿木の葉ヤドリギノハを十枚は採って来ないと、明日飲む水が無いんだ。それが終わってからで良いのなら」


 なんだ宿木の葉って!? 初めて聞いたが。


『乱道様、僭越ながら……宿木の葉とは、森の奥深くにしか生息していない神木で、一つの樹木に対して葉は二十枚ほどしかつけません。ちなみにその葉は、粉々に砕き水と混ぜますと、ポーションが作れます』


 何だろう? と顔に出ていたのか我路が【宿木の葉】について詳しく教えてくれた。さすが我路。


「何だって? そんな葉があるのか?」

『はい。この世界の市場では一枚が銀貨五枚で取引されていますね』

「銀貨五枚だって!?」

『はい。日本円に換算すると約五千円ですね』

「はぁああああ? じゃあ十枚で五万円!? それを水と交換てボッタクリじゃねーか!」

『そうですね』


 そんな事しなくても、どうにかならないのか?


『らんどーちゃま! 井戸水なら、ワレに良いアイデアがあるでち』

「琥珀?」


 琥珀が胸をぽふんっと叩き、少しドヤ顔で俺を見てくる。


 何だろう……あんまり期待できない気がするのは。


「じゃあお兄ちゃん僕は森に行ってくるね」


「おいっミント! 一人で森に行くのか?」


「大丈夫! 僕は森に行き慣れてるし……僕しか知らない宿木の木の場所があるんだ」


 ミントは大丈夫だからというが、そんなの放って置けないだろ。


「待ってくれ! 俺たちも手伝うよ!」

「え? でも僕何もお返しが出来ない……」

「ガキがそんな事気にすんなって!」

 俺はミントを肩に担いで森に向かって歩き出した。


「今度は右だよ」

「おうっ」


 ミントが道なき道を案内してくれるんだが、俺からすると全部同じに見える。


 同じような木や草が生い茂っていて。見分けろってのが無理な話。


 なのにミントには、道が見えているみたいだ。


「すごいなミント……道を覚えているのか?」

「うん。何となくだけど、僕には宿木までの道が、光っているように見えるんだ」


 えへへと照れくさそうにミントは言うが、それってすごい能力なんじゃ。

 その力を良いようにあのおっさんに利用されているのかと思うと、むかっ腹が立つ。


「ほら! ここだよ!」


「……なっ」


 開けた場所に金色に輝く葉を付けた、高さ二メートルほどの木々が何十本も密集して生い茂っていた。


「これはスゲエな……」

「ふふふ。僕だけが知っている特別な場所なんだ。この場所に連れてきたのはお兄ちゃんが初めてだよ」


 ミントがへにゃりと笑う。


「そんな特別な場所に案内してくれてありがとうな」


 俺は抱き上げていたミントを下に下ろし頭を撫でた。


「えへへ……ちょっと待っててね。今葉っぱを貰ってくる」


 ミントは宿木のところに走っていった。


「ん?」


 ミントの周りを、ブンブン飛んでいるヤツは何だ? 

 キラキラした粉を撒き散らしながら飛んでいる。

 じーっと謎の生物を観察するように見ていたら……!?


「うおっ!?」


 俺めがけて飛んできた。


『ふうん? 君は誰? ここは僕の特別な場所だよ?』


 羽根の生えた手のひら程の大きさの小人が、俺を観察するようにマジマジと見てきた。



 ……何だコイツ!?

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