金色の瞳が見つめ合う
2024年2月17日。
歓楽街にはいまだに雨が降り注ぐ。
地上では真っ赤に染まった右腕の女と、黒髪の女が顔のないキメラ怪人を前に何やら喧騒な雰囲気になっている。
しかし……それを巨大ビルの頂上から金色の瞳で眺める一体の怪物がいた。
その怪物というのは馬のようなフォルムをした怪物だった。
人間のような立ち姿をしながら馬のような脚部と顔を持つアンバランスな怪物。
しかしそれより目を引くのは背中で閉じた赤い翼。
つまりはペガサスと形容すべきだろうが、その体は真紅に染まっていた。
「ひっひっひっ」
馬は鳴いた。
否、笑った。
そして馬の声は、人間の知る甲高い声ではない。
まるで女の声。
「ひっひっひっ───」
馬は、ビルの頂上から───飛び降りた。
それは死ぬ為ではない。
その赤い翼を大きく広げ───飛んだ。
大雨で濡れながらも、その速度を落とすことなく、弾丸のように飛ぶ。
それに気付いたのは、金色の瞳を持つ女。
空飛ぶ馬の怪物を見るや否や、こちらを避けるように黒髪の女の手を引き、下がっていく。
だが馬の怪物は何も迷うことはなく、勢いよく地面へと激突した。
再び街に響き渡る轟音と共に───。
「今度はなに!?」
「知らないさね。でもどう見ても怪物だろ?」
「なんだって改造されたみたいな怪物が何度も来るのよ!?」
黒髪の女……蘭が少々パニックに陥っている時、金色の瞳でイブはその怪物を見つめた。
怪物は地上に叩きつけられたように激突したものの、打ち付ける雨さえも気にせずに悠然と立ち上がった。
「…………ひっひっひっ」
笑い声。
イブは首を傾げた。
「…………変なやつだね、あんた」
馬の怪物は金色の瞳でイブを見つめた。
「…………」
そして黙り込んだ。
「ん?どうしたんだい」
「…………」
無言。
ただ雨音だけが聞こえる街。
それぞれの金色の瞳で、互いを見つめる。
「…………あんたの目、私に似てるね」
イブがそう言った瞬間だった。
「ひっひっひっ」
馬は鳴いた。
そして……いつの間にか、その手に球体状の物体を握りしめては途端、イブの前に───投げた。
その瞬間、ピカリと光る球体。
その光はイブの視界を、蘭の視界さえも奪うのには十分だった。
たった数秒だけの光、しかし強烈な光。
雨の中でさえ認識できるほどの光が現れたと同時、その光は消える。
「イブ………!?」
ほんの少し二人とも動くことはできなかった。
いわゆる閃光弾というものであり最悪失明に繋がるものであるが、イブと蘭はなんとか視界を取り戻した。
そして頭を抱えた。
「なんてこと……」
真っ先に蘭は地面を見た。
案の定……本当は認めたくないが……顔のないキメラ怪人が消えていた。
「閃光弾……まさか蝙蝠の時もさっきのやつが……?」
そして案の定、馬の怪物もいなくなっている。
あの大きな翼で飛んだとは思えるが、雨の中とはいえその消える速さは神隠しにでもあったのかと思えるほどだった。
「そうだろうね。そして蜘蛛やらなんやらも多分あの女さね」
「女?」
「そう。あいつの声、聞いたかい?」
「確かに女っぽくはあったけど……」
「それに私と同じ金色の瞳だった」
「あなたと同じって……今までも金色の瞳をした怪物の事例なんてあったじゃない。猫だったり魚だったり、鹿だったり」
「あいつらは金色の目だよ、蘭ちゃん。私は瞳の話をしてるんだ」
そう言ってイブは蘭に金色の瞳を向ける。
「こんな瞳をしている奴はそうそういないよ。いるとすれば私と同類ってことさね」
「同類って……怪物ってこと?」
「いいや」
イブは否定し、そして告げた。
「混沌の存在ってことだよ。私のように黒い右手を持って、死なない存在かは微妙なところだがね」
イブはまるで飄々な態度で、にっと笑った。
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