第8話 柊美雪はかく語りき

 第三章 


 2024/04/08 10:15


 小学生が迎える夏休み。

 友達の家に赴き、チャイムを鳴らし「○○くーん、あーそーびーまーしょー」と遊びに誘うのが一般的なのだろう。まぁ俺にはそんなことをする友人なんて居なかったが。いやその誰かを呼ぶ風習がなかっただけで、友達とは遊んでいた・・・と思う。

 それはさておき、いつでも気軽に友達を誘っていいわけもなく、学校から配られる「夏休みのしおり」には「午前十時以降に友達のお家に行きましょう」とか「相手のご家族の迷惑にならないよう気を付けましょう」と書かれていた気がする。

 では、なぜ今こんな昔のことを思い出しているのかというと・・・


「先輩!今日も来ちゃいました。今日こそお話聞いてください」


 ドアの目の前には最近知り合ったばかりの友人の妹が待っているからだ。

 六日連続、十時以降に毎朝ピンポンを鳴らす、妙に礼儀正しいストーカーがそこに居た。


 *          *           *


「すぐ帰れ、この変質者」


「ちょ、待ってください、誰が変質者ですか、この可愛い後輩のことですか?」


「主観的な評価は避けるが、一般的に可愛いと称されるだろうというのは認める。が、それとこれは話が別だ、この不審者」


「うぎゃぁー変質者かつ不審者とか、そんなこと言われたの初めてですよ!」


「安心しろ、俺も初めてだ」


 数日前までは、美雪さんと呼んでいた俺だが、この六日で敬称をつけることを辞めた。いや、敬称を着ける義理がなくなったというのが正しい。

 朝一ピンポン一日目は、流石に前日こいつのお願いを断った手前強く言えず、丁重にお帰りくださいと申し上げたよ。優しく諭し、やっぱり君の提案に乗ることは出来ないって。

 だけどさ・・・


『せーんーぱーい。開けてください』

『今日こそ聞いてください、私、ご近所さんから変な目で見られちゃってます!』

『おはようございます!今日も一日よろしくお願いします』


 なんてチェーンによってわずかに開けられた玄関ドアの隙間から、毎朝挨拶されてみろ。そんな丁寧に接する気持ちも気も失せるわ!

 初めてだよ、たった数日で評価が一変した奴なんて。

 初対面の人にいつも以上に自分を見繕うのはあるけども、限度と言うものが。


「お前、最初あった時はもう少しお淑やかだったよな?キャラ変してね?」


「あ、あの時は緊張しちゃってて、これが素なんですっ」


 素かぁ。それならしょうがないね!ってなるか。

 そろそろいい加減にしないと先輩怒っちゃうZO!


「怒るのは私の方です!何回先輩のご自宅へ赴けばいいんですかーそろそろ華奢な私の足がムキムキになっちゃいますって。お嫁に行けなくなったらどうしてくれるんですか」


 そんなこと知るか。勝手にお婿さんでも取れ。

 扉の先からは未だに動く気配のない美雪が立っているままだ。笛を鳴らさないと動かない系のポケモ〇か何かですか?因みに劇場版のゴンべ可愛くてかなり好きなのだが・・・

 それはさておき、いつもなら十分こちらが粘ったらすぐ帰るというのに、今日は珍しいな。

 早く帰ってくれないとおじさん困っちゃう~

 未成年じゃないとはいえ、数日前まで高校生だった女の子を家に連れ込むなんて出来るわけないし、ご近所さんから「秋葉さんちの息子さん、毎朝女の子が扉叩いているけど、もしかして・・・」なんて噂立てられてたまるか!

 クソ、こうなったら「すみません、予定入っているんです」戦法をお使うしかないか。

 行きたくもない食事会や大学のクラス会、その他諸々のお誘いを断ることのできる最強にして最悪の反則技。

 これの弱点は使いすぎると社会的信用と友人を失うことぐらいだが、端からそんなものは無い俺には欠点など無いに等しい。

 ぐはははは、ぼっち最強!ぼっち最強!


