写真の住人

@no_0014

トライ&エラー

ある日、知らない幼馴染みを名乗る男子生徒が、私の家を訪ねて来た。

 「奏!学校に行こう!」

 彼は太陽の様な満面の笑みで私に言った。いかにも元気な男の子の見た目で、私が通わなくなった高校の制服を着ている。


 特に理由はないけれど、学校へ行けなくなった。通信制もあるのでそちらに編入したらどうかと、親と話し合っている時期に訪れた、突然の朝の迎えだった。

 今、両親はどちらも仕事に出ていて家には私しかいない。ちょうど通信販売で頼んでいた物が届いたのだと油断していた。


「どうして私の名前を知ってるの?というか幼馴染じゃないし……。何が何だかわからないんだけど」

「良かったぁー。無視されて会話してくれないかと思った!」

「そうしたいけど……。じゃなくて!私の質問に答えて」

「さっき話した通りだよ。僕と君は幼馴染みで、いつも迎えに来て一緒に登校してたじゃん!幼稚園の頃からずっと!そっちこそ何で忘れてんのさー」

 口を尖らせてわかりやすく不貞腐れた表情をされたが、そんな記憶は一切ない。

「人違いじゃないかな?」

「君は奏じゃないってこと?」

「私は奏だけど……奏って名前の人いっぱいいるし、私はあなたの名前知らないし」

「本当に?」

「何度言われたって……」――あれ?

 あまりの眩しさと少しの鬱陶しさに、ふと、視線を逸らした先の玄関に飾られている写真の中に彼を見つけた。

「……アキ、くん?」

「当たり!なんだやっぱり覚えてるじゃん!びっくりしたー、変な反応しないでよ」

「……?ごめん……??」


 なんだろうか、この違和感は。知らないはずなのに知っている感覚。家族ぐるみで付き合いのある昔からの写真に、彼とその家族も一緒に写っているものが沢山飾られている。

 そしてその一つ一つの写真を見ていくと、無かったはずの記憶があった事のように思い出されていく。


「やっと少しの進歩……かな」

「え?」

 彼の方に振り返ると、さっきまでの笑顔はなくなって真面目な表情でこちらを見ていた。そして、「いいよ、ホログラムを終了して」と彼が言うと、私の家も外も消えて、どこかの施設の様な場所へと変化した。


「初めから幼馴染みじゃないと……彼女の記憶がない状態から思い出す形で家の構造が変化するのは少し改良しないと違和感がある」

ぶつぶつと誰に話しかけるわけでもなく彼は何かを考えている様子だった。

「あの……これって……」

「ああ、ごめん。君はまだ、これからまた生まれてくる写真の中の住人だよ」

「? どういう意味?」

「例えばさ、写真の中の思い出の人を、バーチャルでも良いからもう一度会いたいと思った時にさ、記憶もその人の人格もその人自身になってるところに行きたいでしょ? だから、試作的に一度試してみたんだけど……まだ早かったね。」

「全然言ってる意味が分からない」

「思い出せてないんだよ。僕との記憶を……君が見ている僕は高校生かい?」

「……うん」

大人びた口調に少し緊張が走る。

「まだ、僕は君にさわれない。君はまだ、データだからね。触覚機能も追加して、あとは……」

「データってどういうこと?」

 彼は少し寂しそうに私を見て、手を伸ばしてきた。しかしその手は私をすり抜けて頭部を貫通していた。

 私は自分の体を確認する。所々、私の体からノイズの様なものがぱちぱちと飛び出て、体が波打つように揺らいでいた。



「いつか必ず、また会おうね。君が生きていたあの時代で」


 彼の言葉と同時に、私は消去された。

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