うらたましろ 〜リューグジョニウムはあります!〜【毎週日曜21時更新】

加賀倉 創作(かがくら そうさく)

第一話『リューグジョニウムはあります!』

【注意】あらゆる分野において、成果物の評価を下す際、その成果物を生み出した者のバックグラウンドや諸属性を理由に不当に低く評価すること、またその功績を横取りすることに対して、加賀倉は断固反対いたします。




 みらいみらい、阿久田あくた素子そし科学ラボラトリーに、浦田真白うらたましろという、素粒子物理学者がありました。彼女は、加速器を用いた原子核同士の衝突合体実験を繰り返し、新たな超ウラン元素発見を目指していた。するとある日、不思議な性質の元素の合成に成功した。


 その元素とは………


 「過去に戻る」性質を持った元素、『リューグジョニウム』だった。


 世紀の大発見により、タイムスリップという人類の夢の実現に一歩近づいたかと思われたが……



***


 

 __国際研究公正委員会による調査報告会にて__


 委員長が、険しい表情で、壇上に立つ。

 彼は、視線の先に座る浦田真白に、こう言い放った。

「浦田真白氏は、その研究論文『一二六番元素の合成と時間逆行運動』において、時間移動元素『リューグジョニウム』の合成実験に成功したと発表した。しかしながら再実験の結果、同氏の実験には再現性の欠如が認められた。また、論文内にデータの改竄が散見された。よって、国際研究公正委員会は、迅速な論文の撤回を要求する。以上」

 

 浦田真白は、冷たい判決を突きつけられた。

 しかし彼女は、勢いよく立ち上がって、こう叫んだ。

 

「リューグジョニウムはありまぁす!」

 

 浦田真白うらたましろの魂の叫びは、会場中に響き渡る。

 

 その声は、誰にと届かず、会場はしんと静まり返った。



***



 浦田真白による衝撃的な論文の発表からその論文の撤回要求までの一部始終、通称『リューグジョニウム事件』は、各メディアで大々的に取り上げられた。その波紋は瞬く間に広まり、世間の人々から浦田真白に向けられた批判は、どれも散々なものだった。

 

「過去に戻る性質を持つ元素を発見? SF映画じゃないんだからよぉ、笑わせてくれるよなぁ!」

「リケジョ乙www」

「なんだ、やっぱり不正か。最初からなんか胡散臭いと思ったんだよな」

「これだからリケジョはダメなんだ」

「研究成果が認められなくて悔しい? お得意の『リューグジョニウム』を使った時間逆行で、一昨日来やがれ!」


 浦田真白は、人々の心無い声に、打ちひしがれた。

 そして彼女は、世間を騒がせた大ボラ吹きのレッテルを貼られたまま、科学の表舞台から消えてしまった。


***


 ——どうして……どうして誰も信じてくれないの?

 リューグジョニウムは、生成後、限りなくゼロに近い一瞬の間に、崩壊した。

 でも確かに、過去に戻ったの。

 リューグジョニウムはある方向に飛んだかと思ったら、なぜか飛んできた軌跡のある地点に瞬時に戻って、再び同じ動きをした。

 その動きを捉えた、電子顕微鏡のデータだって提出したのに……

 改竄だの、不備だの、再現性が無いだの……国際科学公正委員会は、根も葉もない不正をでっちあげた!

 再現性がないですって?

 本当は再現できたのに、追試の担当が、権力者から金を積まれて、わざと、再現できないフリを装った!

 権力者どもにとって、過去へのタイムスリップが実現するのは、よほど都合が悪いことなんでしょうね。

 奴ら自身の過去の不正や、スキャンダルを掘り返されたくないから、さらに不正を犯して、それを阻止する。

 私は、そんなろくでもない連中に、おとしめられたのよ。


〈第二話『農業への猜疑心』に続く〉

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