「お前今日は帰んないの?俺この後バイトだから、そろそろ家出なくちゃなんだけど」


 ふっ決まったな。これが年の甲というやつじゃ。

 これで今すぐにでもこいつを帰らせ―


「せ~ん~ぱ~い~嘘はいけませんよ!嘘は」


 チェーンで数センチしか開いていないため、こちらから窺い知ることは出来ないが、なんとも小生意気な声音をした美雪の声が聞こえてくる。

 葵と同じような二ヤついた顔が目に浮かぶ。


「私、茅野さんから昨日「清十郎の家で明日の昼、葵と清十郎と麻雀するから美雪さんもいかがかしら」と招待を貰っているのです!」


 えっへんと美雪は得意気に言ってくる。

 ごめん、弱点もう一個あったわ。

 普通に嘘をついているだけですのでバレてしまうリスクがございます。ご利用にはお気を付けください・・・じゃねぇよ!

 茅野の野郎余計なことを言いやがって。

 てか、その了解俺出してないのですけど・・・あれ、茅野さん?

 家主様の意見はいずこへ?


「と言う訳で、先輩どうかその憎き白銀の鎖を解き放ってください、お願いしますっ!」


 姿こそ完全には見えないが、手を合わせて拝んでいる姿が想像できる。

 ・・・はぁ。これ帰ってくれないパティーンか。

 流石にこれ以上騒がれてご近所さんから変な目で見られてしまうし、家にあげるべきか。もう手遅れだと思うけど。


「あーーもう分かったから、静かにしなさい。今開けるから」


 やったーなんて声が聞こえてくる。この頑固者で有名な俺が小娘一人に根負けするなんて・・・末代までの恥だ。

 文句を言いながら渋渋チェーンを外し、扉を開ける。

 うっお日様が眩しい。目がああぁぁ~!目がああああぁぁ~~!

 不摂生が過ぎたか。日光に焼かれているとか半分ゾンビと化してだろ俺。若しくは鬼か吸血鬼。個人的には時止めできる悪のカリスマさんの方が好きなんだけど。

 頑張って目を開けた先にはパズーもシータもいない。

 白いワンピースに白いクロスボディバッグを肩にかけている清涼感溢れる女の子がいるだけだ。

 くっドストライクな恰好で直視できない。黒髪ロングなら尚のこと好みだが・・・コホン。

 こんなので動揺しているとかバレたら先輩としての面子が立たん。

 ふぅ落ち着け俺。陽菜の顔を思い出せ。陽菜の方が百倍可愛いだろ。それなら何処に動揺する理由があろうか、いやない。

 うし。心が渚のように穏やかになり、透き通るような心の清らかさに戻ってきた。

 秋葉君完全復活!


「産まれてこの方チェーンなんて掛けたことないし、お前が初めてだよ」


「先輩の初めて・・・私、嬉しいです!」


 皮肉が全く通じねぇ。

 それに、頬を赤らめニコっと笑うな。

 こっちも反応に困るわ!

 てか、早く中に入れないと。

 こんなのご近所さんに聞かれたらそれこそ死亡宣告間違いな―


「あっお隣のおばさま!今日もおはようございます!」


「あらぁ、美雪さんじゃない。こんにちは。今日こそ先輩に開けてもらえたようね、よかったわぁ!」


「えへへ~ありがとうございます!」


「・・・」


 楽しそうなガールズ(意味深)トーク。

 俺はそれを黙って聞き入れるしか出来ない。

 あぁそうか、俺の平穏と名誉はとっくの昔に消え去っていたらしい。

 失ってから気づいたってもう遅い。

 ってか失うも何も俺のせいじゃないですけどね!


