一撃必殺!パイルバンカー!~スキルがなくて追放された俺はパイルバンカーで天下を取ってざまぁする~

喰寝丸太

第1話 誕生、パイルバンカー馬鹿

Side:スルース

 いや、人生、何があるか分からない。

 貴族の家に異世界転生しちまったよ。


「あぇなに」


 ろれつの回らない言葉で、メイドに抱きかかえられている俺は尋ねた。

 俺が指差した先では別のメイドが手から光を放っていた。


「浄化の生活魔法です。なくてはならない技術ですね」


 魔法あるんか。

 胸熱だな。

 これは覚えないと。


「もじゅおしゅえて」

「スルース坊ちゃまはまだ2歳なのにこんなに賢いのなら、スキル鑑定の儀できっと5つぐらいスキルを授かりますよ」


 おおスキルもあるんかい。

 俺は異世界に転生したらやってみたいと思っていたことがある。

 パイルバンカーだ。

 パイルバンカーは金属の杭を火薬で打ち出す。

 遠距離じゃなくて近距離武器だ。

 飛びだしナイフのごつい物だと思ってくれたら良い。


 パイルバンカーはロマンなんだよ。

 なかなか当たらない、そして危機一髪に大逆転の必殺の一撃。

 ロマンだろう。


 パイルバンカーのスキルが得られるなら他は何も要らない。

 今日から寝る前に毎日、パイルバンカースキルを下さいと祈ろう。


 今更だが、俺の名前はスルースだ。

 ザ平凡という感じの名前だが気にしない。


 俺は文字を速攻で覚えた。

 幼児の吸収力を舐めるなよ。


 ここはスキルと魔法の世界。

 ランクの高いスキルをたくさん持っていれば勝ち組らしい。

 魔法は便利技術扱い。

 もちろん魔法でも攻撃を与えられるが、この世界での人間の敵のモンスターと呼ばれる存在に致命傷は与えられない。

 あくまで家電扱いだ。


 パイルバンカーのスキルは欲しいが、もし別のスキルになった時にパイルバンカーができないのは悲しい。

 でどうするかというと魔法でパイルバンカーを再現するのだ。


 まず覚えたのは結界魔法。


「【バリヤー】。できた」


 ふむ、第一段階は成功だ。

 大いなる一歩だと言ってよい。

 よし、一挙に第二段階だ。


「【バリヤー、エクスプロージョン】。ぶべらっきょ」


 ああ、何で寝ているんだ。


「旦那様、大きな音がして、スルース坊ちゃまが血まみれで中庭に!」

「えへへ」


 結界の中に爆発を作ったぞ。

 やった、がくっ。


 意識が戻ったら包帯で全身巻かれてた。

 痛くない所を探す方が難しい。


 何となく家族視線が厳しい。

 どうやら俺は変人か狂人だと思われたらしい。

 3歳で自殺未遂したということになってた。


 敗因は結界の1方向を薄くしておかなかったからだ。

 全方向に爆発したんだな。


 てへへ、失敗。

 若いってのは良いね。

 すぐに治った。


 だが実験する場所は選ばないといけない。

 とりあえず結界魔法の訓練は続けよう。


 ええと、杭を持つ手が危ないな。


「あった。拘束魔法。【バインド】」


 うん、小石が空中で動かない。

 これで良いな。


「よし、最終段階の魔法をやるぞ。【クールウォーター】。うん、水が冷たい」


 これで理論上は準備はできた。

 爆発魔法の訓練がしたい。


「もう嫌になっちゃう。洗濯してもハトの糞が」


 メイドが嘆いている。


「俺が追い払ってやろうか」

「危ない事はしませんよね」

「うん」

「じゃあ軽めにお願いします」


「【エクスプロージョン】」


 爆発が起きぼふんと音がして、ハトが逃げて行った。

 これなら、何度も爆発魔法を放てる。


「無駄な魔力が使えないので助かりました。坊ちゃま、ありがとうございます」

「何度だってやってあげるよ」


 パイルバンカーをやりたくてうずうずするが我慢だ。

 拘束、結界、爆発、冷水の各魔法を極めるぞ。


 そんな日々を過ごして、スキル鑑定の儀の6歳を迎えた。


「始めろ」


「では、行きます。スキル鑑定。こっ、これは」

「どうした?」

「スキルがひとつもありません」

「何だと。くそっ、エクスカベイト家に出来損ないなどいなかった。いいな」

「はい」


 パイルバンカーは無理だったか。

 じゃあ、別にスキルは要らないや。


 俺は屋敷の使用人に連れられて路地裏に放置された。

 おお、追放かよ。

 でも、考えたらこれで自由にパイルバンカーが開発できる。

 お金がないから、まずは木の杭からだな。

 探せば棒ぐらい見つかるだろう。


 棒は裏庭に積んであった薪から一本拝借した。

 そして、石の壁に擦って先端を尖らせる。


 よし、実験するにも目標がないと格好がつかないな。


 前に一度連れられてきた冒険者ギルドに入る。

 確か、地下に訓練場があったはずだ。


 地下への階段を下りる。

 案山子が何体か立っていた。

 よしやるぞ。


「【バインド、バリヤー、エクスプロージョン、クールウォーター】」


 木の杭が空中にセットされ、その後ろに結界ができる。

 結界の中に爆発が生じて、爆発音。

 木の杭が案山子に激突する。

 そして、結界が冷やされ、湯気が少し。

 完璧だ。


 だが余波を食らって俺は少し後ろに飛ばされた。

 些細な事だ。

 反動がないパイルバンカーなんてパイルバンカーじゃない。

 これも醍醐味だ。


「おい、何の音だ」


 冒険者が様子を見に来た。


「爆発魔法の訓練だよ」

「それにしては音がでかかった」

「結界の中で爆発させるとこうなるんだ」

「それって自爆じゃないのか」

「うん、余波がないのはパイルバンカーとは呼べない」


「なんか知らんが、まあほどほどにな」


 全然、想定した威力じゃない。

 案山子に杭は当たったが、僅かな傷だけだ。

 爆発が足りなかった。

 だいぶ加減したからな。


「鉄の杭を打ち込む仕事ってある?」

「石切り場か、鉱山だな。どちらも危険な仕事場だ。子供が行く所じゃない」


 よし、鉱山に行こう。

 ひゃっはぁ、これから毎日パイルバンカーざんまいだ。

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 好評なら10万字は続けます。

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