部屋の中
higoro
序
さっきまでごうごうと鳴っていた冷房の風の音は、いつの間にか止んでいた。部屋の中が十分に冷え、室温は安定したらしい。なんだか落ち着かない。白くつるつるしたケースからイヤホンを取り出し、耳に入れる。曲を選び、再生する。耳の穴の中が湿っていて、痒い感触がある。イヤホンを外し、元のケースに戻す。ケースが閉まるとき、ぱちっ、という短い音が鳴った。周期的に冷気が二の腕あたりに当たる。風は吹いているようだが、その音は耳に届かない。机で本を開いているが、全く進まない。音が無い。目は紙の文字を見ているが、頭では他のことを考えている。昔のことなどが浮かぶ。人と喋っていたこととか、授業を受けていたこととかが、断片的に流れる。それら全てが嘘のような気がする。生きているという感じがない。リモコンで冷房の風量を上げる。風の音が聞こえるようになる。何か音がないと、おかしくなってしまいそう。
部屋の中 higoro @higoro_1121
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