第12話 第二の生活

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「モンスターの話をする。最近は少ないが、昔はモンスターがマーベラスの周辺で人間を食い荒らしていた。数十年前だが、ポータガルグーンなるモンスターがいてな。都市の三割を破壊し、一割の人間を喰い殺した。俺の祖父も巻き込まれたが、そこで妻と出会った。それはさておき、俺はモンスターに襲われた人をほっとけないんだ。今でこそ新聞屋をしているが、昔は討伐者を目指していた」


 彼は俺を階段に座らせ、語り続ける。


「俺の夢は簡単には叶わなかった。新聞屋を継がなければいかなかった。父親に反対されたのもあった……父は『危険だから』という理由で反対したんじゃない。『祖父の最期が酷かったから』と反対した。それはモンスターに殺されたからじゃない、祖父の死を蔑ろにした都市に怒りを覚えているからだ」


 事件のことは知っている。俺はまだ生まれていないが、巨大なモンスターが都市を荒らしたことは本になっている。だが杜撰な都市の対応だとかは載っていなかった。都市が発行した本だから聞いてないのも当たり前か。


「この廊下の突き当たりに小さな物置がある。そこを使ってくれ。荷物が多いが、適当に退かして」


 そう言って、彼は階段を降りていった。彼女の母親も彼を止めようと階段を降りていく。残されたのは俺と彼女のみ。そういえば、彼は新聞屋を営んでいると言ってたな。もしかして、1階は新聞屋なのか。印刷のインクの匂いがしていたが。


「改めて、少しの間ですけどよろしくお願いします。私はロナ・クエクトリアです、あなたは?」


「……」


 ここで俺はすぐに答えることができなかった。理由は簡単、「ブレイク・カーディフです」なんて言えば、ウォーリアーズだと特定されてしまう。俺はそこまで有名じゃない、けれどもウォーリアーズは有名だ。知らない人なんていない、モンスターに執着心のある父親を持つなら尚更。


 だから俺は、昔読んだ本から名前をつけた。


「アーク・コータイガーです」


 その日から、俺は彼らと共に暮らすこととなった。新聞屋でモンスターに執着心を持つカール、その妻で俺を疑っているヌヤミ、彼らの娘で俺と同い歳のロナの3人と共に。カールは"ウォークアバウト"という名前で新聞屋を営んでいる。新聞だから今の俺では読めない。


 俺の部屋は2階の奥にある物置部屋。そこにはカールの昔の荷物が多く積まれており、片付けるのにとても時間がかかってしまった。討伐者を目指していた時に使っていたと思われるテキストやノート、仲間から貰った小型ナイフなど、今では使わない物ばかり。だからこそ封印していたんだろう。


 俺はカールに濃い青の布を貰い、それをコスチュームにした。コスチュームというのは、夜に活動する際に着るもの。せっかく手に入れた能力を無駄にする訳にはいかない。こんな戦闘能力は夜、悪党やモンスターを潰す際に使うものだ。そんなに目立ってはいけないし、顔を隠す必要もあるから無難に黒い布を選んだ。


「それで、君はどうしてマーベラスなんかに? 広いが汚い都市だぞ」

「誰かに会う予定だったの?」

「……まあ、食べなさい」


 夕食の時間、俺は彼らと一緒に食事をとることになった。ヌヤミは未だに俺のことを不審がっているが、カールやロナは次々に俺に質問してくる。とは言っても、疑いを晴らすつもりは無い、目的を果たしたらすぐにここから消えるつもりだから。目的はただひとつ、最新の情報が知りたい。


 新聞屋なら最新の情報を教えてくれるだろう。新聞を独りで読むことはできないが、彼らなら内容も教えてくれる。ただ、そのために俺はいる。使えるものは何でも使っておかないと、奴らには勝てない。奴らは何人もの悪人を雇って、悪事を働いている。止めるには、俺も何らかの策を打たないと。


「いいえ、別の都市から追い出されました。何にせよ、目が見えないので」


 俺は皿を寄せてパンを口に運んだ、たったこれだけの動作でも一苦労。今はエコロケーションが使えるからパンの形も手もくっきりと見えるけど、これを使わなかったらどれだけ生活が大変になっていたんだろう。ついでに、体に何らかの病気を持っている人を追い出す村は実際に存在する。そういう都市が存在するかどうかは分からないけど。


「そうか、まぁ住むとこくらいは探してやる。何せ、マーベラスは広いからな」


 彼の言う通り、マーベラスは広大な都市。俺が昔住んでいたのは北部に位置するエイジライアン。つい最近まで暮らしていたのはハイディアン、そこにウォーリアーズの拠点もある。そして俺が今いるのは南部に位置するカービージャンク、こっちにはあまり行ったことがない。


 他に6個ほどの街が存在するが、俺は基本的にエイジライアンで生活していたから、他の街のことはあまり知らない。討伐者として短時間だけ訪れたことがあるくらいで、がっつりと市民と絡んだことはない。


 また討伐者としても、カブトのようなガッチリとした装備を着ているから、顔はほぼ見えないようになっている。だから顔を見られても「ウォーリアーズの人だ!」とはならない。名前を言えば分かるかもしれないが。


 少なくとも、ハイディアンとカービージャンクは結構離れている。10キロは離れていたかどうか、それすらも分からないくらいに。そしてエイジライアンとカービージャンクは20キロほど離れていたはず。まぁ、ハイディアンとかエイジライアンには二度と住めないな。


「ごちそうさまでした」


 部屋に戻り、鍵を閉めてから……俺の第二の生活がやっと始まる。もちろん、やることはただひとつ。悪党とかモンスターをボコボコにしてやるだけ。


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