第6話 一つ星レストラン
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
相手は電話をしていない。盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・・・
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「ワダシハー、カニチャーハンのセットをお願いしますー」
「そちらのお客さんは?」
「ワタシハー、エビチリセット、オネガイシマスー」
「分かりました。少々お待ちください」
・・・・・
「はい、お待たせしました。こちらが、カニチャーハンセット、それからこちらがエビチリです」
「オー、これはおいしそうですね」
「エビチリもイイニオイー、デスー」
・・・・・・
「何か、お呼びでしょうか?」
「お忙しいところ、スミマセーン」
「チョット、キイテモ、イイデスカー?」
「はい、どんな事でしょうか?」
「とっても、美味しかったですー。恐らく、人工調味料使ってませんねー。どんな味付けしてますかー?」
「主人と息子が、夜遅くまでダシの仕込みをしております」
「ツマリー、ジカセイのダシ、デスネー。それは、スバラシーー」
「ありがとうございます」
「カニチャーハンのライスーと、エビチリセットの白ライスー、ヒンシュ、ちがいますかー?」
「はい、息子がお米の問屋をしてまして、最高級のお米を安く仕入れる事が出来ますので・・」
「チャーハンのタマゴもー、素晴らしいアジでした。これも安くシイレテますかー?」
「はい。娘が卵農家に嫁いでますので・・」
「ソレデー、リユーが、ワカリマシター」
・・・・沈黙。
「エビチリのエビー、とっても、シンセンで、プリプリでしたー。890円では、とても出来ないデショー?」
「息子が、漁師をやってまして、毎日新鮮な魚介を届けてくれますので・・・」
「オーー、スバラシー。この店、タイヘン、恵まれてますねー-」
・・・・沈黙。
「ところでー、お子さんは何人いらっしゃいますかー?」
「はい、息子が4人。娘が2人です」
「この店テツダッテル人、ライスー問屋、タマゴー農家、リョーシ、これでー、4人ですねー」
「後は、製麺所を経営しているのが一人と、英語教師が一人です」
「こども、タクサンですねー」
「お恥ずかしい話ですが、若い時の主人は料理とアレにしか興味がなくて・・・。あら、やだ、昔の話ですよ・・」
「・・・・・」
「・・ホンニンの口からキクトー、ちょっと、アノー、エロいー、カンジ、しますねー」
・・・・沈黙。
「このお店、トテモ、オイシー。テンナイもセイケツー。スバラシですー」
「そして、シンジラレナイ、ネダーンですー」
「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」
・・・・・・・・
「マリちゃん。調査員たち帰ったよ」
「なんて言ってた?」
「安くて、清潔で、美味しいって・・・」
「そう・・。本人たちがそこまで言う事ないから、恐らく、一つ星は取れると思うわ」
「ありがとー、こんな時期だから、すごく助かるわー」
「おかあさん。私がMの日本事務所で働いてること、誰かに話しちゃダメよ」
「もちろんだよ。口が裂けても言わないよーー」
・・・・・・・
「シュンちゃん。今日はご苦労様。調査員たち、大満足で帰って行ったわよ」
「それなら、店を休んで手伝いに来た甲斐があったね」
「今日のエビチリとカニチャーハン、あんたの店で出したらいくらなの?」
「エビチリが5千円。カニチャーハンが7千円かな」
「材料代、払っとくよ」
「いいよ、おかーさん。この店を存続させるためなら、安いもんだよ」
・・・・・・・・・・
私は、アプリを切った。
数か月後、この店と思われる下町中華の店が、Mのガイドブックに載った。
一つ星だった。
割と近かったので、興味本位で食べに行った。
物凄い行列だった。
また来たいほど美味しかった。
値段を上げていなかったので、録音は消すことに決めた。
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