彼女を寝取られた俺は、お一人様の『銀姫』と都合のいい遊び相手になりました
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 彼女を先輩に寝取られた
てことで新作です。ざまあ系っぽい雰囲気から始めていますが要素薄めです。やるにしても一区切りちかくなってからです。美人のヒモになって遊んで暮らせたら楽しいよね~って感じの話です。
ある程度ストックあるので毎日更新できたらいいなの気持ち。初日だけ夜も更新です。
応援よろしくお願いします!
―――
俺――
同じく地方出身で一人暮らしをしている
初めの講義で隣になってから話すようになり、仲良くなったところで勇気を出して「付き合おう」と言ってみると、遊花は快く受け入れてくれた。
それからの日々はとても楽しくて、正しく華々しい大学生活を送っていたのに――
「――つーわけでさ、お前の彼女……ああ、もう
白昼堂々、寝取り宣言をされるとは思ってもいなかった。
大学二回生の梅雨前、ある日の昼休み。
俺は遊花から「大事な話がある」と食堂まで呼び出された。
大事な話とは何だろう。
そう思いながらも、俺はずっと嫌な予感がしていた。
去年の冬からから遊花と過ごす時間が徐々に減っていたのを自覚していたからだ。
遊花の言い分としてはサークルとか友達と遊んでくるとか、そういうやつ。
それが本当かどうかまで俺は確認していない。
けれど、頻度からしてちょっとおかしいかな、とは思っていた。
真偽を遊花へ問いただすことはついぞできなかったけど。
そして今日、遊花の隣に我が物顔で座っていたのはイケメンながら黒いうわさが絶えないことで有名な三回生の先輩、
この時点で話の流れをおよそ読めてしまって、口の中に苦いものが溢れてくる。
八雲先輩の噂は知っている。
飲み会のたびに可愛い子を酔わせてお持ち帰りしているだとか、常に何人も彼女がいるだとか……そういう良くない話だ。
その八雲先輩が遊花の肩を抱き寄せて笑いながら俺に言い放った。
不思議と怒りは湧いてこない。
どうしようもない納得感が、浮かんでくるはずの疑問を呑み込んでいた。
「そういうわけだから慧……柏木は別れてくれると助かるっていうか、わかるでしょ? あたし、もう拓哉先輩と付き合ってるから」
これまで無言を貫いていた遊花が八雲先輩の腕に抱き着き、したり顔で笑む。
もう俺の彼女ではないと嫌でも納得させる表情に、なぜか気が遠くなる感覚を覚えてしまう。
八雲先輩も嫌がる素振りは見せず、笑いながら遊花の肩を軽く叩いた。
「ま、一応言っといてやるけど――お前の彼女、俺が寝取っちまった。今年に入ってからか? 悪いとは思ってないぜ。寝取られる方にも問題があるんじゃねーか?」
「……問題?」
「遊花から聞いたぜ? デートのたびにお金を集ったり、暴力も振るって、エロいことも強要されたって」
「………………は?」
八雲先輩から告げられた言葉で思考が固まる。
俺にはそんなことをした記憶は一切ない。
それは当然、遊花も同じはずで――
「あはっ」
「――――ッッ!!」
更科は俺にだけ見えるように、八雲先輩の陰に隠れて密かに笑っていた。
腹の底から怒りが込み上げてくる。
そこまでして俺を貶めたいのか?
そんなことをして何が楽しいんだよ……っ!!
「……俺は、そんなことしてない」
「おいおい、おまけに嘘吐きとか最低だな。男の風上にも置けねえ野郎だ。遊花はこれから俺が守る。だから安心しろ」
「……ううん、いいの。全部あたしが悪いから」
「そんなことねえって。こういうのは全部男が悪いんだよ」
「八雲先輩……っ」
熱い抱擁を交わす二人とは対照的に、周りからは俺へ対する非難の声がつぶさに上がる。
場の空気が二人を味方する方向へ本格的に流れ始め、胃の中身がひっくり返るような感覚に見舞われた。
なんだよ、この茶番は。
全部仕組んだうえで別れ話をしにきてるじゃないか。
「慧……もう柏木くんって呼んだ方がいいかな? 柏木くんと違って八雲先輩は大人なの。割り勘なんてけち臭いことしないで奢ってくれるし、楽しい場所にもたくさん連れてってくれるし、なにより誰もが認めるくらいかっこいいの」
「そんな褒めんなよ。男として当たり前のことしてるだけだろ?」
ヘラヘラとした二人の会話が朧げに耳に入ってくる。
割り勘がけち臭い?
