海、カモメ、女児

波打ち際の流木の上にカタツムリが這っている。昨日は雨ふりだった。

私は遠くのほうを歩いている女の子の足ばかりを見ていた。砂浜よりも白い、きっと傷の一つもない。小さな指の一つ一つはここからでは見ることが出来なくて侘しさが頭を悩ませる。この感情の動きは初恋とも絶頂の時感じる虚無感とも似ている。一人でこんな曇り空の下にいるものか、蜃気楼がゆらり見せる幻じゃないのか、とさえ思ってしまう。青空の下で家族と笑い合っているのがお似合いな、そんな年端もいかない少女だった。


私は足跡が波にさらわれていくのなんて目もくれずズンズン歩み、つい勢い余って小さな足を踏んづけてしまった。「いたい。」とあげられた声はひどく色っぽくて私はつい足に絡まり尻餅をついた。少女も転げてお互いびしょびしょ塩まみれ。

踏んづけられた足の爪は黒く濁って内出血していた。目には涙が浮かんでいて、きっとまだなはずなのにどこかレイプされた後の女に見えた。

私がへりくだって(とても美人な子供だったから)謝ると少女も可笑しくなったのか大笑いして、私も笑った。

「大丈夫?」と訊くと「大丈夫だよ、とっても痛いけど」と答え、いい子だと思った。 

撫でまわしたい気持ちを抑えつつ腰の抜けている少女を抱き上げると波の襲ってこない砂の上に寝かした。


カモメはあまりいないのにやたら数に合わない鳴き声が聞こえる。船のポーという音に隠れていたカモメは一斉に飛び去ってしまって私たちは危うくフンだらけになりそうだった。

「私ね、家出してきたんだ。」

「東京?!ここ福井だよ。」と私は最もらしい反応をした。

親も近くにいない。喜びがこちらを手招きしていた。

唐突ではあったがキスをして、目玉を舐めた。海の水と同じ味がして、内側から湧いてくる何かが宮の戸を叩いていた。

「お、お姉さん、やっ、いや、やめてください。」

「いいじゃない。だって一人で家出してるんでしょってことはこういうこと起こることくらいわかっているよね。」

私は無理矢理少女の服を脱がすと幼さを貪るようにまだ一つの膨らみも無い乳首にかぶりつき、そのまま喰い千切った。

少女は殺されでもするみたいな怖がり方をしてものも言えない様子だった。血がトロトロと乳のように流れる。傷口を赤子がそうするみたいに舐めるたびにそれらしい声を上げた。

痛みと恐怖からか歪な息をして尿を垂らしていた。砂を濡らすそれを見るとこの子はまだまだ子供なんだなという確信が持てた。

カモメはこちらを見るばかりで何もしてこない。誰も集まったカモメたちを蹴散らすことも無い。

仰向けになった少女の口から流れる唾液は乾いた砂の上に落ちる。血液は貝かなにかの穴に入ってどこ暗喩的だった。ただ苦しみしか感じなかったと思うと気の毒で仕方がない。

泣いてもどうにもならないのにやたらに泣く。涙が悩みや恐怖まで洗い流すみたいに。


私は少女に服を着せると片方の乳房の血がいまだに流れ続けているのを見た。やっとどこか後悔している自分が居た。

白いワンピースに赤は良く目立つ、私は「ごめんなさい」としきりに謝り続けた。

少女は何も言わずに海を見ていた。

車に乗り込んでやっと口を開くと「いいんです、だってもうどうせ死のうと思ってここに来たんですから」と諦め多めのため息を吐いた。その息は潮風に流されてすぐ何処かに行ってしまった。

ぐるぐるとやがて海の上を漂うだけの風の一つになってしまった。

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