第6話 商隊
商隊の隊列は先頭に隊長セシル、索敵の私が2列目、3列目にスバルと泉、その後に荷馬車3台が続き、しんがりを副隊長の山ちゃんが務める。
1日目は特に問題なく過ぎた。
2日目の難所、谷川が流れる渓谷の道、片側は崖が続き山は深い。
襲われれば馬車は反転できず、進むしか出来ない場所だ。
前後から挟み撃ちにされる可能性が高い。
隊長セシルは、慎重だ。
2日目の午後、進めば夕食前には越えられる距離だったが、途中で日が暮れるのを嫌って、谷入口での野営をすることにしたのだ。
「メイ、あの岩の上で待機お願い出来る?」
セシルが指したのは山側の中腹、前後どちらも見渡せる狙撃には良い位置だ。
「OK、セシル任せて」
最近出没している盗賊団は人間とオーガの混成団らしい、20人ほどの集団、やんちゃ過ぎて軍という規律から外れた者たちだろう。
場当たり的な襲撃が物語っている、荷を下調べすることなく襲い暴れ散らかす。
刹那的で考え無しの行動、欲望むき出しの幼稚さが目立つ。
大儀も理由もなく遊戯で人を殺す。
私は一人で高台の岩の上にエルーと共に一晩を過ごすことにしよう。
集団の中にいると他人の感情が流れ込んできて共感を抑制するのが面倒だった、何より索敵のために人間イージスを発動させると10m以内の人間に敵味方関係なく脳に障害を与えてしまう。
登頂のパドマを発動して、指定方向に共感能を向けることが出来れば、エンパスレーダーそのものが武器となり得るが頭頂のパドマに発動の兆候はない。
エルーは草を食みながら膝を折ってお腹を付けている、背中を付けていると温かくて心地よい。
馬の目以上に可愛く無邪気な目がメイ、いやイシスに向けられている、何かを話しているのだろう、エンパスを持っても鹿語は分からないが安心や嬉しいは分かる。
「いい子だね、エルー」
鼻筋をなでると気持ちよさそうに喉を鳴らした。
ひとり高台から夕日を眺めていると、ちょっとだけ寂しい気持ちになるが、晩秋の夕日は好きだった、過去の出来事が関係しているものなのか、移植した脳そのものが一部しかない状況ではなぜなのかは分からない。
野営設備を広げた荷馬車知覚では煮炊き用の火が起こされ火が見える。
何か鍋を作っているようだ。
日が山間に沈むころにスバルと泉が夕飯の椀を持って現れた。
(なんで、2人でくるのよ、うざいわ)
若い人間の男は苦手だ、性的なアピールが強くオーガを思い出させる。
そればかりではないと分かっているが感じ取ってしまう。
「メイちゃん、夕飯もってきたよー」
「ありがとう、いただくわ」
椀を差し出してくれるがスプーンがない。
苦笑いしながら自分のバックからマイスプーンを出す。
それさえも彼らは気が付かない、宗一郎と比べてしまう。
「メイちゃんと一緒だなんて嬉しいよー」
「あら、どうして、解らないわ」
「なぜって、俺たちメイちゃんと仲良くなりたいんだよ」
目線が胸元に来る、だめだ、それだけで虫唾が走る。
「特に興味ないわ、帰って仕事に戻って」
「つれないなー」
「俺たちと仲良くしてくれれば得するよ」
「そうそう、俺たち、こう見えてそこそこ強いんだぜ」
「もしもの時は守ってあげるよー」
「いらないわ」
「こんな変な弓だけじゃあ、たよりないだろ」
スバルがコンパウンドボウに手を伸ばした。
「!」
メイの右手が腰の戦槌に伸びるとスバルの首筋にあてがわれた、早すぎて見えないホルスタードロー。
「勝手に触るな、殺すよ」
「ひっ」
感受性の薄い彼ら2人にも、委縮するには十分な殺気を共感能で送る。
二人の脳の温度が10℃は冷えただろう。
「仕事中に余計なことを考えていると死ぬわよ」
「わ、わかった、悪かった」
「子供は子供の相手を探しな」
「だって、君は年下……」
「今夜!盗賊団がくるなら今夜、女にちょっかい出してる場合じゃない、自分の責任を果たしなさい」
「はっ、はい」
2人は慌てて丘を降りて行った。
「脅しすぎたかな」
必要なことだ、お調子者は自分だけでなく仲間の命も危険にさらす。
「今日は月明かりがない」
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