鏡写しの覚醒:少女の孤独と希望の旅路

エンマ

完結:鏡写しの覚醒:少女の孤独と希望の旅路


「カイ!目を覚ませ、私だ!アーシアだ!」


幼いころの稽古相手、師、ともである彼は

私を見ずに闇魔法をまとった剣で必殺の攻撃をしてくる。


「フフフッ、久しぶりなんでしょう?

 せいぜい楽しむがいいですよ。私の騎士が深淵を見せてくれますよ。」


と闇の魔導士ロキがまるで耳元にささやくように言った。


--------------------------------------------



私はハラスの光の村で育った。

幼い頃、影の世界から来た少年・カイと出会い

互いの違いを感じ、吸収して育った。

村の人々からは

じゅうのアーシア、ごうのカイ」

と呼ばれ将来を期待されていた。



カイが突然姿を消してしまうまでは…



光の国に住んでいながら暗い家の中に放り込まれ

閉じてしまった窓を開ける方法を考えることしか出来ないように

なってしまった。


いつしか、自分の闇から決着をつけるために行動を起こさないと

いけないと気が付くほど成長した私は、実力もそれなりに

付いたのではないかと思った。



-- カイを探しに行こう… --



私は輝く大地を背に光の国を出て、目の前に広がる影の森、闇の国

フィンスターに入った。


森の中を進み始めている時から、感じていた。

姿は見えないが、遠くから監視されていると分かる存在。


そう、光の国ハラスでも縦横無尽に飛び回るおしゃべり好きの妖精たち。

しかし、闇の国フィンスターは不可視で寡黙なのであろう。


伝説のなかで妖精は大いなる力を持ち、ヒューマンやエルフなど

2足歩行の種族には優しく、未来に導く高貴な存在だとうたわれている。

が、実際私にとってはただ五月蠅い厄介者だと思っていた。


カイの行方のあてがあって旅立ったわけではないのだが、迷いなく

行く方角に確信が持てるのも、きっとこの闇の妖精の力であろうと

容易に気が付いた。



どのぐらい歩いただろう?

道案内をしてくれているなどと素直に信じてはいなかったが、

光の国では見たこともない種族の魔物や動物、果ては菌類などの

多種多様な生物が自己紹介張りに道をふさ


強敵と思われる魔物、シャドウモスを相手にした時に変化が現れた。


シャドウモスは光を吸収してるのだ!


いや、吸収しているように見えるのだ!


シャドウモスは闇に溶け込むような黒紫の大きな蛾だった。

はねは夜空の星々のようにきらめく鱗粉りんぷんで覆われており、

光を受けるとその輝きは一層強まった。目は赤く輝き、鋭い牙が見え隠れしている。


光の攻撃を受けた瞬間、シャドウモスは翅を大きく広げ、鱗粉を大量にばら撒いた。

鱗粉は光を吸収するように見え、辺り一帯が薄暗くなった。その一方で、

シャドウモスの体からは毒々しい紫色の煙が立ち昇り、威嚇するような低い音を

発した。光のエネルギーを無効化し、鱗粉がまるで鎧のように

まとわりついているかのようだった。


私は上を向き大きく息を吸い、背中を丸め大きく吐きながら、

皮膚を一回り膨らませるように光と闇のバランスを取り始めた。

このシャドウモスの一戦で光と闇が融合することで真の力を発揮する

可能性を感じ始めたからだ。


シャドウモスの鱗粉は、光のエネルギーを吸収したように見せて

拡散させることで無効化していた。しかし、光に闇の魔法を加える

ことで鱗粉の構造を変化できるのではないかと思い付いた。


そう、昔、私とカイは村人から

じゅうのアーシア、ごうのカイ」

と呼ばれていたのだ!


