第12話 空中戦
夜を悶々とした気持ちで過ごした翌朝。
なんとか昨日は寝たふりでやり過ごしたけど、これからどうしよう……。そんな気持ちを抱えながら村長のお家でご飯をご馳走になって、僕たちは旅を再開した。
今日も天気はいい。お日様の下を歩くのは、気持ちがいいね。悩みなんて吹き飛んでしまいそうだ。
本当に吹き飛んでくれたらいいのに……。
<ふーんふふふーん♪>
僕の前を飛ぶジルは、今にもダンスを始めそうなほどご機嫌だった。
そして、たまに僕の方を振り返っては……。
<えへへ……♪>
顔を赤らめて恥ずかしそうに微笑む。
そんなことをされたら、昨日の夜のことを思い出してしまって、僕もなんだか照れてしまう。
キスしたんだよなぁ……。
ジルは確かにお人形サイズの精霊だけど、その見た目はとびきりの美少女だ。嫌でも意識してしまう。未だに僕の下唇には、彼女の小さく柔らかな唇の感触が残っているような気がした。
◇
わたくし、シーネは現状を憂いて隣を飛ぶノアに耳打ちしました。
<ノア、わたくしは現状を緊急事態だと思っています。あなたはどうですか?>
<おなじ……>
ノアが小さな声で呟くのが聞こえました。ノアも現状を緊急事態と認識しているようで安心しました。
緊急事態。
それはジルの蛮行によって、リュカがジルのことを意識し始めてしまったことです。
リュカがジルを女性として意識しているのかはわかりませんが、わたくしとしては面白くありません。面白くありませんが、ジルがわたくしたちより一歩リードしていることは確かでしょう。
<現状を打開するには、なにかアクションを取る必要があります。しかし、どんな行動が適切かは……>
下手に行動してリュカに嫌われたくはありません。しかし、現状に甘んじるのも……。
その時、ノアが浮かれて飛んでいると一目でわかるジルを指差しました。
<なぞる……>
その時、わたくしに雷が落ちたような衝撃を受けました。
<ノアは、ジルの行動をなぞれと言っているのですか!?>
<ん……>
ノアがコクリを頷きます。
たしかにそれならリュカに嫌われることなくジルと同じ立場に立てるのでは!?
<し、しかし、それでは所詮は二番煎じ。ジルほどのインパクトをリュカに与えられないのでは? たとえば、ジルは下着をリュカに見せつけていましたが、こちらは裸体を……>
<それは、痴女……>
<くっ!?>
た、たしかに! それではたしかにただの痴女です。このわたくしとしたことが、そんなはしたないマネをしようとしてしまうとは……。今のわたくしは冷静ではないのかもしれません。
しかし、ことはリュカに関することなのです! 冷静ではいられません!
<では、ノアはリュカに見せるなら下着がベストだと言うのですか?>
<ん……>
ノアが再びコクリと頷きます。ノアの黒いドレスは、いつの間にか下着が見えやすいようにミニスカートに変わっていました。
いったいいつの間に……。しかし、その姿からはノアの本気が伝わってきます。
<ジルは天才……>
<え?>
ノアの言葉にわたくしは疑問を浮かべざるを得ませんでした。
ジルが天才? あのなにも考えてないような能天気な風の精霊が? そんなバカな……。
<ジルは考え無し……>
<? そうですね。たしかにジルは考え無しです。ですが、ジルが天才とはどういう意味ですか?>
<行動は最適……。天然、怖い……>
<ッ!? そういうことですか……>
たしかに、ジルは考え無しのあんぽんたんですが、その行動はこの短期間で確実にリュカの関心を引いています。そこになにか計算があったわけではないと思います。しかし、ジルが最善の行動をとり続けているとしたら?
そして、事実ジルは結果を出しています。
わたくしはジルと初めて会ってからこの十六年で初めてジルに恐怖しました。
ジル、なんて恐ろしい子……!
<ジル、なぞる……>
<わかりました。とりあえずジルの行動をなぞってみましょう。考えるのは、それからでも遅くありません!>
<ん……>
わたくしは白いドレスのスカートを思い切って今にも下着が見えてしまうほど短くします。
<いく……!>
<ええ!>
わたくしはノアに続く形でリュカの顔の前に躍り出ようとしました。
もちろん、わたくしにも羞恥心はあります。下着を意中の殿方に見せるのはとても恥ずかしいです。顔が熱を持ち、瞳が潤むのも感じました。
しかし、女は度胸とも言います。今こそ恥ずかしさを乗り越えるのです!
<え……?>
その時、前を飛ぶノアのスカートが揺れ、彼女の下着が見えてしまいました。
ノアの黒い下着は、とても面積が少なく、まるで紐みたいです。それに布もスケスケで白い肌色が透けて見えました。
なんて恥ずかしい下着を身に着けているのでしょう!? 確実に殿方を誘うような煽情的な下着です。これこそがノアの覚悟なのでしょう。わたくしはノアの覚悟を、彼女の想いの本気を見誤っていました。
このままでは負ける……!
ただでさえジルの二番煎じだというのに、これではいけません。わかっています。わかっているのです。
でも、わたくしはノア以上に過激な下着にすることができませんでした。
ノア……恐ろしい子……!
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