第35話 二年三組の展示内容は『休憩処』
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六月には体育祭が開催された。
俺の多大な貢献が
そもそも三組は男子クラスであるため女子の競技には参加できない。
代わりに自動的に中間順位相当の点数がもらえるルールだ。
逆に男子競技に対しては種目数に対して参加可能な男子の人数が多い。
上から順番に運動神経が良い男子を選抜して競技に参加すれば、そこそこ勝てた。
俺みたいな運動神経に難ありの存在は義務的に大人数競技に参加するだけだ。足の引っ張り度合いが少なくて済む。
あわせて女子の応援があるクラスになんか負けられるかという僻みパワーも働いた。
その結果としての一位だ。
二位は一組。
表彰台にあがった一組代表の笹本の顔を久しぶりに見たが晴れやかに笑っていた。
昨年同時期の笹本であれば悔しがっていたに違いない。
けれども今年は二葉が同じクラスにいて個人的にも十分な応援を受けていたからか悔しくはなさそうだった。楽しい一日を過ごしたのだろう。リア充め!
多分一組はこの後笹本らの音頭で打ち上げがあるのだろう。
俺個人として三組の良い点は、そういう打ち上げを誰も企画しようとはしない点だ。
そもそもクラスに女子がいないのだから女子と仲良くなりたい目的の企画は成立しない。
もしあっても俺は参加しないだけだが、相手がどうせ俺は参加しないと思いながら誘っていたとしても、そもそも断るやりとりには気を使う。余計な心労はないほうが良かった。
もしかしたら本当は三組でも打ち上げが行われていて俺だけ知らされていないだけかも知れないが、その場合は、ぜひ最後まで隠し通していてほしい。参加する気はなくても後でハブられている事実を知ってしまうと切ない気持ちになってしまうから。
俺の夏休みは昨年同様ヤマメの串焼きの販売に明け暮れた。
幸いなことに水難騒ぎは起こらなかった。
夏休み期間中、俺は同じ学校の誰とも会わなかった。
去年あんな騒ぎがあった場所だから、うちの学校の生徒であれば積極的には寄り付かないはずだ。
此花たちが今年も同じ面子でどこかへ遊びに行ったのかは知らないが、さすがに違う場所にするだろう。
九月には防災講習が行われた。
昨年は消防と警察が本気になっていたが今年は例年通りだった。昨年が特殊すぎだ。
十月中旬のとある土曜日と日曜日の二日間が文化祭だ。
今年は俺も参加した。
修学旅行を欠席するつもりであるため文化祭までさぼるとさすがに休みが多くなりすぎる。あまり学校を休みたくないという思いが俺にもあった。
とはいえ、昨年みたいに事前準備が大変な出し物だとバイトに支障が出てしまう。
出し物決めのホームルームの結果、二年三組の展示内容は『
具体的に何をするかというと教室内に机と椅子を並べていくつか島を作り、ご自由にご休憩にお使い下さいとするものだ。
どこかで買った食べ物を食べてもらう場所として使ったり誰かとの待ち合わせ場所に使うなど可能性は無限大だ。
要するに二年三組としては何もしないのである。
女子がいればメイド喫茶だなんだと騒ぐところだが生憎うちのクラスには一人もいないので絶望的だ。
女装してメイド喫茶という案もあったが誰得だった。執事喫茶も以下同文。
他のクラスや他校の女子を呼び込めるスペックの持ち主がいるならまだしも素材の段階で断念だ。そこまで化けるにはハリウッドばりの特殊メイクが必要だろう。
結論として事前準備を一切やらないで済むような楽な方向でクラス全員の意見が一致した。
但し本当に何もしないと学校の許可が下りないので計画書上は『作品展示』という扱いになっている。授業で作った誰かの工作の作品を島にした机の上に適当に置いておく。
事前に準備を行った内容も『
当日は交代制で教室に留守番を一人二人残すだけで後は全員が自由行動だ。
留守番の仕事は室内に設置したゴミ箱の袋の入れ替えと次のお客さんが座る前に使用後の机を拭くことぐらいだ。それ以外は教室の端に座って本でも読んでいればいい。
俺には特に文化祭を見て回りたい意向も一緒に回る相手もいないので当日の留守番を一手に引き受けた。そうすれば少なくとも座っている場所だけは確保できる。
実を言うと教室を出たところで文化祭をどう楽しめばいいのか俺にはさっぱりわからなかった。
ラノベやマンガには恋人同士が二人で文化祭を見て回るという定番のイベントがあるが、どこに楽しさがあるのか俺には理解ができなかった。
どの屋台の食べ物も子供騙しだし出し物も所詮は素人のお遊びだ。展示を見たところで特に興味を引かれない。
個人的には教室で留守番をして、ずっと本を読んでいられればそれでいいのだが、俺以外の残りのクラスメイトは教室以外のどこで時間を潰しているのだろう? まさか本当に見て回るだけで時間が無くなるほど楽しいと感じているのか? ちょっとわからない。
俺は教室の隅に衝立で目隠しを作ると机と椅子を一つずつ置いて居場所を確保した。そうしておかないと、いつのまにかお客さんに場所を取られてしまうためだ。
俺はひたすら衝立の陰で本を読んでいた。
一日目が何事もなく終わり二日目のお昼前だった。
衝立に隠れていた俺を覗き込むように顔を出した誰かに「ヤマメ先生」と声をかけられた。
此花琴音ちゃんだ。
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