光の魔法と闇の魔法を同時に使うことができれば、シャドウモスの鱗粉を

無力化できるかもしれない。私は意を決し、左手に光の魔法を、右手に闇の魔法を

集中させた。光と闇が交じり合い、一瞬の閃光となってシャドウモスに放たれる。


シャドウモスは一瞬戸惑ったように動きを止めた。鱗粉は光と闇の混ざり合った力で

その特性を失い、次第に輝きが失われていく。シャドウモスの翅は力を失い、

ゆっくりと地面に落ちていった。鱗粉という鎧が消え去った今、シャドウモスは

光の攻撃にも、融合した光と闇の攻撃にも無防備になったのだ。


私の胸に新たな確信が芽生えた。光と闇は対立するものではなく、

補完し合う存在だということを。



振り返ると、そこにはカイが立っていた。




「フフフッ!私の大事な蝶のコレクションに

 ひどいことをしますねぇ」


カイではない、


カイではない、


この声は…


「初めまして、私はロキ」

と同時に私の心臓を突こうと剣を繰り出してきた。


「カイ!目を覚ませ、私だ!アーシアだ!」


幼いころの稽古相手、師、ともである彼は

私を見ずに闇魔法をまとった剣で必殺の攻撃をしてくる。


「フフフッ! お知合いですか? 私の依り代を」

とロキは嬉しそうに言った。


「よ…依り代?」

私は脳を直接つかまれ、血の流れが止まったかのようにビクついた。


「フフフッ、久しぶりなんでしょう?

 せいぜい楽しむがいいですよ。私の騎士が深淵を見せてくれますよ。」


と闇の魔導士ロキがまるで耳元にささやくように言った。


「あなたの光輝く美しさ、空、大地、海に

 者たちの敬愛、称賛、畏敬を受け、 

 まるで後光が咲いている様ではないですか?

 

 でも、今日からあなたは変われますよ、変わりますよ、変えられますよ

 変えますよ、私が」


ロキはどんどんテンションを上げて叫ぶように言った。


寡黙な妖精たちとは違い、他人に理解してもらうことなど

微塵も期待していないマメトイみたいなこいつは、何なんだ!


