聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね?

にがりの少なかった豆腐

第1話 ペンダントが盗まれました

 


「あれ?」


 夕食を終え、自室に戻って来たところで机の上に置いておいたある物が無いことに気付きました。


「確かここに置いたはずですが」


 何かの拍子に机から落ちてしまった可能性を考え、周囲を探しますがそれらしき物は見つかりません。


「ここに置いてあったペンダントを知らないかしら?」


 側に控えていたメイドに問います。しかし、芳しい答えを得ることは出来ませんでした。


「貴方はずっとここに居たのよね?」


 普段からこのメイドは私の部屋に常駐している者です。まあ、私が部屋にいる間は、部屋の外に居ることが多いので、メイドというよりは私が居ない間に部屋を監視する警備員に近い存在ですね。


「申し訳ありません。当主様からの指示と言われ、数刻ほどこの場を離れていました」

「そうですか」


 私付きのメイドの1人ではありますが、本来の主人は私のお父さまです。お父様からの指示となれば私の指示よりも優先すべきでしょう。


「ですが、あの」

「なにかしら」

「当主様からの指示にしては少々容易な内容でしたので、確認を取って貰った方が良いかもしれません」

「なるほど」


 となれば、無くなった理由は1つでしょうね。どう考えてもこの場に誰も居なくなった時にペンダントが無くなったと見るのが妥当でしょう。そして、その指示を出したのはお父さまではない可能性がありそうです。


「この部屋に誰が入ったかわかるかしら?」

「申し訳ありません。この場を離れていた時のことは……」

「そうよね」


 もしかしたらという考えもありましたがわかる訳がないですよね。

 ですが、私のペンダントだけを持って行ったという事からして、ある程度は持って行った者を絞り込めそうですね。


 それに私が夕食に行っている間、且つ、メイドに指示を出せる者となればおそらくあの子でしょうけれど。


 あのペンダントは私が聖女であることを示す大事な物なので、出来るだけ早めに見つけなければなりません。ただまあ、所詮は所有者を聖女と示すだけのペンダントなので、重大な悪用が出来るような物ではありませんから、悪用される心配はしなくても良いでしょう。そこについては少し気が楽ではありますね。


 

 翌日、朝食の時間がやって来たので食堂の方へ移動します。


 我が家は一応伯爵家です。ただ、格としては伯爵家でも下位に位置しています。長い事、経済状況が宜しくなかったのです。


 そのため、数年前の段階でお父さまは第2夫人を取る必要が出てきました。普通であればお金がない状況で第2夫人を迎えることは出来ませんが、第2夫人の実家からの援助を求めての物なのです。


 ただ、援助してもらえることになったのは良いのですが、第2夫人の方の実家は貴族家ではなく商家なのです。そのため、貴族としての作法がおざなりと言いますかよくありません。


「あら、ミーシャさん。お早いですねぇ」

「貧乏人は忙しいから早く食事を済ませたいのよね」

「貴方たちが遅いだけではないでしょうか」


 家族全員が揃うまで朝食を食べることが出来ないため待っていると、最後の人物たちがようやくやってきました。


 遅れていたというのにその一切悪びれず、むしろ上から物を言う人物が第2夫人になります。その後ろにいる、私たちの事を貧乏人と言った者が第2夫人の連れ子である義妹に当たります。


 2人は自分たちの方が立場が上と思っているようですが、実際はこの家での中では最下位に当たります。他の家族は反論できないのではなく、色々と言いたいことがあっても呑み込んでいるだけです。現状、ある事情から商家からの援助を必要ないくらいには我が家は安定した生活を送ることが出来ていますので。


「早く座りなさい」

「ええ」

「うっふふー」


 何やら義妹の機嫌がいいですね。普段は朝起こされて不機嫌なことが多いというのに、不思議なことがあるもので……ん?


 義妹の胸元に見慣れたアクセサリーがあることに気付きました。


「貴方、それは」

「あ、これ? いいでしょう! ようやく手に入れたの!」

「……そうですか」


 贋物の製作が禁止されている物なので容易に手に入る物ではないのですが、まあ私の部屋から盗んで手に入れたという事でしょう。ですが、これでペンダントが無くなった原因がわかりました。


「あら、あらあら? そう言えばお義姉さま。いつもしているペンダントはどうしたのですか? 見当たりませんけど!」


 心配している様子なく明らかに事情を知っている感じに嬉々とした表情で義妹はそう聞いて来ました。


 これはわかっている上で煽って来ているのでしょうね。他の家族が居るというのによくやります。お父さまの表情がかなり剣呑な物になっていますよ?

 とは言え、この場でことを荒立てる必要は無いでしょう。何時までも食事が始められませんから。


「色々あるのですよ」

「そうなの。見つかると良いわね!」


 誰も無くしたとは言っていないのですけれどね。隠す気が無いのでしょうか。それとも上手く行くという自信でもあるのでしょうか。……どちらでもいいですね。


 とりあえず、義妹からペンダントを取り戻す手立てを考えなければなりません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る