第12話 邂逅・嵐
「あ、どうもー。申巳です」
フードコートに向かうと、すぐに申巳を見つけられた。
隣に立っているサルミアッキがデカすぎたからだが、どうやら他の一般人には視えていないらしい。
「もうご飯食べました?
そこのインドカレー美味しいですよ」
「もう食った。世間話はいい、用件は?」
ザーニャちゃんが一歩前に出て、さり気なく僕とクイーニャを庇い立つ。
「そんな身構えないでください、別に襲いませんよ」
「信用ならないな。実績がある」
身構えたままのザーニャちゃんに嘆息し、申巳が気怠そうに立ち上がる。彼が懐に手を差し入れ、それを見たクイーニャと僕も、何が来るかと一気に身構える。
が、彼がスーツの内ポケットから取り出したのは、一見なんの変哲もない名刺だった。
「んだコレ……別に変な術式付与はされてないみたいだが」
「ホントだ、ただの紙っぽいね。むしろ、極小電子チップも入ってない名刺なんて今どき珍しい」
「えぇ、実際ただの名刺ですから」
ザーニャちゃんからクイーニャに、それから僕に回ってきた名刺を見る。確かに何の変哲もない名刺……
「前言撤回、なんだこりゃ」
『申巳♡アキ ☆防衛警察特殊顧問陰陽師☆
ゴーストに妖魔、不可思議のバスターはお任せあれ♪ 事務所〒○○○−○○○○』
「名刺ってよりは……ティッシュに挟んで配られてる広告みてぇだな。うさんくせぇ……」
うっかり本音が口から漏れ、申巳が ガーン! と音が聞こえる程にショックを受けた顔をする。
「な、ななな……ちゃんとケータイで調べましたよ、みみみ、みりょぬ的な謳い文きゅの書き方!!」
「噛みすぎて何言ってるかわかんねぇよ、焦りすぎだろ。何で調べたらこうなる、ほんとにネットか? 携帯見してみ」
呆れて問うと、申巳が素直に携帯を手渡してくる。戦闘中は人格が変わっちゃうのだろうか、無防備な様は(見た目)年齢相応の子供のようだ。
「……ってコレ、ガラケーじゃねぇか何時の時代から来た! ボロい!!
ってかこれ、ネットも電波も繋がってないぞ」
ボロッボロのガラケーである。数十年前に使われていたらしい形式のデバイスだ。
申巳が再び、 ガーン! と(以下略)。
「そ、そんな……衛警の人は、倉庫からわざわざ持ってきた最新型だって言ってたのに……」
「完全に騙されてるな。
ガラケー、ガラハッドケータイって、古文書の英雄サマだかみたいに 真面目な優等機種! って謳われてたものの、実際は通話以外ロクに出来ないってシロモノだぞ。古文書ファンから、その名を冠するな! って苦情が出たレベルらしい」
まぁ、開閉ギミックは楽しいけどな。
そこまで言って、違和感が引っかかる。
「いや待て、その圏外表示で且つ、そもそもネット機能なんて付いてないデバイスでなんで検索なんて……」「くッ、バレたァッ!?」
「「うぉわッ!?!?」」
急に携帯が喋った。かと思うと、画面が割れ、紫色の煙が立ち上る。
「そのケータイ、低級悪魔じゃねェか! 誰かがバレたら消滅って条件で植え付けてやがったな」
ザーニャちゃんが声を上げ、全員が身構えると同時に轟音が響き渡る。フードコート四方の壁が崩壊し、パワードスーツの部隊が突入してくる。
「全員手を上げろ、さもなくば撃つ! 上げても撃つ!!」
「「「「「
「問答無用かよッ!?」
頭上に無数の青い剣が顕れ、頭上に降り注ぐ。
が、黒い煙が突如湧き上がり渦巻いた途端、頭上の剣と四方の瓦礫が音も無く消え去る。
「な、ッ……!? 総員、防御態勢!」
「「「「え、
砂塵が晴れ、見慣れた防衛警察のモノとは違う、オレンジ色に青い線が入った意匠の一団が見え、彼らの詠唱により顕れた青く輝く盾が立ち並ぶ。
その異様を前に、身一つ動かしていなかった申巳が立ち上がる。先程までの表情豊かな顔は何処へやら、全ての感情が抜け落ちたような相貌……
「いや、あれは感情が無くなってるんじゃない」
僕の考えを見透かしたように、ザーニャちゃんが重く口を開く。
「……黒だ、あれは。全てが混じり合った、取り返しのつかない……黒だよあれは」
「そ、それってどういう……」
ザーニャちゃんの険しい表情に気圧され、続きが聞けぬ僕の横で、ゆらりと立ち上がった申巳が、抑揚の滅茶苦茶な言葉を発する。
「あの、ボクも居ましたよね なんで撃ったんですか ボクが対話を試みて対処を決めるとの
突如激昂した彼が、目前に立ち並ぶ青い盾に飛び込む。
次の瞬間、飛び出した申巳よりも速く、先の黒い煙が吹き抜ける。黒煙は申巳の左手に集うが早いか、黒い巨大な釘のような形となって、
「
アッパー気味に振るわれた申巳の左手から、衝撃波を纏って撃ち出される。
攻撃をまともに喰らった一団が吹き飛び、装甲の破片が飛び散るが、再び荒れた黒煙が全てを掻き消し、申巳の身に傷一つ残さない。
そこで申巳は一度動きを止めるが、焦ったクイーニャの声が響く。
「まだ三方向囲まれてる! こいつら今までのと違って手練れだよ、後ろ!!!」
仲間の被弾も構わず、盾を掴み三方向から突入してくる敵を、ギョロリ、と眼の動きだけで視た申巳が右手を挙げて振る。
途端に虚空から黒い杭が顕れ、申巳のスーツの袖を掠めたかと思うと、彼の小柄な体躯が弾き飛ばされる。
「お、おい大丈夫か!?!?」
焦って声をかけるが、次の瞬間、再び黒杭が顕れ申巳を掠める。そしてその動きが繰り返され連なり、目にも止まらぬ速度で申巳の体が宙を舞い続ける。
「なンだあれ、まるで傀儡の糸が切れては繋がっての繰り返し……」
「ぼ、僕達はどうしたら良いんだ?」
「何が起こってるか判らなすぎるよ、下手に動けない……」
呆然とする僕らにお構いなしで、申巳の術式機動が全てのパワードスーツを薙ぎ倒した。
「
いつの間にか眼前に着地していた申巳が、消え入るような声で呟くと、いきなり床に倒れ込む。
「なっ!? おい大丈夫かよ!!」
駆け寄って揺すると反応が無い。もう一度揺すると黒い煙が巻き上がり、巨躯を築き上げる。
「すまない、ご心配痛み入る。アキなら大丈夫だ」
「サルミアッキだったか、大丈夫ならいいが……おい、ホントになんだったんだよ今の!!」
「ふむ……そうだな。説明するには、少し長くなるが昔話を聞いてくれはしないだろうか」
先程のは防衛警察の裏切りだ、本来我らの単独任務の手筈だったが君等諸共攻撃されてしまった……。
そう前置きして、サルミアッキは昔話を語り始めた。
──とある少年の、黒い黒い昔話を……。
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