右手に闇魔法、左手に光魔法を溜めて

無茶苦茶に撃ってくる、力押しだ、

あまりの量に相手を視認できないほどだ。


と、見えた時ロキは目の前だ。薄笑いしながら顔を突いてくる。


しかし、カイと戦い慣れた私には驚くような攻撃ではない。

軽く首を水平に動かし避けた。と同時に右かかとに溜めた光魔法を

振り子のように下から上へ顎をめがけて蹴り上げた。


もちろん、カイも私の攻撃には慣れていたので大きく後ろへ

バック転しながら避けた。


--ああ、反応はカイだったのに避け方は…--


「それは、悪手だよ」

悲しみを込めて私は言った。


すでにカイの後ろに移動していた私は

ギュッと抱きしめた…後ろから、

光と闇を融合し合わせた手を鳩尾みぞおちに当てながら。


「戻ってこい!カイ!」


ロキとカイを分離できると思いついたのは

シャドウモスとの戦闘を経験していれば想像に難くない。


「カイ、しっかりしろ!私だ、アーシアだ。」


どこか焦点が合っていなかったカイの視線が彷徨さまよい、

何度も瞬きをしながら私のことを見つめ返し頷いた。


「ありがとう。

 久しぶりに会って最初に言えるのが

 この言葉でよかったよ。アーシア。」


一瞬、幼い頃の笑顔と重り、

変わらぬ言葉に私は瞬きで返事をした。



カイの体から抜け出したロキは、まるで青白い炎で人魂ひとだま

の様で空中に浮かび上がった。その幽愁暗恨ゆうしゅうあんこん

姿は不気味に揺らめき、周囲の恨みを全て引き受けているかのようだ。


「フフフッ…厄介な!あなたは本当に癇に障りますね」


ロキの声は、眉間にしわが寄るほど不愉快だ


「ロキ、一体お前は何がしたいんだ?」

私は素直に思ったことを口にした。


「あなたのような下賤な者に、崇高なる私のような存在に

 羨望のまなざしを向けるのは分からなくもないですよ。」

とロキは的外れなことを言う。


-- ああ!ダメだ。これは--


私はカイに頷いて合図を送ると同時に、光攻撃、闇攻撃、融合攻撃をし、

カイは巨大な闇攻撃、剣撃、体術とあらゆる攻撃を二人で繰り出した。


しかし、ロキは物理的に実態がないようなものだ。


全ての攻撃を躱し、不愉快な声はのたま

「フフフッ。当たらないでしょ?そりゃ当たりませんよ。」


「んん」

カイは悔しそうにうなる。


「それがどうしたー!!!!おおおおおおっー」

光と闇の融合で必殺の一撃をロキに…


シューッ


吸い込んでいた。

そう、大きな叫びとともに近づいた私を冷静に待っていた。

ロキはこの時を狙っていた。


「ゲヘッ、ガフッ、ゴホッゴホッ」

私は入れてはいけないものを吸ってしまった。


「アーシア!大丈夫か?しっかりしろ。」

カイは私の背中を擦りながら言った。


「フフフッ。油断しましたね。先ほどご自身で見たでしょう?

 なのに安易ですね~、不覚ですね~、単純ですね~。

 もうあなたは私のものですよ。」

不愉快なロキの声が骨を伝って響いてくる。



-- つかまえた。--



なるべく息を一杯出さないようにカイに短く言った。

「最大級の闇攻撃を両手で背中から私に撃って。」


「し、しかし、アーシア!」

戸惑いながらカイは私に悲しげな眼を向けながら言った。


私は強くうなずきながら

--さあ、カイやっちゃって--

無言でカイに目を向け更に頷いた。


「な、何をやってるんですか?私と心中ですか?」

少し慌てた様子のロキは逃げる算段をしているのだろう。


しかしもう遅い、私は体中に光魔法を溜め、そこに少しずつ

闇魔法を混ぜていった。


「行くぞアーシア!

 たあぁぁぁぁぁー!」


超弩級の闇攻撃が背中から来た。

思ったよりずっと強力な魔法に驚きながら

--これ受けきれるかしら?--

と思いながら自分の体を分子レベルまで細かくし

融合のイメージを強くロキの存在に向けた。


「ヴァイイイイイイイーン」


地上で花火が誤爆したかのような強烈な光と、

それを扇形に交互に裂けるように点滅し霧散した。


「アーシア!」


耳元でカイが。今度は彼が後ろから私を抱きしめた。


「だ、大丈夫よ。カイ」

ほとんど何も聞こえなかったが、自分とカイの声は

骨伝いに理解できた。



--------------------------------------------

ハラスとフィンスターの国々は、私とカイの行動によって、

新たな時代を迎えていた。


かつて敵対していた国が互いの力を必要とし

それによって調和が生まれるということを徐々に知れ渡った。


私とカイは、それぞれの国の橋渡しとなり、

彼らの冒険は多くの人々に語り継がれ、未来への希望の象徴となっていた。


戦いの後、私は文字通り真っ白になった。

髪の毛、眉毛、まつ毛、肌、目の色も。


そして…


「アーシア、このまま何事もなく行くと良いんだけどね。」

と光の妖精がカイの言葉を伝えてきた。


「ロキのようなやつはいなくなることはないからね。」

と無口だった闇の妖精は私の代わりに言った。


「そうだな。まあ、それぐらいなら、もう心配しなくても

 誰もが対処できるからな。」

カイの言葉を伝えた妖精と私は何度もうなずいた。


失ったものは大きかった。

聞くこともしゃべることも出来なくなった私は

かなり心配されたが、ロキに乗っ取られていたカイのことを考えると

だいぶましなのではないかと思う。


特に、光と闇の妖精たちがいつもそばで私を支えてくれるのだから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡写しの覚醒:少女の孤独と希望の旅路 エンマ @jizoemma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