第49話 グルヴェイグVSフォルセティ①

『イグニス、避けろ!!』


 いきなり拳で殴られた時と同じ衝撃が走った。

頬がジンジンと痛み、脳が揺れているような嫌な感覚がする。


「いって……」


 頬に手を添えながらモニターを見やると、機体が傾いて〝フォルセティ〟と距離ができていた。


『馬鹿野郎! 戦闘中にボーッとするな!』


 父さんに怒鳴られて、ようやく自分の意識が飛んでいた事に気が付いたのだった。


「俺……ずっと反応がなかったのか?」


 イグニスが驚きながら聞く。そんな様子を見た父さんは『ほんの十秒程度だ』と教えてくれた。


『ガードが遅れただけだと思ったんだが、違うのか?』

「信じてもらえないかもしれないんだけど、ヘリオスの記憶を見てたんだ。どうして、こんな現象が起きたんだろう? 俺、ちゃんと集中してたはずなのに……」


 イグニスは不可解そうに、モニターに映る〝フォルセティ〟の姿を見つめながら言う。すると、父さんは『〝特異体質者〟としての能力が働いたんだろう』と教えてくれた。


『俺も交戦している最中に敵パイロットの記憶が流れ込んできた事は何回かある。だけど、お前の言ったクラスメイトの記憶は見なかったな』

「え? まさか、俺だけ見えてたのか?」

 

 イグニスの驚きっぷりに何か疑問を感じたのか、『何を見たんだ?』と聞いてきた。しかし、タイミングが悪く、〝フォルセティ〟が〝グルヴェイグ〟に向かって光線を放ってくる。


 攻撃を避けつつ、イグニスは記憶を辿っていった。


「えぇっと、俺が見たのはヘリオスの小さい頃の記憶。後はなんでか分からないんだけど、ヘリオスの兄ちゃんが自分の父さんとシャルム・ゴールディの三人で話してる場面が見えたんだ」

『何? シャルム・ゴールディだと?』


 父さんの声が明らかに怪訝そうな声音に変わった。


「十年以上も経ってたのに容姿が今とあんまり変わってなかった。それにその副官、ヘリオスの兄ちゃんに変な事も言ってたんだ」


 イグニスが距離を取りながら煙幕を張る。

すると、〝フォルセティ〟は〝グルヴェイグ〟を見失ってしまったのか、全身から光を放ち始めた。


 煙幕の中でチカチカと光が放たれているのが見える。〝グルヴェイグ〟がいた位置は煙幕が分厚く張られていた為、そこまで影響はなかったが、それでも目の奥が痛んでしまった。


『暫く目を閉じてろ。こちらの位置はまだ把握されていないようだし、一先ずあの小惑星の裏に隠れるぞ』


 薄らと目を開けたイグニスは頷き、モニターにズームアップされた小惑星に向かう。ギュッと目を瞑って一息吐いた後、イグニスは続きを話し始めた。


「あの副官がこんな事を言ってたんだ。〝弟を守りたいなら、お前の身体を我らに捧げよ〟って。俺はよく分かんなかったんだけど、どういう意味だと思う?」


 父さんが何かを真剣に考え込んでいるような様子だったが、暫くして『すまん、イグニス』と謝られてしまった。


『〝我ら〟っていうのが、現時点で何を指しているのかが分からない。けど、とんでもなく悪い予感がするっていうのは確かだ』

「やっぱり、そうだよなぁ。あ……でも、この前の食事会の時にヘリオスの兄ちゃんが行方不明だって聞いたんだ。もしかして、父さんが〝悪魔〟に身体を乗っ取られてるみたいに、ヘリオスの兄ちゃんも同じような状況になってるんじゃ……」


 イグニスの発言も可能性としては大いに有り得る為、父さんは肯定も否定もできずに黙り込んでしまう。結局の所、全てが仮説でしかない為、真相を確かめるにはシャルム・ゴールディ副官に直接聞くしかないと感じていたのだった。


『とにかく、帰ってからマリウスも交えて話そう。これからの方針を決めていかないと――』


 突然、高熱源反応を知らせるアラートがコックピットに鳴り響いた。どうやら〝グルヴェイグ〟の居場所がバレてしまったらしい。熱源反応を見るに、中型艦の主砲から放たれる威力の攻撃を仕掛けてこようとしているようだ。


『イグニス、応戦するぞ。ここから離れて輸送艦に向かえ。コントロールパネルで〝フレイムキャノン〟を選択するんだ』

「わかった!」


 小惑星から離れ、輸送艦の方へ移動を開始した。


 輸送艦の船頭に〝グルヴェイグ〟を着陸させ、アイゼンで足元を固定させた。サブモニターで〝フレイムキャノン〟を選択すると、両肩にのしかかるように大型の砲身が現れる。その重量感にイグニスは少し驚きつつも、攻撃の準備を進めていった。


『サーモグラフィーで目標確認。ランディングギア、アイゼン共にロック。現在のエネルギー充填率45%。エネルギーが100%になるまで待機』


 操縦桿を握る手に汗が滲む。メインモニターにはサーモグラフィーによって、真っ赤に光る〝フォルセティ〟の姿があった。


 〝フレイムキャノン〟は初めて使うので威力までは分からないが、手元が狂ってしまえばコックピットに乗っているヘリオスごと消し飛ばしてしまいそうな気がした。


(もしも……俺の手元が狂っちまったら、ヘリオスは――)


 勝手なイメージがイグニスの脳内で膨らみ、寒気と鳥肌が立ってしまう。


「フゥ……フゥ……」

 

 エネルギー充填率が70%に到達した頃、〝フォルセティ〟が光線を放ってきた。六本の光が捻れ合い、一つの大きな光として一直線に向かってくる。


「うぁ、あぁぁ……っ!!」


 それを見たイグニスは恐れ慄き、父さんの合図を待たず反射的にトリガーを引いてしまったのだった。

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