2話:迷宮会議(1)

 ライヒが現在住んでいる小さな街。

 水資源が豊富で食料がよく取れる一方、道具の素材になる鉱石や魔力を豊富に含んだ魔石が少なく、人間社会、魔族社会が大きく発展するなかで、ここは牧歌的な生活を営んでいた。

 ライヒは元々この街の長を務めていたが、魔王のもとで正式に昇級し街の長を他の者に譲ったのだ。

 だが迷宮を作るにあたっての人員の配置や作戦を考える場所、物資調達の拠点としては魔王城の城下町などに比べても都合が良かった。

 そもそもライヒの第二の故郷でもある。落ち着くのだ。

 ライヒは夜中そこにある料亭の食事スペースに仲間を集めた。

 昼間は通常営業で邪魔をするわけにはいかなかったのだ。


「これより第一回迷宮会議を始める。シェーン、進行を頼んだ」

「ええ、そうじゃないでしょ。ライヒ様、もっと楽しくいくって言ってました。どうしてそんなに固いんですか! せっかく昇級したのに!」

 

 ライヒはシェーンを見る。

 シェーンはライヒの目線に気づくと微笑んだ。


「はあ、そうだな。できるだけ要望を聞きたいものだが驚くほど低予算だからな。でもできるだけ僕が、僕らが楽しいって思える迷宮を作りたい」

「はい、アウトですよ? どうしてネガティブ発言多いんですか。いつか予算が増えればできることばかりです。目標設定にもちょうどいいのでどんどん理想を語りましょう! 楽しいが一番ですよ、ライヒ様」


「「流石シェーン様!」」

 スライムたちが騒ぐ。

「シェーンちゃんの言う通りだぜ?」

 リザードマンは尾を高く上げた。

「ライヒ様、士気を下げてどうする? シェーンちゃん流石だぜ」

 オークは拍手で応えた。


「おい、シェーンはお前らの上司に当たるからな。様を付けろ、気軽に呼ぶな、シェーンの上司は僕だけだ」

「あら。ライヒ様妬いてますか?」

「な! はあ? 魔族社会のための秩序について語っているだけだ」

「でも仲良くしたいのでシェーンちゃんで構いませんけど? あ、ライヒ様もシェーンちゃんで構いませんよ」

「僕はシェーンとしか呼ばない。シェーン、あまり調子に乗るなよ?」

「顔赤いですけど? もしかして会議後のご褒美楽しみってことですか?」

「静かにしろ。会議が止まっているだろ」


 ライヒは見渡す。

 スライムたちもリザードマンもオークも料亭の給仕係、料理人も楽しそうな視線を向けていた。

 ライヒは溜息をつく。


「ではお一方ずつ夢を語ってくださいね! でもその前に雇用募集も出したいのでその意見もあればです。迷宮の詳細な地図についてはライヒ様の意見で情報漏洩が怖いということから言葉での簡易的な説明に留めておきます。ちなみにですね、私はスライムなのでじめっとした場所がほしいです。ちょうど湿地帯にあるので予算抑えても可能だと思います!」

「確かに安くできそうだな。積極的に採用しよう。では迷宮の説明を頼んだ」

「はい! 迷宮は全部で五階層でした。最下層はライヒ様お一方で担当、もう一つは私とスライムちゃんです。なので残り三フロアですね。一つは罠で誤魔化すので、残り二つですね。なので、リザードマンさん、オークさん、お願いできますか」


 シェーンが言うと、リザードマンとオークは目を合わせた。

 察したリザードマンがゆっくりと手を上げる。


「なあ、フロアを仕切るなんて自信はないってか。苦戦する人は少なくないとは思うが。そんなんじゃ」

「リザードマン、申し訳ないが頼む。予算を抑えたいのはもちろんだが身内で担当者を決めたいと思っているんだ。魔王軍から人を借りる余裕はないし、どちらにせよ信用ができない」

「ライヒ様、そうは言っても。ならせめて防具は普段よりも良いものに」

「悪いな」

「そういうことなので、リザードマンさん、オークさんフロアお願いします! なにかあれば私も」


 言い掛けてやめる。

 ライヒが鋭い眼光を向けていたのだ。


「私のスライムちゃんを向かわせるので。ライヒ様、私はちゃんとフロア内にいることにします」

「それでいい。武器はできる限り良いものを出そう。予算が増えれば特注防具、武器も優先的に。僕はリザードマン、オークに無理を言っていることは理解している。元々群れで行動することも少なくないお前らに単体でフロアを務めろと言っているのだ。そして、雇用募集については何かあるか?」



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