第2話 焚火の記憶

夜が訪れると、チームはダンジョン探索を一時中断し、キャンプを設置した。焚火が揺れる炎の光が、彼らの疲れた顔を優しく照らしていた。周囲は静寂に包まれ、彼らの吐息だけが夜の冷気に響いている。


「今日はここまでだ。しばらく休もう。」


全員が頷き、それぞれの場所に腰を下ろした。明日香は手早く食事の準備を始め、翔はデータの確認に集中している。


「トウマ、大丈夫?」


由美が優しく声をかける。トウマは小さく笑い、頷いた。


「はい、少し疲れただけです。」


彼の心には、今日の戦闘の疲労だけでなく、心に重くのしかかる過去の記憶がよぎっていた。


「ねぇ、せっかくだから少し話さない?ずっと黙ってると気が滅入るし。」


明日香が提案すると、翔が顔を上げて同意した。


「そうだな。少し話すのも悪くない。」


リーダーの城島が静かに頷き、焚火の薪を調整する。


「それじゃあ、トウマ。君の話を聞かせてくれないか?なぜ冒険者になったのか、ずっと気になっていたんだ。」


トウマは一瞬ためらったが、仲間たちの優しい目に励まされ、深く息をついた。


「わかりました…。僕が冒険者になった理由、それは家族を失ったからです。」


焚火のパチパチとした音が響く中、トウマはゆっくりと話し始めた。


それは、まだトウマが8歳の頃だった。彼の家族は、父、母、姉の4人家族で、郊外の小さな町に住んでいた。父は町の警察官、母は学校の教師、そして姉は大学生だった。


「父は正義感が強く、母は優しくて、姉は僕の自慢でした。毎日が本当に楽しかった。」


しかし、その平和な日常は、突然訪れたダンジョンの出現で一変した。町の近くに巨大なダンジョンが出現し、そこから恐ろしい魔物が現れた。


「あの日、町が襲われたんです。僕は学校にいて、突然の警報が鳴り響いて…。」


トウマはその時の光景を思い出す。混乱するクラスメイト、逃げ惑う人々、そして、町を破壊する魔物の姿。


「父は警察官として、母は教師として、町の人々を守ろうと必死でした。でも、魔物の力は圧倒的で…。」


彼の声は少し震えていた。焚火の炎が揺れるたびに、過去の痛みが蘇る。


「家に戻った時、すでに父も母も…姉も…いなかったんです。家は壊れていて、周りは瓦礫の山でした。」


彼は小さな体で必死に家族を探したが、見つけることはできなかった。


「その時、誓ったんです。僕は強くなって、こんな悲劇を二度と繰り返さないって。家族を守れなかった自分を責めながら、ずっとその思いだけで生きてきました。」


仲間たちは静かにトウマの話を聞いていた。焚火の光が彼の顔に影を作り、彼の瞳には決意が宿っていた。


「トウマ…。そんな辛い過去があったなんて…。でも、その思いが今のあなたを作ったのね。」


由美が涙を浮かべて言った。


「強いね、トウマ。私も似たような経験があるけど、それを乗り越えるのは本当に大変なことだよ。」


明日香がしみじみと語りかける。翔も少し感情を抑えながら、口を開いた。


「君の強さは、過去の痛みから来ているんだな。だからこそ、君は誰よりも強くなれる。」


城島は静かに頷き、トウマの肩に手を置いた。


「君の決意は本物だ。だからこそ、俺たちは君と共に戦う。君の過去を無駄にはしない。」


トウマは目を閉じ、深く息をついた。


「ありがとう、みんな。僕は一人じゃないんですね。」


夜が更けるにつれ、焚火の光はますます揺らぎ、彼らの心を温め続けた。過去の痛みを共有し、絆を深めた彼らは、再び立ち上がる力を得た。


「明日はもっと厳しい戦いが待っているかもしれない。でも、俺たちは必ず乗り越えられる。」


城島が言うと、明日香も続けた。


「そうだね。みんなで力を合わせれば、どんな困難も怖くない!」


「情報収集と戦略を練るのは俺の仕事だ。安心してくれ。」


翔が自信を見せる。


「そして、私はみんなの健康を守る。絶対に無事に帰らせるから。」


由美が力強く言った。トウマは仲間たちの言葉に勇気をもらい、改めて決意を固めた。


「僕はもう過去に囚われない。未来を切り開くために、これからも全力で戦います。」


彼の心には、新たな希望と決意が燃え上がっていた。過去の悲しみを乗り越え、仲間たちと共に前に進む力を手に入れたトウマ。彼の冒険は、今まさに始まったばかりだった。


夜空に輝く星々が、彼らの行く先を優しく見守っていた。焚火の光が消える頃、彼らは明日の戦いに備えて静かに眠りについた。


トウマの心には、再び失うことのない強い絆と、未来への希望が輝いていた。

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