第13話 ウォーリアーズの拠点

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 カールから受け取った濃い青の布を頭に巻き、黒い服とズボンを身に纏うことで、夜に紛れることが可能となった。街の灯りさえなければ、奴らにも気づかれないだろう。拳にタオルを巻き、更に攻撃力を上昇させる。


 物置部屋には小窓が付いており、下にはゴミ箱が設置されている。通りは真っ暗でここから降りたとしても、誰にも気づかれることは無いだろう。音を立てなければカール達にもバレないはず。俺は小窓から身を乗り出し、ゴミ箱に着地した。前転をすれば衝撃を吸収すると同時に、着地する時に発する音も防ぐことができる。


 そこから柱を伝って、隣の家の屋根の上に登る。ここはただの民家で、恐らく2階には誰も暮らしていないだろう。その証拠に1階からは呼吸音が聞こえるが、2階からは生物の足音しか聞こえない。その生物というのは、どうせネズミだろう。モンスターが家の屋根裏を駆け抜けることなんてない。


 今は確か夜中の1時を過ぎた辺り、みんな寝静まった頃だろう。酔っ払いも家に帰り、奥さんに迷惑をかけながら爆睡している時刻、となると奥さんは起きている可能性が高いな。それなら下手に目立ってはいけない、足音を立てないように屋根の上を歩けばバレないだろうけど。


 ここから俺は、ハイディアンにあるウォーリアーズの拠点に向かう。4人は熱心で、俺が帰った後も拠点に残って活動を続けていた。今思えば、闇の活動をしていただけなんだろうけど。つまり、今行けば4人に会える可能性が高い。


 元々は帳簿を持って役所に告発するという計画だった。しかし、帳簿はもう無くなった。となれば証拠となる4人を役所に出頭させるのが1番早いだろう。証拠を探すよりも、既にある証拠を出す方がいいもんな。どの証拠よりも有力だし。問題は、簡単に俺の言うことを聞いてくれやしない奴らだということ。


 ただ……暴力もいとわない、そんな戦いに発展する気がする。まぁ俺もそのつもりだ、4人と殴り合うことも視野に入れておこう。ならば拳に巻いた白いタオルの中に石でも入れておくか、それは流石にやりすぎか。俺の拳も血だらけになるだろうしな。鉄砲で脅せるのなら簡単なのに。


 そこから30分、俺は屋根の上を駆け抜けた。目指すはウォーリアーズの拠点、日々を過ごしていた場所だから位置は明確に覚えている。足音も立てないように、慎重に向かっている。星の目立つ新月の夜、俺は闇夜に紛れながら走り続けるのだ。


「たすけて」


 どこかから、助けを呼ぶ声が聞こえた。俺はすぐに足を止め、その場で深呼吸をする。これは、少年の声か。いや、もっと若い。まだ小さい子供だ、場所は森の中から。何かに襲われているのか、その声からは焦りが読み取れる。


「行かなきゃ」


 俺はすぐに、その助けを求める声の方へ走っていく。ウォーリアーズの拠点に行くなんて、どうだっていい。今は少年を助けに行かないと。くそ、この街は物騒だな。いや、俺が知らなかっただけで、この街では日々子供が襲われていたのか?


「静かにしろよ」


 とにかく俺は屋根を伝って、森へと駆け抜ける。そうだ、前に誘拐されたのも子供だった。そしてその子供を誘拐したのは、俺を襲った奴ら。ウォーリアーズの連中が証拠を持った俺を潰すために、奴らに襲わせたのはまだ分かる。しかし奴らは子供を狙っている、どうして?


 ひとまず、倉庫近くの森に到着した。前と同じく、奴らは倉庫の中に潜んでいるようだ。中には少年と少女が匿われている。その周りには、武器を持った大人が5人ほど、倉庫の外には8人ほど立っている。厄介だな、全員鉄砲を持っているぞ。


 加えて俺は杖を持っていない。前回の戦闘では、杖を武器にして戦っていた。鉄製だから、杖で殴るだけで相手は倒れる。しかしどうしたものか、手元には何もない。第二の生活だからといって、杖は必要だな。せっかく折り畳める訳だし。


 いや、そもそも杖は老人の妻の形見だ。それを武器にしようなどあってはならないことだな。前回は非常事態だったから仕方ないとしても、形見を武器にしてますなんて馬鹿げたことは言えない。言う機会もないか、追い出されたんだから。


 ひとまず森に着いたことだし、戦うとするか。そして何より、手元には石がある。一般人からすれば何気ない物だが、俺からすれば立派な武器だ。それに目の前の男の腰にはナイフが差してある。ちょうど奴は1人だ、今がチャンス。


 木の葉に身を隠したまま、俺は奴の顔面めがけて小石を投げた。


 グギッ!


 バタッ!


 小石は見事顔面に命中したようで、男は黙ったまま倒れた。クリーンヒットか、つまり叫ぶ暇も与えずに倒すことができたという訳だ。すぐに奴の腰からナイフを奪い、倉庫の影に隠れる。幸いにもまだ見つかっていない。それに倉庫の中には、積まれた荷物がたくさんある。身を隠すのなら、倉庫の方が適している。


 タッタッタッタッ


 倉庫の壁の側面にはハシゴがかけられており、その近くには鉄砲を持った男が立っている。出入口を警備するのはまだしも、こういったハシゴまで警備しているとなると……奴らはプロなのか。子供を誘拐するなら、とっとと逃げればいい。なのに倉庫に閉じ込めて、周りに警備を置いている。これは、何か裏がありそうだ。前の事件との繋がりも見えてきた。


 俺は音も立てずゆっくりと近づいて、男の口元を押さえながら、喉を掻き切った。


「グエッ」


 返り血がびっしゃりと、濃い青のスーツに付いてしまった。血の酷い臭いもだ、どうやって落とそうか悩むな。そんなことはどうでもいい、巡回している警備の奴らが死体を発見する前に上に行かないと。俺は奴の腰からナイフを拝借し、ハシゴを登った。


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