蝸牛の家
有笛亭
第1話 奇怪な小屋
それは私が中学三年生の秋のことであった。
私の実家は、周りが田んぼで里山がいたるところにある、といった大変のどかな田舎であったが、私の家の裏にも、けっこう大きな里山が控えていた。大きいというのは高さではなく面積で、隣の村の方までのびていた。
この里山が幼い頃からの私の遊び場であったが、ただ面積が広いということで、里山全体を把握していたわけではなかった。
境界というものはないが、私は隣村の方へは足を踏み入れるということをしなかった。それは親からの忠告であった。
と言うのも隣村には、ちょっと変わった人間が住んでいて、それがよく里山をうろついているという噂があったからだ。
里山は、どんぐりなどがなる広葉樹によって形成されているから日差しが明るく、山の中を歩くだけでうきうきしてくるものがあった。
中学三年生になった頃、私はようやく隣村の方へ足を踏み入れるようになったのだが、それは変な人に遭遇しても、それなりに対処できる自信ができたからだ。
幸運にも変な人には遭遇しなかった。が、変な小屋には遭遇した。
トタン屋根の一見物置のような小屋で、扉はなく、畳が敷いてあったが。となれば人がここで暮らしているのか、と周りを見ても生活につながるものは何も発見されなかった。
ベニヤ板の壁に落書きが描かれていた。それはアニメなどで見る魔法陣のようであった。
床下に木箱があり、中に何か入っているようなので、私はその木箱を引っ張り出して確認した。図画帳が数冊入っていた。ページを広げてみると、なんとも奇妙な絵がそこに描かれていた。
蝸牛──それは巨大な蝸牛であった。
巨大と言うのは、その蝸牛の中に人間が入っていたからで、そういう絵が何ページにもわたって描かれていた。
中には人間と蝸牛がフュージョンしている絵があったが、それはつまり人間がすっかり蝸牛の体になっているということだ。伸びた首に人間の顔がくっついている。 また蝸牛の殻は普段横向きとなっているものだが、絵はどれも殻を立てていた。それで渦巻きがはっきりと見えるのだった。
いったいこの絵は誰が描いたのか、と私は興味を持った。
鉛筆で描かれていたが、子供の絵にしては、かなり手慣れていて、濃淡のつけ方などが、ちょっとプロっぽかった。
数冊の図画帳をくまなく調べた結果、私には作者の手掛かりとなるようなものは何も発見できなかった。
ただこの図画帳の持ち主は、魔術に関して非常に興味を持っているようで、その知識も豊富であることが分かった。
たとえば悪魔召喚など、その手法が事細かに描かれていた。
奇妙な図画帳を見ているうちに私はこの小屋に留まっているのが怖くなった。今にもこの持ち主が、ここに現れるような気がしたからだ。
で私は図画帳をもとの木箱に戻して家に帰った。
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