こちとら親元を離れてバイトしてやっとの一人暮らしだぞ? デートのたびに奢ってたら家賃すら払えなくなる。
デートの場所も俺なりに考えていたつもりだ。
とは言っても金がないから遠出とか、入場料が高いところとかは無理だったけど。
俺より八雲先輩の方がかっこいいのは……さすがに認める。
そこは比べるまでもなく俺の敗北だ。
総じて考えるに八雲先輩の方が俺よりも魅力があっただけのこと。
「……そうすか」
寝取り宣言の後、二人の前で初めて出た声は自分で驚くほど冷たく、頼りなかった。
遊花が寝取られたのは、もうどうでもいい。
今すぐこの場を離れたいのが俺の偽らざる心境だった。
だから言い訳も何もせずに席を立つ。
立つ鳥跡を濁さず……他の誰でもなく自分のために引き際は綺麗に済ませたかった。
「次は寝取られないように頑張るんだな。俺がアドバイスしてやろうか? 女ってのは顔と金があれば靡くんだよ。そんで男を見せりゃこのとおり。遊花も初めてのくせしてめちゃくちゃ喘いでてよォ……!」
「もう……っ! 今そんな話しないでよっ!! 恥ずかしいじゃん!」
「いいじゃねーか。帰ったらまた可愛がってやるから」
そんな俺にまるで関心を見せず、二人の世界に入っていく。
しかも内容が内容だけにショックを覚えてしまう。
遊花は俺とそういうことをするのを避けていた節があったからだ。
お互い家でデートする機会もなかった。
なのに八雲先輩とは身体の関係になっていたわけで……そんなのってないだろ。
本当に、もういい。
周りで聞いていた関係ない人から俺をせせら笑う声が聞こえて、途方もない嫌悪感に襲われて、耳を塞いで逃げたくなって。
がたり、と椅子が引かれる音が響いた。
「――他人事ですし口を挟むのは行儀が悪いと思いましたが、見ていられません。白昼堂々そのような会話を衆目の面前でするのは、とてもではありませんが品性を疑いますね。目に余ります」
そこへ投げ込まれる四人目の声。
はっと顔を上げて声の方向を向くと、昼食の器が載ったトレイを持って立ち上がる女性が映った。
カチューシャで飾った艶のある長い髪が背で揺れる。
どことなく冷たい雰囲気を漂わせる横顔と切れ長な目元。
均整の取れたスタイルと、モデル顔負けの容姿を持つ彼女を、この大学で知らない人間はいない。
彼女の名前になぞらえて『銀姫』という名で呼ばれることもある。
その銀鏡がまるで俺を庇うような発言をした……?
俺は別に銀鏡と話したことすらない。
一方的に認知しているだけの関係だ。
だからこれは、銀鏡が不快に思っただけに過ぎない。
「おいおい、天下の銀姫様に興味を持ってもらえるとは思わなかったぜ。こいつのことが哀れで声を上げたのか?」
「違います。わざとらしく晒し者にするような場と言動を選ぶあなたたちへ注意をしたつもりだったのですが、この分だと無駄のようですね」
「……んだと?」
涼しげに毒を吐く銀鏡へ八雲先輩がまなじりを吊り上げる。
厳ついイケメンは怒っても様になるらしい。
しかし、銀鏡はまるで意に介することなく昼食のトレイを返すために席を離れた。
八雲先輩は銀鏡の背をずっと追っていたが、それ以上は声を荒げたり行動を起こそうとはしない。
銀鏡が相手では人目があると分が悪いと思ったのだろう。
意外と小心者というか……自分のブランドに傷をつけたくないのかもしれない。
小さく舌打ちをして、俺へ向き直る。
「邪魔が入って興が冷めちまった。今後、遊花に関わったらただじゃおかねぇからな。わかったか?」
「……こっちから願い下げだ」
「威勢だけはいいらしい。次は身の丈に合った女を選ぶんだな」
――こんな醜態を晒したお前を選ぶ女がいるかは知らねぇけど。
最後に捨て台詞を吐き、八雲先輩は遊花と共に去っていった。
周囲からの視線がこれでもかと突き刺さる。
同情、嫌悪、鼻で笑う声、ひそひそと話す会話――ああ、全部鬱陶しい。
なんで俺がこんな思いをしなきゃならないんだよ。
俺だって遊花のために頑張ってきたはずなのに……ッ!
