第19話 絵に描いたような後輩男子
「.............あ"?」
奏の腕を掴んでいる手に視線がいく。
その手の主を追っていくと背の高い男がいて、俺はスッと目を細めた。
「「あ」」
隣で綾瀬と蒼井が体を揺らしたけれど、それを無視して立ち上がる。
俺が目の前に来るまで何やら喋っていた男女は、何故か俺を見て固まった。
「―—――日野センパイ。何してるんですか? 夫の前で」
「あっ.............いやその、これは」
「それで、貴方は誰でしょう」
ニコ、と笑ったはずなのに、なぜか周りの空気がおかしい。
はて、俺なりに気を遣っているはずなのになぜだろうか、と考えながら、俺は奏の腕を掴んでいる手を掴んだ。
「貴方が誰だか知らねえが、まずその手を放してくれませんかね」
「ああ.............」
「瑞稀は滅多なことじゃ怒らないのに............」
それだけ奥さんを愛してるってことなのかなあ、とぼやいた綾瀬に遅れて、ガタリと米原が立ち上がる。
柊! と頭を押さえながらこちらへ歩いてきたその人は、いきなり俺に頭を下げた。
「ほんっとーにすみません天都さん! この............バカ! 柊! 今すぐ謝りなさい」
「いえ、俺としては手を放してもらえればとりあえずいいんですが」
「天都............お前が、天都瑞稀!」
おろおろしている奏、眉間を揉む米原、そしてどこか憎しみのこもった目でこちらを見てくる―—――おそらく柊という男。
けれど謝罪も、ましてやそんな男の名前すらどうでもいい俺は、ただ営業用の笑顔を張り付けたまま再び話しかけた。
「天都瑞稀! 僕はお前を絶対に許さな、」
「お前のことなんてどうでもいいので、いいからその手を放せって申し上げてるんですよ」
言ってること分かりますか? ともう一度笑いかけると、なぜか顔を真っ青にした柊がそっと奏の手を放す。
各々固まってしまった空気にどうしようかと思いながら、俺はとりあえず奏を自分のもとへと引き寄せた。
「奏。次からああいうやつに捕まったらどうするべきだと思う?」
「瑞稀に見つかる前に捻り上げます」
◇◇◇◇◇
「柊あんた............余計なことしかしないわね?」
アンタに任されたタスク終わらせたの? と米原が言うと、柊はうっと肩を揺らす。
それをみて大きくため息を吐いた米原は、俺に何度目かの謝罪をした。
「本当にすみません、天都さん。悪い奴ではないんです。言い訳になるんですけど、こいつ――――柊は奏に教育係として面倒を見てもらったこともあって、ひどく奏に懐いていて」
それで今回の奏の結婚にも一番ショックを受けていて、と米原が続ける。
すると、先ほど米原によって作られたたんこぶを持つ柊は、奏と一番離れた席から口を開いた。
「僕は、今回の結婚は認めてないんですからね! 日野先輩だって、」
「天都先輩な」
「ひ、ひの、」
「天都」
「.............あ、天都先輩だって、こんな結婚嫌に決まってる」
俺から目を逸らしながらボソボソと呟く柊に、隣の奏を見ると困った顔をしているのが見える。
柊はまだいろいろと未熟だから、と言った奥さんが許しを求めているのが分かって、俺はため息をつきながら「わかってるよ」と短く返した。
「そもそも、ずっとあってないくせにいきなりプロポーズとかイタイんだよおっさん!」
「やっぱ許せないかも」
俺がぼそりと呟くと、「でも私もその件は許してない」という絶対零度の言葉が返ってくる。
結局俺は妻には傅くタイプの夫なので、沈黙は金とばかりに黙りこくった。
「ほら! どうせ仮面夫婦なんだろ!」
「ヤダー、幼馴染と数年ぶりに再会、そして結婚なんてロマンチックじゃないですかーー」
「はあ!? 数年どころか十数年、ぐほっ」
「ロマンチックだよねー-? 柊??」
再び拳を振り下ろされた柊は、涙目で米原からも目を逸らす。
話を聞いてしばらくずっと笑っていた綾瀬と蒼井は、微かに震えながらも口を開いた。
「いやあ、俺としてはこういう昼ドラ展開も悪くない」
「いい酒のつまみね」
「頼むから俺の味方をしろよお前らは」
あの話でどう味方をしろと、とスンっとした顔でいった同期に何も言えない。
言葉に詰まった俺を鼻で笑いながら、二人は柊をじっと見た。
「まあでも、なんともいじりがいがありそうな後輩なこって」
「柊くぅん? 日野先輩のこと好きなのー?」
「なっ!」
蒼井の口撃に首から真っ赤にした柊は、「そっ、んなこと」と言った後奏をちらりと見る。
それが分かった俺は笑顔で奏への視線を遮ると、少しだけ顔色を悪くした柊が蒼井たちに向き直った。
「そもそも、日野先輩はみんなの憧れの的なんです!」
その言葉に少し頬を染めた奏は、「柊.............」とどこか感動したように呟く。
それを呆れたように見る米原と見守る藤原が目に入った時、俺は違和感を覚えて首を傾げた。
(あれ、これもしかして俺が邪魔なやつ?)
拗らせた男子は、何をしても拗らせるものである。
もしかしてこの二人で恋愛フラグ立ってたのかという考えに至った俺は、先ほどの柊の様に顔を真っ青にさせた。
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すみません、ここから金曜日まで更新お休みさせていただきます。
その間に拗らせてきた系両片思いが好きなお方はこちらの作品でも読んでいただければ幸いです。こちらは片思いを十年拗らせた高校生の話です。
「男だったら絶対好きになる」と言った幼馴染、男だとわかった今も全然好きになってくれない件。
kakuyomu.jp/works/16818093073757173881
テストの都合で更新頻度が下がると思いますが、なにとぞこの不器用な二人をよろしくお願いします。
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