 あとお隣の小山のおばさん、俺のことを先輩と呼ばないでください。

 ほんとどうかお願いします。


 *           *          *


「先輩ありがとうございます!お茶まで出してもらちゃって、ほんとすみません」


「どういたしまして。あと、その気遣いができるなら、もう少し先輩に対しても気遣いしてくれていいからね、ってかしろ」


 とりあえず、部屋に案内することは出来た。片づけはしてないけど、前日たまたま掃除をしていたおかげで助かった。

 今は、折り畳み式の机をベッドの下から取り出し、二人で向かい合っている。

 お茶も机の上に置いてあることから、さながら喫茶店のような感覚に陥る。あとお洒落な作業用の音楽でも掛かっていれば文句なしだろう。

 まぁお茶(綾鷹)しか出せないですけど。


「で、話って何?俺断ったよね?」


 口調が強くなりすぎないよう注意しながら喋りかける。キチンと言うことは言うけど、女の子を泣かせる趣味はない。

 つーか美雪が泣く姿なんて想像できない。茅野と同じく強い人だ。逆に俺の方が泣かされそうですが。

 美雪は俺の問いに答えず、そのままお茶を口に含む。数秒経ってから、ニコっと笑顔を作り、俺の方を向く。


「先輩、どうか私の話をもう一度、聞いていただけませんか?」


 微笑みながらも、真剣な眼差しとゆっくり落ち着いた声で出された美雪の言葉は、想像以上に重く、俺に有無を言わせないものだった。

 さっきまでの軽薄な感じはどこに行った?まるで別人だ。


「あぁ。けどこれが本当に最後だからな」


 結論は決まり切っている。

 なんと言われようと、俺の心は変わらない。

 後はこいつの話を聞いて、断ればすべてが終わる。

 簡単かつ誰も悲しむことのない最善の解決策だ。


「・・・分かりました」


 美雪は不服そうな顔をするも、条件を呑む。確かにこれは俺に一方的に有利すぎる条件だ。

 美雪には理不尽だと思われるだろうが、仕方がない。

 これが大人の社会・やり方というやつだ。


「それでは一言だけいいですか?」


 あぁと返事をする。

 もう今更何を言っても俺は動じない―


「凡人如きが、努力もせずに才能のなさを理由に筆を折るとか、ほんと滑稽ですよね、先輩」


 彼女は微笑みながらも、侮蔑の目を向け、俺を詰った。


 *       *         *


「あ?」


 俺のその一言でこの場の空気が凍てつき、緊張が走る。

 こいつ今、なんて言った?

 彼女の言葉を海馬の奥底からリプレイする。努力してないとか、無様とか言ったか?

 ギリっと奥歯が軋み、息が荒くなり、震える。

 表情が歪み、目つきが鋭くなるのを感じる。

 怒りが俺を支配し、これ以上ないほど俺の胸はかき乱されている。

 あぁ、だめだ、抑えなくちゃ。

 俯き、拳を握り締め、ゆっくり息を吐くよう心掛ける。

 落ち着け、落ち着け、早く落ち着かなくちゃ―


「だから先輩、あなたが今でも創作活動に未練たらたらで、女々しく、自分だけが被害者みたいな態度が気に食わないんですよ。って聞いてます?俯いてないで、今話している私の目を見てください」


「・・・っ」 


 俺は瞬時に顔を上げ、目の前にいる奴を睨みつける。

 この部屋の空気が凍てつくにつれて、俺のフラストレーションは反比例に上昇していく。

 鼻息も口呼吸も両方荒くなり、気分が悪くなってくる。

 だめだ、もう我慢できない。俺は息を吐く。

 心の中で溢れかえりそうになるドブのようにドロドロとした悪感情を彼女に向ける。


「だ、黙れっ!」


 俺とは思えないような罵声に俺自身が驚かされる。

 怒ることに慣れてないせいか、少し間抜けたような上ずった声となる。

 とはいえ、もう俺の口が止まることはない。


「お前なんかに分かってたまるか、俺がどれ程辛い思いをして、血反吐を吐くように作った作品が全世界から否定された気持ちを。「お前なんかに才能なんてない」って沢山ネット上に書き込まれているのを見て心が壊れそうになったか、俺が自分の才能のなさに絶望したのかを。先輩たちに、天才たちに追いつきたくても追いつけなくて、惨めな思いをするしかなかった俺の気持ちを。お前なんかが一方的に俺の気持ちを推し量って、決めつけて、批判して、分かったような口を利くんじゃないっ!ほんとふざけんな!」


