第9話 えー、先っぽだけでもいいからさふ
「ねえ、さっき勃起してたよね?」
プリクラ機から出て少し離れたところにあったベンチに座った途端玲奈はそんな事を聞いてきた。ひとまず俺は誤魔化す方向で話をしてみる。
「……玲奈の気のせいじゃないか?」
「ううん、絶対してたよ。だって固い何かが当たってたもん」
「ポケットにスマホを入れてたから多分それだと思うんだけど」
「いやいや、スマホは急に固くなったりしないでしょ」
うん、やっぱり気のせいでゴリ押しをして乗り切る作戦はどう考えても無理そうだ。仕方がないので認める事にする。
「はい、勃起してました。これで満足か?」
「私に抱きつかれて勃起したって事はそういう事だよね?」
「そういう事って……?」
嫌な予感がした俺はそう聞き返した。すると玲奈はギラギラした表情を浮かべて口を開く。
「潤が私とエッチしたいと思ってるって事」
「いやいや、いくらなんでもそれは飛躍し過ぎだって」
「でも紗羅ちゃんは貞操逆転してからエッチどころかただ勃たせるだけでも相当難しくなったって言ってたよ」
「それは個人差があると思うけど」
そう答えつつも俺は内心驚いていた。貞操逆転の影響で男性の性欲は著しく減少してしまい滅多な事では勃起しなくなったとは聞いていたがまさかそれほどなのか。
てか、さらっとクラスメイトの下半身事情を暴露するなよ。そんな話を聞かされたら明日から顔を合わせづらくなるだろ。
「もう私は準備万端だからいつでもいいよ」
「……一応聞くけど準備って何の?」
「そんなの一つしかないじゃん。それとも潤は私の口から言わさせたいの?」
なるほど、玲奈はヤル気満々のようだ。だが俺に関しては全然良くない。欲望のままヤリたい気持ちが無いと言えば嘘にはなるが、それ以上に貞操逆転していない事がバレてしまうのが俺は嫌だった。
玲奈に口止めしたとしても何かの拍子にうっかり漏らす事も考えられる。もしそんな事になったら俺の日常は崩壊しねないし、下手したらどこかに連れて行かれてモルモットにされかねない。
「残念だけどさっき元気になってたのは本当に偶然で今はぴくりともしないから無理だ」
「えー、先っぽだけでもいいからさ」
「だからそもそも勃ってないから無理なんだって。てか、先っぽだけでもいいって言葉は絶対それだけで済まないやつだろ」
まさかエロ漫画の中でしか聞いた事がなかったようなセリフを現実世界で実際に耳にするとは思わなかった。そんな事を考えていると不機嫌そうな顔をした叶瀬がやってくる。
「やっと見つけました、私を置いていった挙句二人でイチャイチャするってどういうつもりですか」
「別にイチャイチャはしてないぞ」
「うん、普通に潤と座って話してただけだから」
凄い剣幕の叶瀬に対して俺と玲奈はひとまずそう説明した。その後俺と玲奈はご機嫌ななめ状態の叶瀬を二人でなだめ始める。
最初はプリプリしていた叶瀬だったがステラバックスコーヒーの飲み物を奢ったら機嫌が直ったため案外チョロかった。
「そろそろ遅くなってきたし解散にしようぜ」
「そうですね」
「もうこんな時間なんだ」
杜の街テラスの外に出ると辺りは暗くなり始めていた。ようやくこれで解放される事ができる。
「私はこっちなのでここでお別れですけど、玲奈先輩は帰り道で先輩にセクハラをしないようにしてくださいよ」
「私がそんな事をすると思う?」
「うん、俺は思うぞ」
「即答するって流石に酷くない?」
「玲奈先輩は日頃の行いを思い出すべきです、先輩も何かあったら周りに助けを求めてくださいね」
叶瀬はそう言い残すと俺と玲奈の前から去って行った。
「じゃあ俺達も帰ろうか」
「うん、そうしよう」
俺と玲奈の家はすぐ近所にあるため帰る方向は一緒だ。さっきの事があるため二人で帰るのは少し心配だが流石に何もしてこないだろう。
「そろそろ元気になった?」
「なってないから安心しろ」
「もう一回抱きついたら勃つかな?」
「それをやったらおじさんとおばさんに言いつけるぞ」
「うっ、それは困る」
そんな会話をしているうちに玲奈の家の前に到着した。ようやくこれでお別れができる。
「あっ、分かってるとは思うけど俺が勃起した事は絶対に黙っておいてくれよ。もし誰かにバラしたらもう二度と口をきかないから」
「それは絶対誰にも言わないから安心して、潤が変な女に狙われるようになっても困るし」
もう既に玲奈って名前の変な女から狙われていると言いたい気持ちになったが黙っておいた。それから俺は玲奈と玄関の前で別れて家に帰る始める。家まではここから歩いて三分もかからない距離のためすぐだ。
「今日は本当疲れた……」
朝から色々な事があって完全に疲れ切っている。貞操逆転前には無かったイベントが起こりすぎていて正直もうお腹いっぱいだ。
多分帰ってベッドに寝転んだら一瞬で爆睡だと思う。やっぱり貞操逆転世界ってマジで大変だな。今後は何事も無ければ良いけど。そう願う俺だったがこの時はまだこれが序章に過ぎない事を知るよしも無かった。
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ここで第1章の前半は終わり話がひと段落となります、果たして潤は大丈夫なのか(すっとぼけ)
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