第20話 冬の信州に旅したら本当の意味で温泉に開眼した話
これも25年くらい前の話ね。
12月の週末休みに妻マキと信州に旅をしたのさ。
まずは上野から長野新幹線に乗って行った。
群馬からトンネルを抜けたら軽井沢はすでに景色が雪と氷で凍てついていた。
寒々とした信濃路の景色を車窓に眺めながら進んで、列車の終点、長野駅で下車して善光寺に行った。
…善光寺参りを済ませたら、次はJR篠ノ井線の特急列車に乗って松本に移動、天下の名城松本城を訪問した。
城の中を見学したけど、何しろひたすら寒い!
もちろん暖房器具など無いし、外敵への攻撃のための石落としやら矢を放つやらの開口部があちこちあって、さらに周りの堀の水面からの冷気が城内部にスースーと侵入して来るのよ。
身体の芯まで冷えきって、夕刻の城内で凍死しそうになったので、俺たち夫婦はサッサと松本駅に戻り、特急あずさに乗って東京方面へと帰路についた。
列車が発車すると、あっけなく日が沈んで景色は夜の闇に覆われて行った。
ところが列車に乗ってもなお、芯まで冷えた身体は寒さに震えていた。
車内は暖房も入っているはずなのにだ。
たまらず持参の「るるぶ信州」で調べると、上諏訪駅の近くに立ち寄り温泉があるのを発見!……俺はマキにもはや凍死30分前だと訴え、上諏訪駅で2人途中下車したのさ。
…諏訪湖畔の街、上諏訪はしかしさらに寒かった。
何しろ諏訪湖自体、水面の標高が759メートルもあり、周囲はさらに高い山が囲む盆地の街なので寒いのも当然なのだ。
俺とマキは線路と諏訪湖の間の夜道を歩く。
湖面から吹いて来る風がチクチクと刺すように冷たく痛い!
パラパラと建ち並ぶ温泉旅館の裏手を通って、駅から徒歩10分ほどで立ち寄り温泉施設に着いた。
この立ち寄り温泉は「片倉館」という施設で、昔の紡績工場の跡とのこと。
いかにもレトロ風な木造建物の玄関で靴を脱いで中に入ると、緋色の絨毯が敷かれた廊下が奥へと続いていた。
廊下を進んで行くと男女別の浴場があり、俺はいそいそと服を脱いで浴室へと入った。
湯けむりに包まれた浴室は床も浴槽もタイル張り、壁の高い部分にはステンドグラスの飾り窓があった。
とりあえず冷えきった身体にかぶり湯して長方形の形の浴槽にゆっくりと入った。
「…んあ〜〜っ!」
…思わず言葉を洩らしながら身体を沈めると、最初は冷えた肌に熱く感じたお湯が、じんじんと身体に沁み込むようになじんできて、やがてじわじわと内部を温めていく感じが心地良い。
「へぁ〜〜〜っ…!」
大きく息を吐いてくつろいで見れば、そのお湯は深緑色、しかも浴槽は深くて、俺の胸近くまでお湯を湛えている。…浴槽の底は丸い石がごろごろ敷いてある感じだ。ただしお湯の色に隠れて上からは見えない。…ひょっとしたら底からお湯が湧いているのかも知れないぞ。
まぁ浴槽ふちには一段の座り縁があるのでお湯の中で座ることも出来るのでリラックスして入れる温泉だぜ。
2〜3分も浸かれば身体はポカポカと温まり、温泉の効能が優しく体内を潤す感覚に包まれる。
もう本当に極楽極楽!
…身体の芯までぬくぬくあったまってお風呂から上がり、施設のパンフレットを貰って見ると、この温泉は紡績工場の女工さんが昔入っていたものだった。
一度に大勢入れるように深い浴槽(立って入れる)になっているのだ。(百人風呂と言われていた)
…マキと2人、幸せのポニャリン顔になり片倉館を後にして上諏訪駅に向かうと、さっき針に刺されるようだった湖面からの風が、湯上がりの身体に心地よい。すごいぜ、行くときと全然違〜う!
いや〜!…温泉って本当にありがたい。
温泉は日本の宝です!
と、初めて心の底から感動しつつ、俺は上りの特急列車に乗って家路についたのさ。
って話でした。
第20話 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます