第38話 故郷

 タスマン少尉は古戦場での骨折がいえる前に、新たな武具の実戦に向けて修練を重ねていた。

 エオリア戦で最も役に立っていなかったのは自分だった。

 初戦でも牛丼のナンチャラに対してメイの神弓による援護がなければ危なかった。


 火力不足、一撃の破壊力が足らないのは明白だ。


 メイの神弓は別格としても、蟻獅子のハルバート、リンジンの長刀、ミヤビ3姉妹の薙刀と盾剣、どれも自分よりも一撃が強い。


 ガガガガシッン


 今、タスマンが手にしているのはトンファー、しかも金属製。

 棒に横向きの取っ手がついている武具、取ってから短い方は円錐となっている。

 長い方は肘までの長さがあり、受けとして使用するだけでなく、持ち方を変えれば叩くことで戦槌のように使える。


 ネックナイフよりも貫通力は各段にあがった、連射性も悪くない。


 「珍しく熱くなっちゃってますね、僕としては」


 比較的体躯に劣る自分よりも更に小さな少女が意識を失うまで戦い、アエリアという怪物を屠った。

 熱くならない訳はない。


 ヒュクトー隊の蟻獅子討伐に、きっと現れる。

 「こんどは僕が助けるよ!ローレライのメイ」

 

 ずば抜けた資質を持ちながら、修練に身が入らなかった青年が変わった。

 

 

 捨てられたオーガ女の村。

 「母様、行ってまいります」

 「死んではならんぞ、ミヤビ」

 「もちろんです、我々は生きて帰ります」

 ミヤビ、リン、アオイの3人が装備を整えて発とうとしていた。

 「座して待てば、破滅が近づきます」

 「それに、蟻獅子と女神がきっとやってくる」

 「恩は返さねばならない」

 「ヒュクトー隊が何処へ現れるか分かっているのかい」

 「きっと奴らは道中の村を襲う」

 「それも黙ってはいられないよ」

 「子供たちの未来は私たちが守って見せる」


 ミヤビたちは馬を北へ向かって走らせていった。


 リンジンはその長刀を一般的な長さに持ち替えた。

 ただし、両手に持つ2刀流。

 古戦場でみた若い人間の動き、相手に密着して戦う極至近戦闘。

 体格を持たないものが持つ者に勝つ手段。

 見事な技だった。


 踊るように舞うリンジンの剣には独特のリズムがある。

 早く、強く、そして柔らかく変化に富んでいる。

 そして制止。


 シュッシュァァッ


 両手から変則的な軌道を描いて繰り出される居合、同時に縮地により間合いが変化する。

 鋭い一閃が模擬的に設置したアーマーの手首に空いた僅かな隙間に2撃を入れる。

 

 ガラァン


 支柱にしていた木が切断され籠手が地に落ちる。

 ニヤリとリンジンの口元が緩む。


 リンジンの剣は隙間を狙う、両手剣ならば決定打までの組み立ての幅が倍になる。

 神速の一撃は、積み重ねた剣撃から生まれる。

 動きの中から生まれる居合術。


 「私もまだまだ勉強不足、若い者たちから教えられとる」

 「だが、まだまだ若いものには負けんぞ」

 

 古き剣豪も北へ向かって再び歩を進めた。


 メイ用に誂えてくれた防護スーツは上下2ピースの形状、黒く伸縮性がありピッタリとフィットする。

 「ちょっと、宗一郎、これ身体のラインが出すぎじゃない、恥ずかしいよ」

 「それをトップスにしろとはいっていない、アウターはこっち」

 短いショートパンツ、スーツと同じ繊維で出来たベストにはポケットが多種多様についている。

 でも、全身黒い。

 「なんか色気ないなー、真っ黒じゃん」

 「痩せて見えるぞ」

 「なによー、太ってないもん」

 「ぬははっ、戦闘服だ、飾りはいらん、その繊維は細い金属が一緒に編み込んである、簡単に刃は通らんぞ」

 「すごい、なんか無敵みたい」

 「ただ、衝撃は緩和しない、痛いぞ」

 「そうなの、油断できないわね」

 「ちょっとの怪我でもパフォーマンスは下がる、リスクは減る」

 「うん、ありがとう、感謝するわ、宗一郎」

 「それとこれだ、コンパウンドボウも要望どおりだ」

 

 矢を筒や地面に刺して連射をすると、どうしてもタイムラグが生じる。

 弓に5矢をセット出来るように台座を設けてあった、これなら右手を背中や地面方向に伸ばす必要がない。

 その分速射が可能だ。


 「その分重くはなるが、取り回しはいい」

 「さすがは宗一郎、理想的だわ」

 空引きしてみるがバランスはいい。

 「いつものことだけど本当いろいろ、ありがとう」

 「なあに、趣味でやっていることだ、気にするな」


 少し、宗一郎の顔色が悪い。

 「顔色が悪いわね、エンパスで覗いてみようか」

 「よせ、ちょっと寝不足なだけだ、気色悪いから覗くな」

 「なによ、心配しているのに、気色悪いはないでしょ」

 「昔は3徹ぐらい楽にいけたのに、年には敵わんな」

 「50代は辛いわね」

 「むっ、お前だって同い年だろうが」

 「いいえ、17才ですが、なにか」

 「ぬははっ、行ってこい、そして必ず帰ってこい」

 「もちろん、帰ったらまた、美味しい料理頼むわね」

 「うむ、次は酒も付き合え」

 「そうだね、解禁しよう」

 「約束だ」


 ヘリオスとミロクは私が守る。

 復讐だけじゃない、生きなければならない理由が増えた。


 そして、私の無事を祈り、待っていてくれる人もいる。

 成し遂げる。


 「生きて、戦え」


 約束の場所は死地ではない、そこからが始まりだ。

 この家に、この場所に必ずメイを返す。


 メイは見送る宗一郎に手を振りながら故郷を後に戦場へと走り出した。

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