掌の小説~絶対の過ち編~
吉太郎
現場に残された映像記録の書き起こし
以下の文章は、2022年7月10日⚫⚫県県道16号線沿いでガードレールに衝突していた無人の軽自動車内から見つかったビデオカメラの映像記録を書き起こしたものです。
軽自動車の所有者は県内在住の大学生・
また、車内の状況・映像記録から車内には斉藤氏ともう1人乗っていたことが確認されており、調査の結果、斉藤氏と同時期に行方が分からなくなっている友人の
警察は2人が何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとして、捜査を続けています。
《映像記録》
00:01~
暗い車内を恐らく後部座席から映した映像。前方には車のライトに照らされた道路(県道16号と思われる)が車窓越しに確認できる。後部座席でカメラを持っているのが黒木氏、映像右下に映っているのが運転中の斉藤氏と思われる。
黒木「なあ、本当なのか?」
斉藤「あぁ?」
「だから、本当なのかって! お前が見たって言う・・・」
「・・・・・」
「おい、聞いてるのか!」
「本当だよ! だからわざわざ車出して確認しに行くんだろ!?」
「でも、あり得ないだろ? だって、もういないんだからさ!」
「・・・そうだよ。いないんだよ、いないはずなんだよ。でも見たんだよ。この前大学近くの歩道橋からこっち見てるアイツをさぁ! 怖いんだよ! もし本当に生きてたとしたら、俺らは終わりだぞ? これまでの生活も、大学卒業も、もぎ取った内定も、お前の結婚の話だって、全部終わりだ! ・・・だから、確かめる。あの場所に在れば良し。無ければ、もう一度・・・」
「・・・・このカメラは?」
「証拠だよ。というか、俺らにとってのお守りでもある。『もういない』っていうさ」
「・・・・・」
~暫く無言が続く~
10:12~
田畑と山林に囲まれた道路を進むこと10分。道の途中にある退避スペースで軽自動車が止まる。2人は車から降り(斉藤氏はスコップ?と思われるものを携えている)、周辺を見渡し懐中電灯を付ける。カメラは真っ暗な山林を写している。
斉藤「ほら、行くぞ」
黒木「・・・・」
2人は退避スペース脇の獣道から山林に入って行く。以降20分ほど鬱蒼とした獣道を登っていく映像が続く。
32:15~
木々の開けたところで2人が立ち止まる。黒木氏は付近の岩場にカメラを置いて、斉藤氏に近づく。
黒木「ここら辺、だよな」
斉藤「掘るぞ」
斉藤氏が持ってきたスコップで地面を掘る。黒木氏は懐中電灯で地面を照らしている。以降1時間ほど両名が交互に地面を掘る様子が映る。
1:35:27~
暫く掘り進めた後、斉藤氏・黒木氏両名の動きが止まる。映像内全体が暗いので正確には断言できないが、両名の顔は酷く怯えているように見える。
黒木「・・・おい」
斉藤「・・・・・・・・・」
「おい!」
「・・・」
「どうなってんだよ、これ」
「ああ」
「いないじゃないか! 確かにここに埋めたのに!」
「・・・・・」
「クソ! やっぱり生きてたんだアイツ! 俺らに復讐する気なんだよ!」
「落ち着け」
「落ち着けるかよ! ああ、クソ。あの時しっかり死んだか確認すれば・・・、てかあの時酔った勢いで車に連れ込んだのが間違いで・・・・」
「落ち着けって!」
「!」
「確かにいないが、やることはハッキリした」
「おいまさか」
「また見つけ出してヤレばいい。それで解決だろ」
「でもどこにいるかなんて・・・」
「また?」
2:13:08~
掘った場所に土を戻した後、黒木氏はカメラを手に取る。そして両名は足早に元来た獣道を下っていく。
黒木「おい、どうやって探すんだよ」
斉藤「アイツを埋めるとき、身分証とか捨てただろ。もし見つかっても身元が分からないように」
「ああ、確かに」
「あれ、まだ俺の手元にあるんだよ」
「! マジか」
「まずはそこに書いてある住所に行く。いたら殺して、いなくとも手がかりくらいはあるだろ」
「いないよ」
「じゃあすぐ行こう。早めに手を打たないと」
「そうだな」
2:33:58~
2人は車に戻ると、すぐに車を出す。カメラは初めと同じように車窓から車前方を映している。なお2人はかなり錯乱しているようである。
斉藤「大丈夫、大丈夫だ。なんとかなる」
黒木「そ、そうだな。大丈夫だよ。また見つければいいんだから」
「そうだ、なんとかなる。さっさと片付けて飲みに行こう。また新しいのを連れ込んでも良い」
「おいおい、また確認しに来なきゃいけないのか?」
「こりないね」
「それは流石に面倒だな、ハッハッ」
「もうかえれないよ」
「? おい、なんか言ったか?」
「いや、なにも・・・・」
直後、斉藤氏が硬直する。
黒木「おい、どうした?」
斉藤「いる」
「え?」
「いるって」
「だからなにが」
「にげないで」
「いるんだって!」
「おいなにする――」
斉藤氏が突然ハンドルを右に切り、車体が車線から大きく逸れる。映像も大きくブレた後、ドゴンッ、という大きく鈍い音が録音される。
2:51:01~
カメラは後部座席左側のドアを映している。映像端には斉藤氏・黒木氏どちらかの手が映っている。
「やめてっていったのに」
「やめなかったから」
「しぬしかないね」
《映像終了》
軽自動車発見から10日後の7月20日、県道16号線沿いの山林にて斉藤湊氏、黒木雄馬氏両名の遺体が地面に埋まった状態で発見された。遺体には首を絞められたような跡があることから、警察は絞殺であるとみて犯人の行方を追っている。
また、証拠として押収されたビデオカメラ内の映像にて、女性と思われる人物の声が度々録音されていたが、未だに身元は分かっていない。
掌の小説~絶対の過ち編~ 吉太郎 @kititarou
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