夕闇の守護者

姫宮未調

アマノちゃん

「アマノさん! 」

呼び声に少女がゆっくりと振り向く。

猫耳のようなフードつきパーカーのポケットに手を突っ込みながら。

出で立ちは全身黒い。

黒いパーカー、殴り書きのようなアメ黒Tシャツ、黒のショートパンツ、黒ニーハイ、黒の編み上げ厚底ブーツ。

「……なに? 」

「え、あ、え? イヤホン? 聞こえてるの? 」

振り向いた少女の両耳からイマドキ珍しい有線が伸びていた。

「うん、周りの音を遮断するほどじゃないよ」

ゆっくりとした動作でイヤホンを外していく。

「え? 聞こえるならわざわざ……」

外さなくてもという言葉は瞳に光のない少女アマノちゃんの目と目が合って発せずに終わる。

「話掛けられたんだからイヤホンをしていたら失礼でしょ。で、なに? 」

虚をつかれた少女は数拍の後、

「よ、よかったからカラオケいかない?! 」

「え……? 」

「あの! ダイズセンパイとヤシロセンパイがくるからアマノさんもどうかな?! センパイたちに話したら興味あるって……! 」

「……僕はないけど? 」

即答だった。

「やっぱり『アマノちゃん』じゃん。てか、そりゃねぇわ」

「え? え? 知り合い?? 」

「特徴がマジアマノちゃんだけど別人だったら恥ずかしいなーって」

「連絡なら取れるでしょ、ダイズさん」

「やっぱ『アマノちゃん』かぁ。ショーコちゃんは俺とふたりが恥ずかしくてダブルデートしたかったんじゃないのー? 」

「……僕は今聞いたばかりでまだ返答してないんですよ、ヤシロさん」

勇気を振り絞った結果、自分以外知り合いだった事実に動揺する。

「カラオケくらいいいだろ? アマノちゃんマジ歌上手いし」

「わかる! かっけーのな! 」

本人への質問事項が無意識な男たちに開示されていた。嬉しいけど半分複雑な気持ち。

「ま、でもさぁ。アマノちゃんは『アイツ』がいるから超絶イケメンな俺らに興味無いんだよねー」

「超絶かはわからないが、おまえよりは好青年の自覚はある」

「は? 譲歩してんじゃん! 」

「誇張する部分がおかしいだろ」

ふたりで終わらないやり取りが始まる。

「……表現が気に入らないんだけど。まぁ、から行くね。”ショーコさん”をよろしく」

押し付けるようにショーコちゃんを後ろに向かせた瞬間、アマノちゃんは姿を消した。

「ちょ、アマノさ……え? 」

振り向いた先には何も無い。

「もう行っちゃったよ? かぁ」

「ホント身軽ぅ。んで? ホントは『アマノちゃん』と仲良くしたかったんだろ? 」

「!! 」

「終わったら《会いに行く》だろうし、タイミング見計らって連絡してあげるよ」

彼女の行く先を知っているらしい。

彼らはショーコちゃんの知りたいを全て知っているようで、またも複雑な気分になった。

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