「――帰ろう」
午後も授業はあるけど、とても受けられる気がしない。
受けたところで頭にも入ってこないと思う。
授業のノートは後で知り合いに頼んで貰おう。
彼女が寝取られたから休んだって言えば同情を誘えるかもしれないし。
……なんて考えていないと、心と呼ぶべきものがぐちゃぐちゃになりそうだった。
それから道中一切の記憶がないまま1Kのアパートに帰宅し、敷きっぱなしだった布団にうつ伏せのまま寝て――
「――夜、か」
目を覚ますと外はすっかり暗くなっていた。
ついでに昼飯を食い損ねたせいで腹も減っていて、ぐぅと情けない音が部屋に響く。
気分は変わらず曇ったままだったけど、時間を置いたからか落ち着いて……
「……るわけねえだろクソッ!! 俺が!! 何をしたって言うんだよッ!!」
思い出した瞬間に怒りが込み上げてきて、思わず枕をバンバンと叩きつけてしまう。
が、二度三度したところで手を止める。
こんなことをしても虚しいだけだし、このアパートは壁が薄いから隣部屋の住人から文句を言われかねない。
ワンチャン彼女寝取られたって言ったら許してくれないかな?
「……自虐しても何にもなんねえよ、クソ」
空腹なんかよりもこっちの方が重症だ。
仕方ないから先にどうにかしよう。
鍵と財布だけを持って、着の身着のまま部屋を出る。
向かう先は近所のバッティングセンターだ。
時々気晴らしに来るけど、この時間は流石に空いているはず。
そう思っていたのに――
「離してくださいっ!」
荒っぽいながらも、どこかで聞き覚えのある女性の声。
その主は昼間、食堂で見た美女……銀鏡皐で、顔を赤らめたスーツの男に腕を掴まれていた。
なんだ? 酔っぱらいか?
明らかに正気ではなさそうだ。
酔って気を大きくしたところに美女……銀鏡がいて、突っかかってしまったとか、そういうやつだろう。
これ、どうすんだよ。
誰か助けを――と思って周りを見渡すも、俺以外は誰の姿も見えない。
こんな時間だからそりゃそうか。
てことは、俺が助けるしかないのか?
……冗談きついな、ほんとに。
昼間のことで参ってるんだが?
さっさと打ってストレス発散したいんだが?
ああ、でも。
ついでに一つ、偽善をするくらいは悪くない。
「――なあ、おっさん。その手、離した方がいいんじゃねーか?」
声をかけると二人の視線が俺へ向く。
銀鏡は驚きながらも困惑していて、おっさんは怒っていそうだった。
「あァ? なんだよガキ、てめェ、俺を悪人みたいに言いやがって。俺はこの女にここの使い方を教えてやろうとしてただけだっつーの」
「教えるのに腕掴む必要ないでしょ。今なら酔っぱらいの戯言ってことで見逃してやるからさ。警察沙汰は勘弁だろ?」
「……チッ」
人が来たことで無理強いは出来ないと悟ったのか、おっさんは舌打ちして銀鏡の腕から手を離し、不機嫌を露わにしながら去っていく。
は~~~~~~~~感じ悪っ。
酔ってても暴力を振るっていい理由にはならねえだろ。
……と、それはともかく。
「腕、大丈夫か?」
呆気にとられたままの銀鏡に声をかけると、数秒の間を置いて「……大丈夫です」と短く答えた。
その後に佇まいを整え、腰を折る。
「助けていただいてありがとうございます。酔っていたのか話がまともに伝わらず、困っていたもので。腕も少し掴まれただけですから、痕も残らないと思います」
「ならよかった。……んで、あんたは銀鏡皐で合ってるよな?」
「……どうしてわたしの名前を」
念のため聞いてみると、銀鏡は表情を硬くして俺をまじまじと見つめ直す。
長い睫毛に飾られた双眸。
それが俺を観察しているのが妙におかしくて笑いそうになってしまう。
一生関わることがないだろうと思っていた相手と、こんな形で遭遇したのだから。
しばし考え、「ああ」と納得した風に呟く。
「あなたは昼に食堂で騒いでいた二人と話していた……」
「柏木慧。銀鏡と同期の二回生だ。名前なんて覚える価値があるのか怪しいけどな。現に覚えてなかっただろ?」
「…………すみません。名前を覚えるほど関わったことがなかったので」
「謝らなくていい。元より名前を覚えられてるなんて思ってなかった」
「もう忘れませんよ。それより……ここの使い方を教えてもらってもいいですか?」
……はい?
―――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白い、続きが読みたいと思ったらブクマと星を頂けると嬉しいです!
執筆のモチベーションになりますのでよろしくお願いします!
―――
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