第5話 捜査本部

 署での検視と新川医科薬科大学での司法解剖で得られた情報は、

・腐乱死体の性別は女性。

・死亡原因は頭部への銃撃と推定される。

・腹部への銃撃で肝臓の門脈と大腸の横行結腸を損傷しており、頭部への銃撃が無くとも失血により死亡と推測される。

・年齢は四〇~六〇代と推定される。

・推定身長一五七㎝、推定体重六一㎏。

・外科的治療や歯科的治療の痕跡は認められず。

・ボブカットの頭髪を金色に染めている。

・白のミニスカートワンピースに白い上着を着用し、白のハイヒールを履いている。

・採取した指紋をデータベースで照合した結果、該当者無。

・装身具は一切身に着けておらず、身元の判明に繋がる遺留品も発見されず。

・発見者からの聴取によると、遺体発見の四日前に巡回した時に異常は見られなかった事から、死後三、四日程度と推定される。 

 であった。


 本部長を務める県警捜査課管理官直々の指名で久慈慶子警部補と組んでいる白川警部補は、捜査員達が一日の活動で得た情報の報告に耳を傾けていた。

被害者の人目を惹く格好から目撃情報や監視カメラ映像での行動確認は容易に得られると思われたが、該当する人物の目撃情報は無く、監視カメラには喜楽町に出入りする解体業者の車両が映るばかりであった。

空港や駅など公共交通機関やタクシー会社にも求めたが、有意義な情報は得られていない。

 被害者の身元についても県内の行方不明者に該当者は居らず、他都道府県警察本部に照会を要請している段階で身元不明のまま。

 専従で捜査に当たる三〇人の刑事達の表情に、疲労の色がうっすらと滲んでいる。

本来であれば近隣署から捜査員の応援を得るのだが、今回は月山中警察署に設置された井出事件捜査本部へ派遣していた捜査員を撤収させるだけで精一杯であったのも影響しているだろう。

 人目に付かない場所に設けられた喫煙所で白川と二人きりになった時、上司である柴田(しばた)刑事課長が冗談めかした口調で、

「井出を撃った弾と線条痕が一致したら、合同捜査本部になって多少は負担が減るかもな」

 と漏らしたが、線条痕は一致しなかった。

「不謹慎とは判っているが、あと半月早く事件が起こっていれば違ったかもな」

 とは、昨日の捜査会議終了後に柴田課長が漏らした言葉だ。

井出輝信井出組組長は県内外を問わず対立する組織以外にも幹部を務める誠侠会内や一般人にも多くの敵を抱えており、組織犯罪対策課も投入され各人の行動確認やアリバイの裏付けに多くの警察官が投入された上、若頭の勘坂(かんざか)が自重するよう命じても井出組組員達は、事件とは無関係であると声明を発表した対立組織や個人のみならず誠侠会内にも疑惑の目を向け独断専行で行動する者達が後を絶たず、抗争事件勃発の可能性も囁かれている。

 井出組組員の暴走を抑える為には、一刻も早い犯人逮捕が求められていた。


「次は大津不動産社長への聞き取り結果の報告か」

 管理官が促すように声を上げた。

 指名された白川警部補は手帳を手に、大津不動産株式会社社長室での聴取内容の報告を始めた。

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