第四十七章 最後の切り札

「それじゃあ娘をよろしく頼む」

「はい、任せてください」


 俺たちは娘の美紀みきの救出に成功した。一度部下たちのいるビルまで連れてきた。現在もまだ意識は戻っていない。


「一つだけ言っておく。娘に手ぇ出したら・・・・・・わかってるな????」

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 とりあえず部下たちに睨みを利かせた後、俺はまた外に出た。美紀がいるということはおそらく次射じい君もいると推測できる。ならさきほど美紀を見つけた場所の近くにいるはずだ。


虎二とらじ、さっきのところに戻るぞ」

「わかった」


 俺は虎二を連れてもう一度先ほどの場所に出発した。パトカーを飛ばして急いで向かう。虎二はいつ暴徒に襲われてもいいようにライフル銃を構えている。しかし、虎二の恰好、よくみるとサバイバルゲームに出そうな恰好なんだよな・・・


 ライフル銃に服装は薄茶色のマントを羽織っていて、靴もブーツっぽいものを履いている。おそらく絶対意識して着ている。


 たまにいるよな・・・ゲームと似たような恰好する中二病みたいなやつらが。


 そんなこんな考えていると目的地に着いた。俺はパトカーから降りて辺りを見回す。先ほどまで戦っていた後が残っている。戦っていた長髪男はいなかった。


「奴はいないか・・・」

「あの状態で戦闘できるほどタフでもないようだ」

「逆にあの状態で動ける方がおかしいだろ・・・」


 先ほどの戦いで奴は銃弾をいくつも受けて血もダラダラ流していたはずだ。あの状態で動けるということは驚異的な治癒能力を持っているのか、あるいは・・・・・・


義明よしあき、何をボサっとしている。行くぞ」

「ああ、今行く」


 考えていても仕方がないので俺は虎二のもとに向かい、近くにあった市役所の中に侵入していった。




大場おおば 美紀 ◆

「うぅ・・・・・・」


 目が覚めると私は見慣れない建物の中にいた。ボロボロのベッドの上に横たわっていたようだ。あたりには複数人の警官がいた。なんでこんなところに警官が? ゆっくりと起き上がり体を見るが、傷がすべて治っている。いったいどうして・・・


「お、目を覚ましたか!」


 その時、近くにいた警官一人が私のところに駆け寄ってきた。その人の顔はどこか見覚えがあった。


「あなた、もしかして・・・・・・森下さん?」

「そうだ。覚えていてくれてたんだね」


 そういうと森下さんは笑みを浮かべた。私はとりあえず疑問をいろいろぶつける。


「なんで森下さんたちがここに・・・?」

次射じい君のお母さんから大場警部に連絡があってね。もしかしたら虎二さんを追っているんじゃないかってね。それを聞いて警部が大慌てで俺たちを動かしてきたんだよ」

「お父さんが・・・?」

「君を俺たちに預けた後、次射君を探しにまた出てしまったけどね」


 その話を聞いて居ても立っても居られなくなった私はベッドから降りてまた戦闘準備を始める。


「おい、どうしたんだ?」

「お父さんたちを追いかけます」

「待ってくれ!」


 すると森下さんが私の前に立ちふさがった。


「君はさっきまで重傷だったんだぞ! いくら回復しているからってその状態での戦闘はとてもじゃないが無理だ! それに俺たちは大場警部に君のことを任せられている!! 一人君を外に出すわけにはいかない!!」

「でしたら森下さんもついてきてください」

「何っ?」

「森下さんを連れて行けば私が動けなくなった時もすぐに撤退することができます」

「それはそうだが・・・」

「時間がありません、お願いします」


 そう言い私は頭を下げた。森下さんは少し戸惑っていたが少しして「はぁ~」というため息が聞こえた。


「わかった。俺もついていく」

「ありがとうございます」

「お前たち! ここの管理は任せたぞ!」

「了解です!」


 私はパトカーに乗せてもらい、お父さんの後を追った。



◆ 大場 義明 ◆

「暗いな・・・」


 市役所に侵入した俺たちだったが建物の中はかなりほころびていた。やはり町の人たちが暴徒化してからしばらく経っているのか?


 すると虎二が突然進行方向に向けて銃を発砲した。向こうからは暴徒たちの声が聞こえる。


「やはりここにも暴徒がいるか。しかし外と比べて数が多い」

「ここに暴徒が出現する秘密があるってことか!!」


 俺たちは改めて武器を握り構えた。前方の暴徒が数人、俺の方に襲ってきた。が、素早い早撃ちで暴徒数人の脳天を撃ち抜いた。倒した油断を突いて一人の暴徒が後ろから不意打ちで仕掛けてきた。その攻撃を俺は避けて腕をつかみ背負い投げをする! そのまま奥にいる暴徒たちに発砲! 血を吹き出しながら倒れていった。


 虎二の方も距離があればライフル銃でヘッドショットを浴びせる。接近してきたら’飛翔’の魔法で天井ぎりぎりまで飛んで攻撃を回避。そのまま急降下し、暴徒の頭を踏みつける!


 すると奥で「ドォォォォン!!」と轟音が聞こえてきた。この音は・・・


「おそらく次射の黒雷だろう」

「急ごう!」


 俺たちは暴徒たちをはらいながら奥に進んだ。すると案の定次射君がいた。隣にもう一人いる。おそらく次射君の友達だろう。


「次射!!」

「次射君!」


 俺が声をかけると次射君がこちらを見た。


「虎二! 生きておったか! あなたは美紀の・・・」

「よかった! 美紀がいたもんだからいるとは思ったがまさかこんなところに・・・」

「美紀は今どこに!?」


 俺が美紀の名前を出した途端、次射君が俺の肩を掴んで迫ってきた。おお、なんだぁ!?


「安心しろ、俺の部下たちに守られている。もう保護した」

「・・・そうか」


 安心した表情を浮かべながら次射君はゆっくり深呼吸をした。


「なら、外に出てこの施設もろとも破壊するか」

「ん? なぜだい?」

遅延ちえの推測によればここに暴徒として脳を狂わせる装置があるらしい。わしらはさっきまでそこの近くにいたんじゃが・・・」


 その装置、もっと奥だよな? なんでこっち側に・・・


「とにかく、今から戻っては時間がかかる。じゃから外から建物ごと破壊しようという寸法じゃ」

「なるほど、わかった。それじゃあ引き返すぞ」


「そうはいきませんよ」


「!?」


 次の瞬間、俺たちはいつの間にか宙に舞っていた。そのまま全員、地面に倒れ伏した。


「な、なんじゃ今のは!?」

「今のは・・・奴か!」


虎二の視線の先には俺たちと一度戦った長髪男、そしてもう一人見慣れない人物がいた。


「長髪男!!」

毛呂二もろに!!」

「おや、名前も覚えてもらっていないとは・・・悲しい。私は加櫻かざくら 棟吾とうごですよ」

「加櫻!? じゃあお主は兄の方か!!」

「あなたが次射ですね。弟がお世話になったようで」


 長髪男は相変わらずスーツを着ており、先ほどの戦いが嘘だったかのように傷一つなかった。だが先ほどまでの笑みとは違い、とてもじゃないが怒り狂った顔をしていた。もう一人、次射君が叫んだ毛呂二とかいう男。40代くらいだろうか。背はそこまで高くはない。167cmくらいだ。そしてなぜか不思議な雰囲気を漂わせている。


命の塊ハート・ストーンの製作者、黒速くろはや 虎二。そしてその息子であり、数々の事件を解決してきた黒速 次射」

「なぜわしらの名前を!?」

「わしはこの世界のすべてのことを知っている。いわば現代の神というべきかな?」

「何をバカなことを!」

「わしの能力なのですよ。わしの属性は’知見’。世界のあらゆる知識、出来事が手に入るのだ」

「バカな!?」


 そんな魔法聞いたことないぞ! それにいくら魔法でも個人が持つ魔力には限界がある。そうなるとこいつ、魔力がとんでもなく高いのか!?


 すると毛呂二が一歩前に進もうとした。だが加櫻が手を前に出して制止する。


「毛呂二さん、まずは私から行かせてもらってもいいでしょうか?」

「ふうむ、いいだろう。弟の恨みを存分にぶつけてやれ」

「感謝します」


 そして毛呂二は二歩ほど下がり代わりに加櫻が前に来た。


「さて、次射。弟の恨みを晴らさせてもらいますよ!!」


 その瞬間、次射の目の前に加櫻が出現した! 素早いアッパーカットを浴びせた! 次射は反応することができずにもろに喰らってしまう!


「次射!」


 遅延君がゴーレムを瞬時に生成し、加櫻に向かわせたが腕を一振りするだけで全部のゴーレムを砂に変えてしまった。


 虎二もまたライフル銃を構え、発砲しようとする。だが、瞬間移動してきた加櫻が虎二のライフル銃を弾き飛ばした! 虎二はとっさに近接武器を取り出そうとしたが足蹴りをくらわされ、倒れた。


俺も加櫻に向けて発砲したがそんなもの瞬間移動している奴にあたるはずもなく一瞬の隙を突かれて俺は正拳突きを食らった。血を吐き出して俺は倒れた。


「ま、マジかよ・・・」


 俺たちは開始1分も経たずに既に全滅状態に追い込まれてしまっていた。その中でも次射だけ一人立ち上がっていた。


「私の今の攻撃を受けてなお、立ち上がりますか」

「悪いがお主を相手にしとる暇はないんじゃ・・・」

「じゃあ無理やりでも邪魔してあげましょう!!」




◆ 黒速 次射 ◆

———あれを使った時の感覚。


 最初はそういうもんなのかと思っていたがどうも違う。体から不思議な力が沸き上がるのはまるで・・・



 加櫻が視界から消える。おそらくまたわしの前に現れては攻撃を仕掛けてくるじゃろう。じゃが今回はそうはいかない。


——効果範囲60cm・・・MP消費120・・・指定数字は・・・70・・・



 そしてわしは発動させた。あの禁じ手を。


 加櫻が一瞬にしてわしの前に現れる。拳を構えて。じゃがわしはそれよりも早く拳を動かしていた。わしの拳が加櫻の顔面にヒット!


「な、にぃ!?」


 加櫻は少し吹き飛ばされた後、体を起き上がらせる。


「バカな!? 私の次元速拳ディメンションクイックジャブに対応しただと!?」

「次射! それって・・・」

「ああ」

「でも、なんで奴の攻撃が見えてたんだ!?」


 今の状況にまるで理解できていない遅延。わしは話す。


「あの技は周囲の体を衰えさせる魔法。じゃが使い方によって変わる。例えば

「まさか!?」

「そうじゃ。そしてこの魔法を調べたときに見つけたんじゃがこれはどうもただ体を衰弱させるものではないんじゃ」

「・・・というと?」


 この世界は年齢によってステータスが上昇する。技能レベルというものもあるがステータスの上がり具合はたかが知れている。だからこそこの技で年齢を強制的に上げて、ステータスを向上させる。じゃからさっき加櫻の動きが読めたのだ。


「これがわしの最後の切り札。老化強制能力解放カルデラ・ドライブ!!」

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