ニコ生で配信しながら即興で書いている小説を載せる所

伊藤乃蒼

【ニコ生配信小説】母の日

 俺はいま、人生でもっとも大きい買い物をしようとしていると確信している。

 生まれてきて12年。お手伝いで入手した500円玉を握りしめた俺は花屋に来ていた。母の日のカーネーションを買うためだ。

「母の日にはお母さんに感謝を伝えましょう」

 学校の先生はそう言った。そういうわけで、俺は大切な500円玉を握りしめて花屋の前に立っているわけである。

「うおおおおお! 勇気をだせ! 俺!」

 今まで花屋なんて一人で来たことはなかった。というか、お母さんと一緒にスーパーとかしか行ったことはない。そんな俺は花屋に大冒険をしてやってきたわけだが、その大冒険はいろいろありすぎたのでまた今度の話にしよう。

 くるりとまわって花屋の前である。扉をくぐるとそこには様々な花があった。それは見たことのない色をした花だったり、見たことのない大きさの花だったりした。

「いらっしゃいませ~」

 元気なお姉さんの声を聴きながらお目当てのカーネーションを探す。母の日が近いからか、それはすぐに見つかった。しかし、そこで俺はまさかの事態に呆然とする。

「カーネーション、600円……」

 持っている500円よりカーネーションは少しだけ高かった。俺はカーネーションを買えないのである。

「ありがとうございました~」

 元気なお姉さんの声を聴きながら店を出る。

 さて、困った。勇気を出して花屋に来たものの、カーネーションを買うということが出来なかったのだ。

「これは、最終手段を使うしかないようだな……」

 この手段だけは使いたくなかった。なぜなら、これがバレたら友達にからかわれるかもしれないからだ。しかし、カーネーションを買うということが出来なかったのだからこの最終手段に頼るほかない。

「書くか……手紙を……」

 恥ずかしすぎて絶対に使いたくない手段であったが、お金で解決できないのであればこれ以外の方法はない。

 俺は近くの100均に行ってかっこいい便せんと封筒を買った。これは220円で買えたので大丈夫だ。

「え~と」

 照れながらも渾身の力を込めて手紙を書く。そして、お母さんに絶対に周りに言わないことを条件に渡した。

「ありがとう!」

 そう言ってお母さんは笑った。

 かなり恥ずかしかったが、まあ、書いてよかったなと思えた。でも恥ずかしいから来年はカーネーションを絶対に買ってやる。

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