EP.7 ラーメンライス大好き神楽坂さん
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登場人物紹介
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日曜日の昼過ぎ。
――昼のピークは過ぎたかな……
L字カウンター八席に四人用テーブルが二つ。
これが田島が、脱サラして開業したラーメン店、『らぁめん たじまや』の全てだった。
開業当初は、まったく客が来なくて苦労したものだが、五年経った今はそれなりの繁盛店になったと思っている。
ようやくここまで来たか、と思う。
あえてラーメン屋を開業するぐらいだから、田島にもラーメンに関しては強いこだわりはある。
だが、過剰なこだわりは独りよがりになり、一部のラーメン好きにのみ好まれる
それでは未来はない。
開業後一年以内でも四〇%、三年以内なら七〇%が廃業するのがラーメン屋だ。
まずは生き残らなければどうにもならないのだ。
故に田島は、気軽に入りやすく、そして居心地の良い店を目指した。
ラーメン以外のメニューにも力を入れ、手を抜かないようにした。
ラーメンにしても、個人的には、味噌ラーメンに、力を入れているが、それだけではバリエーションに欠けるので、醤油、塩、トンコツも取りそろえていた。
おかげで経営は安定し、廃業する予定は今のところない。
混雑時は行列も出来るぐらいの店にすらなった。
だが、油断は禁物だ。
さらなる店の発展を考えると、さらに『たじまや』ならではの
ピークを過ぎた店内はすっかり落ち着いていた。
それでもガラガラというわけではなく、空いている時間を狙って、来店している常連客が数人がいた。
その常連にもラーメンは提供済みなので、手持ち無沙汰だった。
「
田島は学生アルバイトの高橋
「え、いいんですか? まだ昼営業、終わってないですけど」
高橋里美は、南城高校の生徒で去年から、『たじまや』でアルバイトをしている。
ラーメン屋のアルバイトは、ハードなので、女子高生の細腕でどこまで続くかと思ったが、その働きぶりは男顔負けだった。
今や一番頼りになるアルバイトと言えば高橋と断言できた。
そんな大事な従業員だからこそ、無理をさせて、辞められたら困るのだ。
「もうピークは過ぎたし、後はオレだけで大丈夫だから」
「そうですか? じゃあ、休憩させて――って、ちょっと待ってください」
と、高橋が驚きの表情を見せ、田島の後ろに隠れた。
「どうした……ああ、お客様か」
引き戸が開き、二名の客が入店してきたのだ。
二人は、入口近くにある券売機で食券を購入している。
「高橋、二名ぐらいならオレ一人で大丈夫だから、気にせず休憩してくれ」
「そうじゃないんです!」
「どういうことだ?」
「あの二人、知り合いなんです!
田島はその二人の方に視線を向ける。
一人は少年だった。
チェックシャツにジーンズ姿の、中肉中背で顔立ちも普通だが、とても優しそうな顔した少年だった。彼ならば、グルメサイトに悪質レビューをするようなことは絶対にしないだろうな、と思った。
――本当に厄介な客はいるからなぁ……
過去の
もう一人は黒髪の少女だった。
切れ長の目にその整った顔立ちはとても上品で、ある種の神々しさすら感じさせる――そんな
艶やかな長い黒髪は、後ろでまとめてポニーテールになっていた。
気になるのは、なぜか服装が上下とも
もっとも、服装がジャージ姿であろうと、少女の美貌を損なうようなものではなかったが。
そして印象的なのはその表情だ。
券売機でメニューを選ぶその顔は、可憐な外見と裏腹に、真剣そのものだった。
その目は、獲物をとらえようとする
少女の視線が、券売機のボタン一つ一つを正確に追う。
その姿勢に、一切の気のゆるみは感じられない。
これからの一食を悔いのないものにするための、真剣さだった。
ラーメン屋の店主をしている田島からすれば、その光景は感動モノだった。
これほどまでに、ウチのラーメンと向き合ってくれる者がいるのか、と思った。
店内にいる常連客も、同じ思いのようで、少女に自然と目が行っていて、目が離せないようだ。
田島は、高橋の方に向き直った。
「それで、高橋はどうしたいんだ? 休憩はバックヤードではなく、あの二人の食事に混ざりたいということか? 今は休憩中だからその辺りは好きにしてくれていいが……」
田島の質問に、高橋はぶんぶんと首を振った。
「とんでもない! 二人の
「邪魔って……クラスメイトなんだろ?」
「そうなんですけど……やっぱり、
高橋里美の言っていることは、田島にはイマイチ理解できなかったが、無理に理解する必要はないと判断した。
田島は、肝心なことを訊くことにした。
「なら、どうしたいんだ?」
「厨房にいて、二人の様子を眺めていたいんです。――店長の邪魔にならないようにしますから」
高橋の言うことは、田島には理解不能だった。
「まあ……別にいいが……」
田島は、今時の若者の考えることはわからないな、と思いつつも了承した。
「お願いします」
少年の方が、二人分の食券を持ってきた。
田島は、食券を受け取る。
「注文承りましたので、お好きな席に座ってください」
「はい」
少年と少女は、カウンター席に二人並んで座った。
自分の背後を見ると、そんな二人に見られないように、高橋は厨房内の自分の位置を調整していた。
――なにしているんだこいつは……まあ、気にしないでおこう……
田島は調理を始めた。
注文内容は、一人が塩ラーメンに半ライス。もう一人が炙りチャーシュー味噌ラーメンに
注文内容的に、前者が
――餃子は二人でシェアかな……
店としては、シェアは好ましいものではないが、餃子に関しては、メインの料理をそれぞれが頼んでいるのであれば禁止はしていない。
――まあ、二人はカップルなんだろうし、そうなるだろうな……
田島は手早く調理をすると、二人に提供した。
「はい、どうぞ」
と、少年に、まず炙りチャーシュー味噌ラーメンをカウンターの付け台に置いた。
「ありがとうございます」
と、受け取った味噌ラーメンを、
「はい」
「ありがとう」
それを見て、田島はようやく気づいた。
――ということは、注文はすべて逆ということなのか?
