勇者パーティーをクビになった召喚士は勇者の仲間(♀)を召喚してしまった……。

ナガワ ヒイロ

第1話 召喚士は勇者パーティーをクビになる






「お前は!! 今日で!! 勇者パーティーを!! クビだ!!」


「……え?」



 酒場で酒を呷っていた最中。


 俺の所属する勇者パーティーのリーダーであり、女神の加護を授かった勇者ベイルが俺に向かって苛立ちを隠さずに言う。


 まだ酔いが回る前だったので聞き間違いということはない。


 たしかにベイルは俺にクビと言った。



「え? え、クビ? え?」



 俺はただ困惑することしかできない。あまりにも突然すぎた。


 は? この男は何を言ってんだ?



「なに白々しい顔してんだ!! 昨日も今日も、お前のせいでクエスト失敗してんだよ!! 勇者のオレの名声も落ちてんだよ!!」


「いや、でもそれは……」


「文句があるなら言ってみろ!!」



 文句があるなら言ってみろとベイルは言うが、その迫力は反論を許さない勢いだった。



「少し落ち着きなさいよ、ベイル」


「急に怒鳴るな、なのです。お前の声は頭に響いてうるさい、なのです」


「そうですよぉ。それに別にアスターさんだって悪気があったわけではないでしょうしぃ」


「あ、給仕殿。すまないが、酒のおかわりを頼む」


「……」



 そう言って俺を擁護したのは、同じく勇者パーティーに所属するメンバーだ。


 いや、一人こっちの話そっちのけでお酒を注文してる人もいるけど……。


 全員、美少女美女である。


 ベイルが自分の好みで勇者パーティーに加入させた人物ばかりだが、揃いも揃って女神を名乗って良い美貌だ。


 俺は心から安堵して笑顔を浮かべた。



「みんな……。ありが――!!」


「アスターは黙ってて」


「あ、はい」



 仲間の一人、勇者パーティーのサブリーダー的なポジションにいるフィレアがゴミを見るような目でキッと俺を睨む。



「やっぱり昨日の事件、根に持ってる?」


「逆に聞くけれど、根に持っていないと思う?」



 どうやら相当お冠らしい。


 殺気すら感じさせる視線に俺は「……ごめんなさい」と謝罪して黙ることにした。


 俺の名前はアスター。


 顔立ちは整っている方だと思うが、黒髪黒目という目立たない容姿のせいで、勇者パーティーでの知名度は最も低い――ということもなかった。


 俺は主に悪い意味で有名だったりする。


 勇者パーティーに所属する、しがない三流召喚士である。


 三流……。そう、三流なのだ。


 そして、それこそがフィレアのブチギレている理由と言っても過言ではない。



「……触手の件は本当に反省してます」


「ふん」



 つい昨日の出来事である。


 俺たちは村の近くに住み着いたドラゴンを退治するクエストを受けた。


 しかし、予想よりもドラゴンが強かった。


 結局パーティーメンバーの半分がやられてしまい、撤退することになり……。

 俺は撤退の時間を稼ぐために召喚術で生き物を呼び出した。


 召喚術は生き物を呼び出し、使役するもの。


 でも俺の召喚術は誰かに教わって習得したものではない。


 要は独学なのだ。


 そのため、呼び出した生き物を完全に掌握し、使役することができない。


 具体的に言うと一回しか命令できない。


 しかも呼び出す生き物の大まかな強さは設定できるものの、たまーにやばいのを呼び出してしまったりする。


 普通の召喚士なら呼び出した生き物を元の場所に戻せるそうだが、俺はそれもできない。


 まあ、つまりだ。


 呼び出した魔物にドラゴンを相手に時間を稼ぐよう命令したら、思ったより魔物が強かった。

 何十本もの触手を自由自在に操る、イソギンチャクのような魔物だった。


 イソギンチャクはドラゴンを絞め殺し、俺の命令を遂行したのだ。


 そう、たった一回しかできない命令を。


 当然ながら命令を全うしたイソギンチャクは俺たちにも襲いかかってきた。


 しかし、幸いにもイソギンチャクは肉食ではなかった。


 いやまあ、女性にとっては不幸だったな。


