第27話 関係が曖昧になるのが私は嫌だったから

「萌音ちゃん……はぁ、はぁ……一回聞いて欲しいんだけど……」


「なんですか? 霧先輩……。もっと激しいのが好きでしたか?」


「そうじゃなくて、私が誘ったっていう話なんだけど……」


 目を逸らす霧先輩を見て、私の脳裏に過る嫌気。




「私さ――」




 嫌だ……聞きたくない。


 もし、私の勘違いでここまでしてたら……無理して霧先輩に付き合わせていたら……。




 無理矢理だったら私はもう――




「萌音ちゃんをこうゆうことをするために、休憩しようって言ったわけじゃないんだよね」




 相手のことを気にせずに暴走して……。

 私利私欲のせいで同じ過ちを犯してしまってる――




「ご、ごめんなさい……っ……ごめんなさい……っ。霧先輩……」


 どんな言葉よりも先に出たのは謝罪であった。

 大切な霧先輩を傷つけてしまったことに対して。

 そして、何も学習していない自分に対しての謝りだった。


「私……また勝手に暴走して――霧先輩に嫌な思いをさせてしまって……もう絶対に相手から言われない限りは手を出さないって自分で決めたことなのに……」


 ポロポロと、ベッドのシーツには雫がこぼれ落ちる。


「霧先輩とは、もっと順序を踏んで仲良くなって関係を築きたかったのに……私の勘違いで……本当にごめんなさい……」


 私の声はしゃがれ、足にはもう力は入らなかった。

 霧先輩の関係も今日でもうおしまいだ。


 詩音先輩が私の為を思って出会わせてくれた霧先輩。

 もっとずっと一緒に居たい……。

 色んなところに行って、沢山一緒に色んな経験をして……。


 やりたいことなんて山ほどあるのに……今日でただの夢物語になってしまった。

 何も学ばないんだ、私って……。


 理性を保てない、制御できない自分の無力さに涙が止まらなくなる。


「霧先輩……先に帰って大丈夫ですよ……。ここの料金は私が払っておくので」


 はだけた服で私の方を見つめる霧先輩にシーツを被せると、目を合わせないように後ろを向く。


 もうどう顔を合わせていいか分からない。

 さぞかし幻滅した顔を浮かべているのであろう。


 性欲の強い危ない後輩と思われて、蔑んだ目を向けられているのだろう。

 そう考えるだけで、怖くて体が縮こまる。

 早くこの場から消え去りたい、居なくなりたい。

 小刻みに体を震えさせていると、


「……んっ」


 突然、柔らかい人肌の温もりに全身が包まれる。


「萌音ちゃん……。私の話、最後まで聞いて欲しいな」


 その温もりの正体は、私のことを後ろから優しく抱きしめている霧先輩だった。


「霧先輩……なんでっ……! 私は酷いことをしたのに……なんで私に優しくするんですか!」


 全部が嫌になって、振り払おうとするが霧先輩がそれを全て受け止めてくれる。


「私、萌音ちゃんに迫られて嫌だって言った?」


「言われてないですけど……。勘違いだって霧先輩は。そう私に伝えたかったんじゃないですか……」


「勘違いだってことは伝えたかったよ。このまま流れでシちゃって、関係が曖昧になるのが私は嫌だったから」


「それってどうゆう……」


「初めては流れじゃなくて……ちゃんと相手を見ながらシたいなって。相手のことを思って、相手に思われて……。それが分かってた方が、エッチって気持ちいものなんでしょ?」


「……」


 その言葉に、私は胸を打たれてしまった。


 霧先輩も私と同じ感情を抱いていたんだ。

 愛のあるエッチが気持ちいいことくらい、いくら経験してなくても分かりきっていることだ。


 流れに任せてただ快楽に溺れるのじゃなく、その行為自体に意味を持ってシたいと。


 だから、その場に流されずにそれを伝えてくれたのだろう。


「だからさ――」


 霧先輩の吐息が耳に吹きかかる。

 背筋がゾクリとする私を畳みかけるように、


「私、萌音ちゃんがシたいなら……いいよ」


 そんな言葉が囁かれた。


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