第29話 恋人

 人の話を最後まで聞かないで、勝手に結末を考えてしまう。

 そういえば、これも私の悪い癖だった。


「霧先輩……私達、シちゃいましたね」


 隣で枕に抱きつきながらスヤスヤと眠っている霧先輩を見て、私はふと思う。

 もし、私と出会っていたのが霧先輩ではなくて別の人物だったら、今隣には誰もいなかったのだろう。


「ホントに、大好きです……」


 自分を気づかせてくれた、否定をしないで受け入れてくれた、そして何より、激しい夜を共にしてくれた。


 そんな先輩に、私は紛れもない恋心を抱いている。

 時刻は夜の九時手前。


 ラブホに入ってからあっという間に四時間程経過していた。

 時間を忘れるくらいに激しかった私たち。


 体はどっと疲れ、喉はカラカラ。腰は痛いし足に力が入らない。

 私はまだそれに慣れているから大丈夫なんだけど、隣にいる霧先輩は心地よさそうに眠っている。


 ……最高の時間だった。


 あんなにも愛を感じられるエッチは、生まれて初めての感覚だった。

 本当に心から求められている感じ。


 息をするのすら忘れるほどに、相手に夢中の状態は和奏の時ではあり得なかった。

 今でも、霧先輩の淫らな喘ぎと漏らす甘い声が私の耳に残っている。


「あ……おはよ」


 じっと霧先輩の顔を見てると目が覚めて、まだ眠い目を擦る。


「……おはようございます」


「今、何時くらい?」


「九時ちょっと過ぎたくらいですよ」


「ここの退出時間まではまだ時間ありそうだね」


「まだ寝てて大丈夫ですよ。霧先輩疲れてるでしょうし」


「ううん疲れてるけど大丈夫だよ。ありがとね」


 優しい口調で言う霧先輩は、私の頬にそっと手を添える。


 この二人でベッドにいる時間が私は好きだ。

 散々愛し合った後に、ゆっくりとベッドの上で時間を過ごすことによって、さらに愛を確かめられるから。


 とか、綺麗なことを言っている私だけど……正直、霧先輩がエロ過ぎてそれどころじゃない。

 思い出しただけで濡れてくる。


 舐め回したくなる綺麗な体、壊したくなる表情、録音していつでも聞けるようにしたい喘ぎ声。


 そしてなにより、私だけを見てくれていたこと。

 霧先輩の求めてくる顔を思い出すだけで子宮がうずいてしまう。


「霧先輩、その……関係を曖昧にしたくないって言ってたじゃないですか――」


 私は布団を被りながら、心の中で引っ掛かっていたことを聞いてみる。

 あの言葉の意味を私は知りたい。


「こうゆうことをするのってさ、友達じゃ絶対にありえないことでしょ? だから、萌音ちゃんとは特別な関係になりたいなって」


「友達だけどシたい時にスるだけのセフレじゃなくて、恋人ってことですか……?」


「そうなる……ね」


「霧先輩は、私のこと好きなんですか……?」


「好き……だよ。恋愛自体初めてな私はこの感情をちゃんと理解できていないだろうけど、好きじゃなかったら、私は心も体も許さないと思うから」


「私も好きです。霧先輩のことが」


「うん、ありがと」


 ここで、なんで私のことを好きになったんですか? なんて野暮なことを私は聞かない。


 だって霧先輩の顔を見れば……全てが分かることだから。

 どうやら、私の一目惚れは運命だったようだ。


 最初から結ばれるために私たちは出会ったと言っても過言ではないくらいに、私と霧先輩は恋人になった。

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