 そのイソギンチャクは女性の体液を主な餌としているようで、勇者パーティーの女性陣に絡み付いて色々なコトをしやがったのだ。


 まったくけしからん生き物である。……またいつか召喚したい。



「それだけじゃねぇだろ!! この前は軍隊スライム!! 更にその前はどっかのダンジョンのボス!! そいつらが暴れて国に被害が出たんだぞ!!」


「それは貴方が無計画に厄介な敵に挑んで、撤退する時に呼び出しただけじゃない。分不相応の敵に挑まなければ問題なかったのよ」


「ぐっ、うるさい!! オレは勇者だぞ!! 女のくせに指図するな!!」


「……あのね。その女を勇者パーティーに無理矢理加入させたのはどこの誰かしら? 文句は過去の貴方に言うことね」


「うるせえ!! とにかくそこの無能召喚士はパーティーを追放だ!!」



 そう言ってベイルはジョッキの中の酒を飲み干し、宿にもなっている酒場の二階へと行ってしまった。


 残ったのは俺と勇者パーティーの女性陣のみ。



「ったく、あいつは……。でも、そうね。正直に言うなら、あいつの意見には私も賛成よ」


「え?」


「あ、言っておくけれど、名声とかそういう理由じゃないわよ?」



 急に手のひらを返されてびっくりしている俺にフィレアが言う。



「……貴方は、実力不足だわ」


「あー、やっぱり? 自覚はあったんだよね」



 俺は基本的に勇者パーティーの雑用をこなしている。

 パーティーの皆ができることを、やらせてもらっているに過ぎない。


 こと俺自身の戦闘能力は低いのだ。


 非力だし、足遅いし、たまに呼び出す生き物はトラブルばかり起こすし。


 むしろ足を引っ張っているかも知れない。



「まあ、パーティーを辞められない理由は分かるけどね。国の期待を裏切れないのは私たちも一緒よ」


「……うん」



 ベイルを覗く勇者パーティーの面々は、魔王を倒すために各国が自国の民から代表を選び、その中からベイルが決める形で結成した。


 俺の故郷の国はド田舎。


 しかし、ド田舎国にもド田舎国のプライドがあるらしい。

 召喚術を習得したばかりの俺を国が勝手に代表に選びやがったのだ。


 そこから更に勇者パーティーのメンバーを絞るわけだが……。


 俺は何故か最後まで残ってしまった。


 故郷の王様に「わしはお前が誇らしい!! 無事に魔王を倒したらわしの娘をくれてやる!!」って言われたのだ。


 期待が重いったらない。


 ベイルも流石に女だらけのパーティーにするのは対外的にまずいと思ったのか、男の中で一番弱そうな俺を選んだみたいだし。



「……でも、そうだな。良い機会かも知れない」


「「「「「?」」」」」



 もういい加減、潮時だろう。



「俺、勇者パーティー辞めるわ。一から召喚術を学び直そうと思う。独学の限界だろうしな」


「……そう。当てはあるの?」


「まあな。魔術学校ってあるだろ? あそこなら召喚術のこととか学べそうだし、行ってみようかな」



 そう言うと、フィレアは笑った。


 他の勇者パーティーのメンバーもどこか寂しげに笑っている。



「なら今日は飲み明かしましょう!! 激励会よ!!」



 フィレアがジョッキの中の酒を呷りながら言う。


 俺も飲みに飲みまくった。二日酔いになるのも覚悟で飲みまくった。


 そして、朝起きたら俺を除いた勇者パーティーの面々は宿を取り払い、次の町に向けて出発していた。


 見送りくらいはしたかったが……。


 ベイルが何か言って俺が起きる前に出発したのかも知れない。


 取り敢えず二日酔いになってしまったので、俺は気持ち悪いのが治まるまで宿屋のベッドで休むことにした。


 その更に翌日のことだった。


 出発した勇者パーティーのサブリーダー、フィレアと再会する羽目になったのは。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「一回だけ何かに命令できるなら、貴方は何にナニを命令しますか?」


ア「欲が出てる出てる」



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