第16話 渋々参加した猛暑日のゴルフコンペは何だか意外に面白かった話
28年くらい前の話かな。
その頃俺は会社員で営業職だったのよ。
8月に会社が属する業界のゴルフコンペがあってさ。
取引先数社が参加するそのコンペに出ろって話が来たのよ、この俺に。
正直、俺はゴルフなんて好きじゃないし、興味もないんだけど会社の命令だから渋々参加した訳さ。
場所は茨城県中部のゴルフコース。…とにかく暑い日だったね。カンカン照りで風もなく、気温も38〜39度くらい出た、何しろ当時史上最高気温を観測した日だったのよ。
しかし、実際コースに出てみると、参加メンバーの人たちはみんなゴルフ大好きな奴ばっかりで、今日はスコア目標このくらいで廻りたいねぇ!とか言い合ってウキウキしてるおじさんばかりだった。
俺たちの組に付いたキャディさんは、ややポッチャリとした人の良さそうなおばちゃんだった。
「僕は普段全くゴルフやらない下手くそ初心者なんで、持って来たボールだけで足りるか心配なんですよ〜」
俺がそうこぼすと、
「ありゃ、そうけ〜!?…分かった、任しときな〜お客さん!(茨城弁)」
キャディさんはなぜか力強く笑顔で応えてくれた。
プレイが始まると、メンバーの人たちはナイスショットでフェアウェイへ。
俺のティーショットは右に左にグインと曲がって木立ちの中へと飛んで行った。
他の人たちはフェアウェイを悠々と和やかに進んで行ったが、俺は木々の間をセカセカと進んで行った。
「とりあえず1打づつ前の方向さ進めば必ずグリーンに行くっからな〜お客さん!」
キャディさんに優しいアドバイスをもらいながら俺も頑張ったさ。
グリーン前に池などありゃあ、もちろんお約束の池ポチャもしたさ。
「任せとけ〜お客さん!」
するとキャディさんは柄の長い虫取り網を出して来て、池の底をさらうようにザバザバッ!と操作してボールを何個もすくい上げたのよ。
「ほら見てお客さん、こんなに取れたっぺよ!」
…素敵だぜ、キャディさん!
そんなこんなで、8ホールまで進んだとき、メンバーたちの状況がちょっと怪しくなって来たのさ。
「…何だか気分が…身体がフラフラして来た」
「私もちょっと目まいが…」
口々にそんなことを言い出したのよ。
考えてみりゃ今日は史上最高気温のカンカン照り、ずっと日なたのフェアウェイを進んでりゃあ熱中症になるのも当然の話。
その点俺は木陰の林間コース。
下手の功名、日陰で良かった。
って訳で結局、9ホール、ハーフラウンドで三分の1くらいのメンバーがダウンして棄権となりました。
俺はとにかくたくさん打数叩きながらも最後までコースを回り、脱落者多数のため順位も最下位にならず、かつ持って来た数の5倍くらいのボールをキャディさんからお土産に貰って帰るという、何だか面白いゴルフコンペとなった日だったのさ。
ま、だからと言ってゴルフが好きになった訳じゃないけどね!
ってお話です。
第16話 完
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