EP.8 夕食後の雑談。そして……
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登場人物紹介
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「お義兄ちゃん」
健一は、リビングのソファで寝転がり、スマートフォンのゲームをプレイしていると、キッチンに居る玲香から声を掛けられた。
「なに?」
健一は身体を起き上がらせ、答える。
玲香はキッチンからこちらに歩いてくると、向かいのソファに座った。
「もう洗い物終わったんだ」
健一が言う。
「ええ」
玲香は夕食後の洗い物をしていた。
「いつもありがとう」
健一は感謝の言葉を述べた。
「いいのよ。食器の片付けはいつもやってもらっているし、――それに、自分の部屋に戻らず、こうしてリビングにいるのも、なにかあれば手伝えるようにでしょう?」
「…………買いかぶりすぎだって」
「そうかしら?」
「そうだよ。――僕はこのソファで、寝っ転がるのが好きなだけだから」
「……そういうことにしておくわ」
「……だから違うって……。――て言うか、なにか用があったんじゃないの?」
ここまで見透かされるとむず痒くなるので、話を変える。
「ああ、そうだったわね。たいした話じゃないのよ。――さっき、スマホでゲームやってたでしょ?」
「うん」
健一がプレイしていたスマートフォンゲームは『ブレイヴ・アークス』という名前のゲームだった。
神話・伝承に登場する『伝説の武具』が少女の姿――アークスとなり、「
だが、正直、
サービス開始して五年経った今でも、サービス終了していないのが奇跡なぐらいだ。
実際、健一の
だが、そんな『ブレイヴ・アークス』が健一は大好きだった。
「面白いの?」
「……面白いというか……日課みたいな感じかな」
「日課?」
「デイリーミッションがあるから、それはやっておかないとね」
だが、
「デイリーミッション?」
玲香が首を傾げる。
「スマホゲームのデイリーミッションっていうのは、毎日そのゲームの中で用意されている『お題』みたいなものだよ」
「お題?」
「そう。例えば『ゲームにログインする』、『ゲームを一回プレイする』みたいに、小さな課題がいくつか出されるんだ」
「……………………」
「で、その課題を、ご褒美としてゲーム内のお金とかアイテムがもらえるんだ。――これがデイリーミッションかな」
「……………………」
玲香はそれを聞いて、考え込む。
健一が説明した内容を咀嚼しているようだ。
しばらくの後、玲香が口を開いた。
「……改めて訊くけど……それって、
「うっ……」
痛いところを突かれる。
これは健一としても、答えを出しあぐねていることだからだ。
「…………どうだろう。最初は面白かったと思うけど、もう数年やっているゲームだから、惰性になってるかな」
「……わからないわね。なんで惰性でゲームをやるの?」
「……それは……」
玲香の素朴な疑問に言葉が出てこない。
確かに、今やプレイしていて面白い――とはあまり思ってはいない。
正直、プレイすることが
だが――
「…………結局、このゲームが
「好き?」
「うん」
健一は頷く。
「ゲームとしてはやり尽くした感じはあるけど、世界観やキャラクターは好きだし、ついやっちゃうよね」
色々と理由はあるが、結局はそれだ。
そうでなければ、
「……………………」
忘れようとしていた記憶が蘇る。
胸の奥に、針で軽く突かれたような痛みが走る。
――大丈夫……もう昔のことだ……
「お義兄ちゃん?」
玲香が健一の変化に気づいたのか、心配そうに言う。
健一は、努めて明るい調子で言った。
「後は、今まで課金を結構してるから、それを無駄にしたくない、というのもあるかな」
「そう……」
玲香はそれ以上追求してこなかった。
おそらく、話したい話題ではないことに気づいてくれたからだろう。
健一は玲香に感謝した。
「それで、結局玲香は、なにが訊きたかったの? 『ブレイヴ・アークス』に興味があるってこと?」
健一は言った。
「……深い意味はないわ。ふと、気になったから訊いてみただけよ」
玲香は肩をすくめて見せた。
そして、続ける。
「私にとってゲームは、この前お義兄ちゃんとゲームセンターでやった
「それって、ファイ○ルファイトのこと?」
『ファイ○ルファイト』とは、ベルトスクロールアクションゲームの傑作である。
玲香と同居して三日目、ゲームセンターで一緒にプレイしたゲームでもあった。
「ええ」
玲香はその時のことを思い出したのか、楽しそうな口調で言う。
「あの時は、楽しかったわね」
確かに、あの時の玲香は楽しそうだった。
初見プレイでクリアするぐらいの腕前なのだから。
足を引っ張っていたのは明らかに健一の方だった。
「本当に楽しかったわね。
玲香が、『ゲームセンター』を強調して、言った。
そんな玲香の言い方に違和感を感じた。
「……う、うん……?」
「
「そ、そうだね……?」
なぜか、ひたすらゲームセンターが楽しかったという話を繰り返す玲香。
――なにが言いたいんだろう……
と、胸中で独りごちた後、ようやく気づいた。
――まったく……
「そういえばさ」
健一は、わざとらしくなり過ぎないように、努めて軽い口調で言った。
「なにかしら?」
「この前一人でゲーセンに行ったときに、一人でファイナ○ファイトをやったんだけど、かなりコンティニューをしないとクリアできなかったんだ」
それは、玲香に告白された翌日の話だった。
玲香のことを考えながら、繁華街を歩いていた時、自分の考えを見つめ直す際に、ゲームセンターに寄ったのだ。
「お義兄ちゃん、一人で行ってたんだ……」
なんだか不満そうな玲香。
それを見て、健一は、確信した。
「だからさ、玲香に
「お願い?」
「なんだか、僕にはあのゲームは難しいみたいなんで、玲香に
健一は、大げさに両手を合わせ拝むような仕草をした。
「仕方ないわね……私がしっかり教えてあげるから」
そう言う玲香の顔は普段通りの無表情に見えた。
だが、よく見ると口元が緩んでいる。もっともこれは、健一でなければ気づかないだろうが。
――やれやれ……
健一と玲香は、その後、ゲームセンターに行く日を話し合うのだった。
*
「やっぱり
嬉々として健一に
『……真田君も大変ね……』
詩穂美は呆れ声だった。
*
夜、健一は夢を見た。
それは中学二年になってすぐの頃の夢だ。
窓際の一番後ろの席で、健一は頬杖をつきながら、窓越しに青空を眺めていた。
「ねえ、その鞄についているのって、
「え?」
振り返る。
そこにいたのは、まだ名前も覚えていないクラスメイトの少女だった。
短く切りそろえられた髪が、窓から差し込む春の光を受けてきらりと揺れていた。
少年のようにすっきりとした輪郭に、ぱっと花が咲くような笑顔が印象的だった。
少女は、健一の鞄に付いているキーホルダーを指差していた。
健一は鞄に『ブレイヴ・アークス』の推しキャラである
「自己紹介聞いたよ。キミって、『ブレイヴ・アークス』好きなんだ?」
「う、うん、そうだけど」
そういえば、二年になって最初の自己紹介の時に『ブレイヴ・アークス』の事を話してスベり散らかしたこと思い出した。
「実はボクも『ブレイヴ・アークス』が大好きなんだよね。――ねえ、少し話さない?」
それが、中学時代に片想いをしていた――
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登場人物紹介2
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