相沢蘭子の場合・5

 耳を塞いでいたかった。

 目の前の全部から心を閉ざし、何も見なかったことにしたい。


 坂上さかがみ千晶ちあきは両手の拳を握りしめ、何度も大きく呼吸を繰り返す。

しきりに真横から、『動物』の鳴き声が聞こえてくる。それが鼓膜に届く度に、吐き気を催しそうになってくる。


 「馬鹿野郎」と呟くしかなかった。

 あんなに忠告したのに、あっさりとまた『脱落』しやがった。


 こんなのはもう、慣れたはずだ。今までにもう、何度も見てきた。

 相沢あいざわ蘭子らんこで何人目になるか。だからもう、やるべきことも理解している。町の外なのが厄介だが、またいつものように『施設』に運ぶしかない。


 だけどもう、うんざりだ。

 「これから、また探しに行くんだろ」

 傍らにいる『奴』に対し、千晶は声を絞り出す。


 こいつらがこの二年以上、ずっと繰り返してきたこと。自分は無力なままそれを見て、その度に同じ結果が出続けた。

だが、もういい加減にして欲しい。


 「また、『補充』に行くんだよな。それで『二十人目』を探しに行くんだろ?」


 相沢みたいな奴はもう真っ平だ。二度と、こんな奴は連れてこないでほしい。

 今度こそは、失敗しない仲間が欲しい。


 「『二十人目』が必要になるなら、俺の言う通りの奴を連れてこい」

 真っすぐに『奴』の姿を見据え、千晶は声を発する。


 「今から言う条件を満たせる奴。次に連れてくるのは、そういう奴だ」

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