 はぁはぁ。勢いよく喋り始めたけど酸欠で死にそう。

 それに、言葉が上手く出てこないし、呂律が上手く回らない。

 頭が気持ち悪さでぼーっとする。

 美雪は俺の言葉を聞き終える。

 俺に注意したように、一言たりとも聞き漏らさないかのように瞬きもせず、ただずっと俺の目を見つめ、聞き手に回る美雪の表情は、依然として笑顔のままだった。

 彼女は俺の話した内容を咀嚼するように逡巡した後、口を再び開き始める。


「そりゃー私なんかがあなたの気持ちを理解できる訳ないじゃないですか。他人ですもん」


 彼女は何言っちゃっての、こいつ?みたいな調子で話してくる。


「それなら分かったような口を聞くんじゃ―」


「話は最後まで聞けって習いませんでした?」


 俺の言葉を遮る。

 彼女は微笑を浮かべていた先ほどとは異なり、一転俺に対して、憤りを隠さない、憤怒の形相を見せる。


「でも一つだけ確かな事実があります。それは「先輩が、たった一回の、それも初めての批判に耐えきれず、努力も工夫もせず、全てから逃げた」ことです。なーにが天才怖いだ、惨めな思いをしただですか。天才恐怖症とか努力もせず逃げ出した人がいっていいセリフじゃない。創作を舐めないでください」


「・・・っ」


「あそこで諦めて、今も何か没頭することもなく、ただ無気力に、腐っているだけのあなたに何か価値がありますか?」


「しょ、しょうがないじゃないか!俺はトラウマで筆を取れなくて―」


「トラウマ。誹謗中傷。挫折。絶望でしたっけ?結局先輩が語ってくれた理由はどれもこれも話になりません。」


「何が言いたい?」


 美雪は俺の言葉を聞き、目を丸くする。

 こんなに言ってもまだ分からないんですか、とため息交じりに呟く。


「だーかーらー、そこに先輩の意思がないんですって。先輩がさっきから並べている御託は、結局天才や勝負から逃げる為の言い訳にすぎない。理由があって、逃げるのでない。逃げる為に理由を後からでっちあげているだけです。今のあなたは負けることを恐れているただの臆病者です」


 それもたった一度の失敗で挫けるような、と美雪は補足する。

 俺は臆病者って言葉に俺は反射的にビクリとする。

 悪いことをしたつもりもないのに、何故・・・


「あんなにシナリオを書くことが大好きで、自分の創作ノートに設定からルート分岐まで書いちゃうぐらい情熱を持っていた先輩が、結局シナリオを書くことを嫌いになったのか、なってないのか、今の今まで私聞いてないんですよ!」


「そ、それは・・・」 


 俺は言い返せない。確かにそのことを彼女にも、そして茅野や葵にも言った記憶がない。

 沈黙を肯定と受け取ったのか、美雪は話を進める。


「創作って結局どこまでいっても苦しいものです。良いものが書けない、描けない、創り出せない。「隣のあいつは俺より才能が有って、俺より知名度がある」って才能の差に嫉妬し苦しむこともある」


 そこで彼女は一旦区切り、俺の目を見つめなおす。

 でも、と彼女はゆっくりと、しかし力強く口を開き始めた。


「それでも私たちみたいな人間は止まれない。諦めきれない。何故か分かります?」


「・・・」


 数秒待ったのち、返答のない俺に代わり、美雪は優しい口調で答え合わせを始める。


「それはね、先輩。私たちは、創ることが大好きだからですよ。何回公募に落ちたって小説を書き続けられるのも、若く才能溢れる絵描きに嫉妬しながらもイラストを描くことができるのも、全てそこに終着します。自分の発想を、夢を、想いを、好きを全て具現化したい、みんなに見てもらいたい、そう心の奥底から思い続ける。苦しいことさえ楽しんじゃうような救いようのないバカなんです。私たち」


