誰も着ない純金のドレス【詩】

区隅 憲(クズミケン)

誰も着ない純金のドレス

 当初、私が小説を書き始めた目的は、創作で人に感動を与えることだった。


 相手との会話。会話ができないと創作なんてできない。感情に振り回されて、何も見えなくなると誰も私の声なんて聞いてくれない。つまらない思い出話も、管を巻いた与太話も、何度他人を遠ざけたかわからない。



 私は所詮綺麗な言葉なんて紡げない。ただずっと叫んでるだけ。それだけの生命体。何かが私に憑りついて、代わりに他人の心を離さない言葉を唱えてくれたらいいなんて、ありもしない幻想を抱いてる。



 生きてるだけで精一杯。言葉を叫ぶだけで精一杯。私の価値なんて、それっぽっちしかない。でもだからこそ、それにずっと縋りついてる。ひたすら文字を書き殴ってる。



 私の心の中は澱でいっぱいだ。でもその奥底に純金が眠ってると信じて謳うしかない。世界の片隅で轟く誰にも届かない雷鳴。私の生命線とはただひたすらにそこにあった。暗雲から差し込む光は眩しくて、照らし出すのは私が吐き続けた泥水だ。



 純金でできたドレスを纏って舞うような、美しい姿には決してなれない。ひたすら綺麗なものを目指しても、元々が醜くて仕方ない。それでも、必死で取り繕う。けっきょく私の悲鳴なんて、上辺だけの全力で、意味合いなどこれっぽっちも詰まってないのだから。


 

 虚構の海に真実の貝を掘り当てるような、それだけの愚かな望み。貝の中に、本当に中身が詰まってるかどうかなんてわからない。けれど、私は探し続けてる。だからこそ、探し続けてるのかもしれない。



 真実の貝の蓋なんて、一度たりとも開いたことがない。けれど、そこに何か自分を肯定できるような宝が詰まってるって、そんな子供じみた幻想を抱いてる。ただ、それだけの価値観。本当に私が求めるものが見つかったとしても、空っぽな現実しか待ってないのかもしれない。



 けれど、そういう虚構を愛する人間もいるって信じるしかない。私自身もその一人だから。だから書くしかない。けっきょく私は、虚構の中に真実がほしい。だから、書き続ける。つまらない人生に一筋の光を求めてる。先のない真っすぐな願いを、ただ書き殴る。



 それしか生きる方法がなくて、けれどそれが自分にとって大切で、だから、何かを掘り当てられると夢見てる。今この瞬間に紡ぐ言葉の一粒一粒、それが私にとって純金の絹の糸だから。



 マネキンの上にドレスを着せる。私の役割とは、誰も着ないドレスを仕立て上げることだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰も着ない純金のドレス【詩】 区隅 憲(クズミケン) @kuzumiken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