田島は半信半疑ながら、少年の目の前に
二人は特に何も言わずに、受け取った。
――マジか……
田島は胸中で驚きの声を漏らしていた。
だが、驚きつつも納得している自分がいた。
これが、少女の
そしてそれが、『たじまや』の
よくぞこのメニューを選んでくれた――とすら、思った。
「じゃあ、食べようか」
「そうね」
二人は両手を軽く合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
そして、二人は食べ始める。
あれから新しいお客様も来店していないので、つい少年と少女の方が気になってしまう。
洗い物をしながら、二人の方に視線を向ける。
そこで、田島はあることに気づいた。
――餃子、
二人仲良くシェアして食べるものと思っていた餃子は、少女が一人で食べていた。
少年の方は、餃子に手を付けるそぶりすら見せていない。
塩ラーメンと半ライスで、十分といった感じだった。
――それにしても……
田島は少女の食べる姿に、目が離せなくなっていた。
少女は、一定のペースで淡々と食べ続けているが、その箸さばきはあまりにも美しく、まるで
ラーメンの麺をすすり、具を食べ、ご飯を食べる。
その後に、焼きたての餃子を食べ、ご飯を食べる。
見事な食べっぷりだった。
田島だけでなく、常連客も少女に釘付けだった。
背後に居る高橋は、そんな少女を見て狂喜乱舞していたが――こちらは気にしないようにしよう。
そして少女は麺をある程度の量をすくうと、その麺をご飯の上にのせた。
それは、簡易的な
――おお……
その食べ方は、田島的にはイチオシの食べ方だった。
中太の縮れ麺はよくスープと良く絡み、ご飯と一緒に食べるにぴったりだと、田島は常々思っているからだ。
無論、それを強要することはないが、この食べ方をしている人が気になってしまうのは仕方ないことだった。
少女は、ご飯と麺を一緒に口に運び、食べる。
「…………うん……美味しい……」
少女は、満ち足りた表情をしていた。
「おお……」
田島はそれを見るだけで感無量だった。
そしてそれは田島だけではなく、店内の常連客達も同じだった。
田島と常連客達は、お互いに顔を見合わせ――こくりと頷き、少女の食べっぷりを静かに見守る。
背後に静かに見守れない奴がいるのだが――それについては、放っておいた。
やがて、少女は味噌ラーメンと大盛りライスと餃子というボリュームたっぷりのメニューを綺麗に食べきってしまった。
少女は水を一口飲み、両手を合わせ、
「ごちそうさまです」
と、透き通った声で言った。
「
少年が驚いたような表情で言った。
「
「いやいや、神楽坂さんとは量が全然違うから。――どう、満足した?」
「そうね。大満足だわ。――また来たいわね」
「そうだね。また来ようか」
「ええ」
そして、二人は立ち上がり、
「ごちそうさまです」
と、こちらに会釈をすると、店を出た。
「あ、ありがとうございました!」
田島は二人が店を出る前になんとか声を出した。
そして、『たじまや』に静けさが戻る。
田島は常連達と顔を見合わせ、その余韻に浸っていた。
すると――
「あれが……『黒姫様』よ」
高橋が腕組みしながらドヤ顔で言った。
「……黒姫様……か……」
口に出してみると、あの少女にふさわしい名前だな、と田島は思った。
*
『らぁめん たじまや』
それは、南城高校近くの繁華街にあるラーメン屋である。
その『たじまや』に、とあるセットメニューが追加された。
セットの名称は『
セットの内容は『炙りチャーシュー味噌ラーメン+大盛りライス+餃子』の組み合わせである。
店長と一部常連の
あまりにボリュームがありすぎるそれは、人気メニューになることはなかった。
だが、それでもメニューとして、残しておきたかったそうだ。
余談だが、そのセットメニューには、
正式名は――『
命名は、『たじまや』の
そんな『Kセット』は、常連達と、何故か
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