共学出身者が描くもし男子校生だったときに共学の話を聞いたらの話

あきカン

第1話

 毎日通っているファミレス前で、俺たちは中学で友達だった中井に出会った。

 そいつは、共学に通っていた。


「なあ、知ってるか。共学って消臭剤使わないんだぜ」


 それは俺たちが中学時代、話し合っていた妄想の話だった。男子校はどこも男の臭いが漂っていて、教室には必ずファ◯リーズが置かれていた。


「女子の匂いってどんな感じなんだ?」


「俺はラベンダーの香りって聞いたことある」


「シンプルにお日さまのにおいだろ」

「どんな匂いだよ」


 中井は「全然違うと言い放った」


「あれは、日焼け止めの香りなんだよ」


 俺たちは、おっふと心のなかで呟いた。


「隣を歩くとさ、ふわっと香ってくるんだよ。んで、思わず顔が振り向いちゃうわけ」

「もっと詳しく聞かせろ」


 俺は中井に言った。


「ああ、あるある。石焼きイモとかね」

「おい、邪魔すんなよ」


 頭のなかで思い浮かべていた女子の頭が焼き芋になり、俺は隣の早川を小突いた。


「あと、保健室の先生が女なのもいいよな!」

「そこは男にしろよ! 俺たちの唯一の特権だろ」


 とはいえ50代の若干お婆ちゃんだ。若い頃は美人だったらしいが、今はただのサイズの大きな白衣を着た子供のような人である。皆からは「サエちゃん」と呼ばれている。


 中井は言った。


「保健室の先生って、だいたい優しいだろ? 若くて美人なのに、優しいとか最強だろ」


「中井、お前は人生の運を使い切ったな」


「明日死んでも恨むなよ・・・神を」


「神かよ。せめて寿命で死なせろ」


 この一年で口も達者になったらしい。


「そういえば昔こんな話あっただろ。共学には女子のパンチラスポットがあるって」


「ああ、あったな」


 ほとんどが犯罪みたいな案しか出なかったが。


「あるんだよ、本当に」


「ホントか!? どこだ」


「まあ待て、お前らもよく知ってるだろ。エロは受けより攻めだって。ただのエロ本より奥ゆかしい青年誌の方がインスピレーションが刺激されるということを」


「脳内で脱がす奴な」


 あったあったと俺たちは頷いた。


「まずは想像してみろよ。周りに女子がいて、しかも窓際にいるとき、急に風が吹いてスカートが捲れる瞬間を」


「おい、まさかそんなマンガみたいなことが起こるのか?」


「いや、俺は見たことないが。しかしな捲れそうになったスカートを押さえるだろ。そこで手が机から鳩尾の方に下がるんだよ。そしたら話しかける理由ができるだろ? 腹痛いの? って」


「お前・・・天才だな」


 俺たちは授業料とばかりにフライドポテトを一本中井の皿に置いた。


「今度使うわ」


「間違っても生理とか言うなよ。マジで殺されるぞ」


「何があったんだよ」


 言ったのか・・・コイツ。もしかして。


「本題だ。基本的に男は女子にアクシデントが起こった時しか話しかけるチャンスはない。しかしだ。唯一自力でチャンスを作る方法がある」


「よし聞こう」


 俺たちは前金を払って中井を見つめた。


「自分で落とし物をして拾えばいい。しゃがみ込む瞬間にオアシスが開けるかもしれない」


「おお! 中井、お前はやっぱり天才だ!」


 俺たちは中井に向かって拍手をした。

 それ以降もつらつらと共学の知識を語る中井を俺たちは親しみを込めて「教授」と呼ぶことにした。


「んで、共学(そっち)で彼女はできたのかよ」


 すると、これまで喉が乾くと頻繁に飲んでいたコップから中井の手が離れた。


「いや、彼女はまだだ」


「なんだよ、やっぱりお前もまだこっち側なんだな」


「おい、エロ教授。写真はないのか?」


「それやったら犯罪だろ。妄想は頭の中だけにしとけよ」


 俺たちは一斉に残りのフライドポテトを掴んで口のなかに放り込んだ。


 去り際、俺たちは中井に向けて言った。


「中井・・・お前、変わったな。そんなつまんない奴になるなんて」


「俺は・・・やっとまともになれたんだ」


 俺たちは先にファミレスを出た。


「さ、早く帰ってゲームの続きしようぜ」


「サエちゃんが新作見せてくれるって言うから明日見せてもらいに行こうぜー」


 それから俺たちは中井と会うことは無かった。

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共学出身者が描くもし男子校生だったときに共学の話を聞いたらの話 あきカン @sasurainootome

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