第47話 集落の終わり
翌朝。朝食もそこそこに、私は地面を掘っていた。
それは亡骸を埋葬するためであり、必要なことでもあった。
(帰って来るつもりはないが、アンデットになられても困るからな)
アンデットとは、肉体に残った魂の残滓が『穢れ』によって大部分を構築し、死した肉体を動かす存在だ。
アンデットになった存在は死を恐れず、また死者を殺せばその亡骸は残らず塵に消える。
そんな存在に、親父たちをさせたくなかった。
「……こんな場所にいたのか」
魔法を併用し広場に大穴を作り終え、集落の亡骸を回収している途中、母の亡骸を見つけた。
母の亡骸は親父以上にボロボロであった。
胴体より下は存在せず、両腕もない。
幾本もの得物が背中と胴体の膳後から刺され、倒れている。
首が繋がっている事自体が奇跡と思えてしまうほどであり、背中に背負うその重さはとても軽かった。
「……貴女の事は魔法師として尊敬しているよ」
既に死した肉の塊に告げると穴の中に亡骸を置いた。
一人ひとり、丁寧に穴の中に入れていく。最後に親父の亡骸を穴に入れ、魔法で地面を埋めた。
地面が盛り上がった――たったそれだけしかない墓標の前に私は座り込み、目隠しを外す。
側に置いた桶に写る姿――目つきの鋭い、しかし年離れした端整な相貌を尻目に、目を細めた。
「……貴方たちは人族の罪を重ねすぎた。だから滅びた。全ては自業自得、因果応報——人の憎しみ、怒り、結束を甘く見過ぎだった。だから私は、貴方たちのように人族を甘く見ない」
呟いた言葉は戒めであり、同時に誓いであった。
人族は敵。
魔族として、バジリスクとして生きる以上、人族は敵でしかない。
人族の街に出向くということは敵地に行くということに他ならない以上、油断をしてはならない。
油断すれば、確実に背中から刃が突き刺される事となるのだから。
桶を満たす水を墓に被せる。
水は流体。そして、魔族の墓において水は穢れを洗い流し、罪を祓うものとされる。
何十人と見てきた墓の作法を終え、目隠しをつけ直した私は再び地面に座り込んだ
「……回収。マスターの指示に合ったものを回収し終えました」
空の頂点に太陽が昇りきった頃。墓を静かに見ていた私にガラテアが声をかけてやってくる。
ガラテアの両手には保存食と金の入った袋があった。
ガラテアに指示していたことは二つ。
一つは保存食の確保。人肉保存食以外の食料を確保することで、最低限腹を満たす。
もう一つは金銭の確保。使わないため溜め込んでいる金銭を回収し、最低限の資金を得る。
「ありがとう。とりあえず、影の方にしまっておこう」
足元の影が伸び、ガラテアが持っていた食料と金銭を回収し内部へと沈んでいく。
その様子を観察していたガラテアが首を傾げ、
「疑問。マスターの影魔法、どのような魔法式なのでしょうか」
「さてな。私自身、何となくで使っている部分が大きい。性質を加えたりするときは、魔法理論に基づいて魔力の性質を変えているが……大体は感覚だ」
魔法が技術である以上、完成品までの設計図――魔法陣と完成までのプロセス――魔法式が存在する。
属性魔法の【フレイムランス】で例えると、『炎を作る』『形状を変える』『炎の槍を射出する』という三つのプロセスを経て【フレイムランス】が完成する。
ネクスが言いたいのは『現象が発生しているのにその過程が全く分からない』ということだ。
「私としても分からない事だらけだし、教府への潜入を考えているのも、それが理由だ。……さて、と」
私は立ち上がり、墓に背を向け歩き出す。
過去を忘れる事はない。同時に、過去は過去とする。死者は蘇らないのは、異世界でも変わらない以上、今を生きて、未来に進めるのは生者の特権だ。
「とりあえず当面の目標である金稼ぎだが……拠点となる人族の街をどうするか、実は既に決めている」
「驚愕。行き当たりばったりではないのですね」
「それでも構わないが……金稼ぎに関しては別だ。場所は勿論、私達自身の能力との兼ね合いも大切になってくる」
この世界には知っている限りでも特色ある都市が幾つか存在している。
デンデラ平原含むウルクルル地方においてもそれはあり、場所の取捨選択は大切になってくる。
「そういう点を踏まえ、冒険都市『イリクス』へと向かおうと思う」
「冒険都市……冒険者に関連している、と見て良いでしょうか」
「そうだな。取り敢えずの概要だけでも教えておこう」
集落を抜け、平原へと出る。
「冒険都市『イリクス』。三方を山に囲まれた都市国家。その特徴は地下に広がる大規模な魔剣の迷宮『テスタメント』。迷宮より生まれる素材を求め冒険者が集まり、冒険者相手に商売する商人や職人が集まり、発展した冒険者のための街だ」
「冒険者……疑問。マスターは冒険者になるつもりですか?」
「それはお前の仕事だ」
影より取り出し真っ白な仮面――『姿欺きの仮面』を頭に被る。
「私は集落を滅ぼした連中の仲間に加担するつもりはない。だが、依頼とその報酬は魅力的だ。どうするべきか、分かるか?」
「……流出。冒険者ギルドの依頼を私がマスターに横流しにする、ということですか?」
「その通り。別段依頼を冒険者だけでこなせ、なんてルールはない。ルールが無いのなら、自由にやらせてもらう」
冒険者の規則は奴隷となった冒険者から聞き出した。ルールの穴を突けば、多少のリスクはあれど金を稼ぐことができる。
「何より、私たちには効率良く稼ぐための売り物が戦闘能力くらいしかない。冒険者の仕事をするのが比較的効率が良いだろうよ」
接客等のコミュニケーション能力が必要となる職種に向いてない。力仕事は効率が悪い。
そうなると、残っているのは純粋な暴力だけ。
「了承。私も現在の冒険者には興味があります。冒険者の勤め、果たしてみせましょう」
「そうか。それじゃあ行くか」
ガラテアに隠すように顔をそっぽを向け、笑みを浮かべた。
――集落での物語はこれにて終わりを迎えた。
草原に残る墓標も何れ風化し、消えて無くなる。
旅立つ者は故郷を顧みることはなく、仲間と共に修羅の道を歩く。
けれど、それでも――決して集落の日々を忘れない。戦いに明け暮れ、血に濡らし続けた穏やかな日常を、忘れてはならない。
私の原風景である限り、この日のことを忘れる事はないだろう。
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皆さん、こんにちは。ここまで読んでくださりありがとうございます。作者の黒猫のアトリエAct2です。
これにて第一章『始まりの草原』が終わりました。
この章の位置づけはプロローグ。物語の歯車はこのプロローグから動き始めます。……ちょっと筆が走り過ぎて長くなってしまったのは御愛嬌ということでご了承ください。
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