 彼女は笑う。しかし、それは冷笑などではなく、また先ほど見せた怒りも侮蔑もない。

 優しく笑うその目は、口元と同じく優しい目をしていた。


「私は先輩の本心を、心からの想いを聞きたい。何を選択するか、シナリオを書くのか、決めるのは、空気でも周りでもない。先輩自身ですよ」


 私はそう先輩から学びました、と彼女は少し照れた表情を浮かべながら付け加える。

 目の前にいる彼女は言いたいことを全て言い切ったのか、すっきりした表情を浮かべ、俺の返答を待っていた。


「俺は・・・」


 俺はどうしたいのか。分からない。

 美雪が言いたいことは理解できる。

 つまり俺が今でもシナリオを書きたいと思っているならもう一回チャレンジしろと。

 天才から逃げる為に自分の気持ちに嘘をつくなんてやめろよと。

 何度も頭の中で反芻する。

 六年前、確かにそこには情熱を持った俺がいた。

 キャラクターが頭の中で動き喋りだす。俺はその光景をノートに一心不乱に肌身離さず書き続けた。

 全ては俺が考える最強最高のかっこいいストーリーを書き記す為に。


 では問おう。

 まだ俺にそんな愛が残っているのかと。

 今の俺にそこまでの情熱が心の奥底で燻り続けているのかと。


 答えは否だ。


 何か書きたいという熱い欲求が、情熱が沸き上がってこない。

 全てが霞み、灰色に染まり、あの時の色彩豊かな情景が思い浮かんでこない。

 だってそうだろ、あれ程愛してやまなかったクロノスのキャラ達を俺は愛することができていない。

 主人公のヒロインの名前すら今の今まで記憶の奥底に封印し続けていた。

 自分の子供を愛せない親が、他所でガキをこさえようとするなんて世間が、俺が許すわけがない。それと同じだ。


 俺自身が俺を否定する。

 その限りにおいて俺は俺を縛り続ける。

 そして俺が俺を許すことはない。


 簡単なことだった。

 彼女の言葉を借りるなら俺が、俺の心がとっくの昔に選択していたのだ。もう自分には、創る資格がないと、創ることができないと。

 そんなことにも気づかず、トラウマが―なんて言い訳をし続けたのだ。

 ほんと俺はどこまでも阿呆だ。

 そんな愚か者は、今の彼女の説教を聞いて、生じた迷いも後悔も衝動も全て微睡のように数日経てば消え去ってしまうのだろう。

 こうしてまた自分の気持ちに蓋をして、いつも通りの人生を歩んでいくに違いない。

 もっと早く出会えていたら違ったのかな。

 ほんと今更すぎる。


「美雪さん、俺、やっぱりごめん、無理だ」


 静かな部屋に響く俺の声。

 自分でも分かる。声が震えている。今にも泣きだす寸前の子供のような声。

 ほんとかっこ悪い。

 自分に呆れてしまう。彼女の申し出を断った俺にそんな権利なんてないのに。

 美雪はそんな俺を見つめて、何か声を掛けるわけでも無く、驚くわけでもなく、「分かりました」とだけ言い、彼女は寂しそうな笑顔を浮かべる。


 ごめんなさい。


 俺の思いは声となることはなく、ただ心の中で静かに謝ることしかできなかった。

 先ほどまで緊張により冷えていた部屋が、また違う意味で冷え冷えとする。


「今までありがとうございました、先輩」


 彼女は精一杯の笑顔を見せるも、それはひどく寂寥感を感じさせるものだった。

 美雪はそのまま踵を返し、この部屋を後にした。 

 こうして、先ほどまでの喧騒が嘘かのように、この部屋は静まり返った。



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