第6話 幼馴染を性悪で邪悪な後輩に寝取られそうになってるって送ったら皆んな快く休んで良いって言ってくれたよ

「それで先輩は私と放課後デートには行ってくれるんですか?」


「それはだな……」


「えっ、ひょっとして潤は華菜ちゃんと放課後デートする気なの?」


「先輩なら行ってくれると信じてますよ」


「潤は行かないって言うに決まってるから」


 行くと答えたら玲奈から文句を言われそうだし、かと言って行かないと答えても叶瀬が怒りそうだしな。うん、どっちを選んでも面倒な事になりそうな気しかしない。


「……分かった、仕方ないから叶瀬と放課後デートに行ってやるよ」


「やったー、ありがとうございます」


「へー、潤はかけがえのない幼馴染であるこの私じゃなくてただの後輩でしかない華菜ちゃんを取るんだね……」


 俺の言葉を聞いた叶瀬は上機嫌に、逆に玲奈は一気に不機嫌になった。睨みつけてくる玲奈を無視して俺はそのまま言葉を続ける。


「ただし玲奈も一緒に連れて行く」


「ちょっと先輩、玲奈先輩がいたらデートにならないじゃないですか」


 案の定叶瀬が文句を言ってくるがこれ以上妥協はできない。ひとまず俺は叶瀬に対して説明を始める。


「いや、流石に付き合ってもない女子と二人きりで遊びに行くってのは抵抗があるし」


「中学時代から長い付き合いがある私と先輩の仲じゃないですか、今更そんな事を気にする必要あります?」


「ほら、今の世の中って貞操逆転してるじゃん。俺も叶瀬の事は信じてるけど万が一の事があったら困るし……」


「先輩は男子なんだからか弱い女子の私より力は強いでしょ、何がそんなに心配なんですか?」


「確かに男の方が力が強いかもだけど、これだけ世間で逆レイプ事件が発生してるんだから普通に怖いだろ」


 俺が不安そうな表情を浮かべながらそう口にすると叶瀬は黙った。ちなみに力の弱い女性は複数人だったりスタンガンや薬物を使って動けなくさせたりするような手口で男性を襲っているらしい。


「……分かりました、特別に玲奈先輩の同行も認めます」


「って訳で玲奈もそれで大丈夫か?」


「少し癪だけど今回はそれで許してあげる」


 しばらく俺達のやり取りを黙って見ていた玲奈も首を縦に振ってくれた。ひとまずこれで丸く収まったようだ。


「それでこれからどこへ行くんだ?」


「うーん、どうしましょう?」


「何も考えてないのかよ」


 叶瀬はノープランだったらしい。まあ、完全に思い付きで俺を放課後デートに誘ったからそれも当然か。


「あっ、じゃあ杜の街テラスをぶらぶらするのはどう?」


「良いですね、完成したばかりでまだ行けてなかったので気になってたんですよ」


 この街に最近できた複合商業施設である杜の街テラスは俺もそのうち行きたいとちょうど思っていた。


「俺も特に異論は無いし、杜の街テラスに行こうぜ」


「じゃあ早速行きましょう」


「うん、楽しみだね」


 それから三人で靴箱へと向かい始めていると周りから結構じろじろと見られる。男子達からは羨望の眼差しや憐れみなど様々な種類の視線を向けられていたが、女子達はギラギラした目で俺を見ていた。


「やっぱりこの視線には中々慣れそうにないな」


「あんまり良い気分ではないよね」


「ですね、私も正直気持ち悪いって思う事ありましたし」


 玲奈と叶瀬はかなりの美少女なため貞操逆転前は今の俺のように男子達から性的な視線を頻繁に向けられていたに違いない。

 俺もほんの少しだけ二人にそういう視線を現在進行形で向けている事は内緒だ。俺は他の男子とは違って元のままなのだからむしろ向けるなという方が難しい。

 ただし貞操逆転前ならまだしも今の二人にそれがバレたら何をされるか分からないため絶対バレる訳にはいかないが。


「そう言えば玲奈は部活行かなくて良かったのか?」


「緊急事態が発生したから今日は休むって女子バスケ部のグループにメッセージをさっき送ったし、大丈夫だと思う」


「本当に大丈夫なのかよ、もし嘘がバレたら結構ヤバそうな気がするんだけど」


 部活をサボって男と遊びに行ったと他の部活の女子に知られたらどう考えても吊し上げられそうな気しかしないのだが。


「私は日頃の行いが良いからね」


「緊急事態の部分は具体的にどう説明したんですか? 絶対ツッコミを入れられたと思いますけど」


「幼馴染を性悪で邪悪な後輩に寝取られそうになってるって送ったら皆んな快く休んで良いって言ってくれたよ」


 叶瀬からの質問に対して玲奈は平然とそう答えた。想像していたよりも遥か上を行く無茶苦茶な嘘に言葉が出ない。

 大体幼馴染が寝取られそうってどんな理由だよ、俺と玲奈は付き合ってないんだから寝取られにはならないだろ。そもそもよくそんなふざけた玲奈の戯言を皆んな信じたな。


「私の事を勝手に性悪で邪悪な後輩にしないでください」


「私的には嘘ではないと思うんだけど」


「多分玲奈先輩とこれ以上何を話しても無駄だと思うのでもうこの話題には触れません」


 玲奈の言い分を聞いて叶瀬も完全に呆れていた。てか、明日絶対どうなったか聞かれると思うのだがその時にどんな説明するつもりなんだろうか。

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