第17話 サイボーグVS獣人
ガンダルヴァが爆発による被害を受ける少し前の事。
OCMMと同盟を組んでいる連合、それに所属していながら寝返った惑星メンテーの軍は、帝国の信用を得るためにガンダルヴァに侵入、拿捕しようとした。
けれども作戦は失敗して全員投降した。
今は僕たちとガンダルヴァの警備クルーに武装解除され、彼らを監禁するために順次独房に送っている最中だった。
百人以上いるから、かなり時間がかかりそうだ。
「ヘルタ達から連絡があったよ。今こっちに戻って敵艦隊と交戦中だって。あっちも問題無さそう」
芽亜里が通信端末からヘルタさん達が戻ってきた事を聞き、僕たちに教えてくれた。
ガンダルヴァ一隻だけでも痛手を負った相手に、ヘルタさん達が戻ってきたからには勝利は間違いないだろう。
たったの四人が援軍に来ただけで、20隻の戦艦と200機以上の大型人型兵器を叩きのめしてしまうのが当たり前だと、自分の常識が段々ズレていくのが怖いけど。
けれど、それで気が緩んでしまったのがいけなかった。
「駄目だ、もう独房はいっぱいだ。取り敢えずそいつ等は居住区の空き部屋に押し込んでくれ」
「それでいいのか?」
「敵が逃げるか大人しくなるか、どっちにしても戦闘が終わるのはそう時間が掛からんだろ。連合もコッチに来ているみたいだし、見張りを付けとけばいいだろ」
「分かった」
警備クルーが捕虜を五人一組ずつに分けて狭い独房に押し込んでいたけど、十組目を入れたらもう入り切らなかった。
仕方なく居住区に移そうと残りの捕虜を連れて行く。けど独房エリアを出た直後にトラブルが起こった。
捕虜になった兵士の一人が突然背を向けた兵士にタックルを仕掛けた。
「ぐわっ!?」
「な!? オイ待て!!」
背中から突撃されたクルーは前のめりに倒れ、そのままタックルした捕虜は逃げ出した。
仲間が急ぎ銃を構え警告するが、止まりはしない。威嚇射撃もしたけどお構いなしに走り出していく。
「マズイ! 捕まえろ!」
「僕が行きます! みんなは他の捕虜を見ていて!」
「え、ちょっとクロム!?」
パウリーネが呼び止めるけど、それに構うわけにいかず僕は走って捕虜を追いかけた。
通路を真っ直ぐ必至に走る捕虜。けれど足は僕の方が少しだけ速かった。
百メートル程走ったけど、捕虜と距離を詰めた僕は飛びかかり、彼の背中にダイブしてそのまま押し倒す。
僕にしがみつかれて敵はもがいて抜け出そうとするけど、逃がすまいと必至に腕に力を入れた。
けど抜けられないと判断した敵は予想外の隠し玉を出してきた。
彼は左腕を壁に向かって伸ばしたと思ったら、メイガスの丈夫な生地を破り、二の腕が中から折れた。
そしてそこからミサイルが放たれ、傍の舷窓を破壊する。
「な!? サイボーグだったのか!?」
敵の正体に驚いたけど、その直後に壁に空いた穴から空気が外に漏れ、艦内に暴風が起こり近くにいた僕と捕虜を吸い出した。
ヤバイ! ブースターでも逃げるのは無理だ!
強烈な吸引力に捕虜はあっという間に穴に吸い込まれてしまった。
僕は背中に取り付けたブースターを
堪えるのは無理だと判断した僕は、首の後ろに下げていたヘルメットを被り、鼻根に当たる部分の蝶番で折り曲げていたマスクを下ろし、鼻と口周りを接合してスーツを密閉する。
ヘルメットを装着したと同時に僕は宇宙空間に投げ出されてしまう。
あと数秒遅かったらゲオルグみたいな悲惨な目にあっていた。
それはそれとして僕は辺りを見回す。さっきまで中にいたガンダルヴァを目にして、空気と共に投げ出された勢いでおよそ二百メートル位離れているように見えた。
けど肝心の、逃げ出した敵サイボーグが見当たらない。彼が出てから十数秒しか時間が経ってないから、まだ遠くには行ってないハズだけど。
そんな事を考えてると〈ヤシオリ〉から警告が出る。
《光学センサーに反応。こちらへの不可視性レーザー照射を確認。
「え?」
間抜けな返事をしたせいで反応が遅れ、僕は攻撃を食らった。
〈ヤシオリ〉が気付いて左肩につけていた防御用アタッチメントを作動させ、僕の周囲に透明な球体のシールドが瞬時に展開され、怪我をせずに済んだ。
けれどシールドにレーザーの砲撃を食らった反動で、僕の体はレーザーが照射された方向と反対に進んでいく。
慌ててブースターを噴射して慣性を殺し、どうにか停止したけど、ガンダルヴァから更に離れてしまっていた。
けれど僕の意識はガンダルヴァではなく、僕に攻撃を仕掛けてきた方向に向けた。
そこにはあのサイボーグの男がいた。
黒髪の厳しい顔の三白眼のサイボーグの男性は、緑色のメイガスを身に着けていたが、さっきのミサイルを発射した際にメイガスの左の二の腕に当たる部分が裂けていた。
またメイガスと一体になったブーツが破られ、足の裏から火を噴いていた。どうやら脚部がブースターになっているらしい。
そんなメイガスの裂け目から空気が漏れているハズだが、彼は顔色一つ変えていない。どうやら普通の人間の様に呼吸する必要は無いようだった。
サイボーグは両手を伸ばし指先を僕に向ける。その指先もメイガスの生地が破れて、先に穴が開いた無骨な金属の指が見えていた。
そして指先の穴が光り、赤いレーザーが放たれる。さっき僕を襲ったものと同じだった。
今度は〈ヤシオリ〉にロックオンされた事を聞いたと同時に、ブースターを吹かし体の位置をずらしてレーザーを回避する。
同時に僕は腰のホルスターからトンファーを取り出していた。
再度レーザーが放たれるけど、僕は左のトンファーにシールドを張って防ぎながら敵に向かって前進する。
肩のオートシールドでも防げるけど、あれは緊急用で一度使うとクールタイムに数十秒かかる。
それに展開中は身動きが取れないから、手で持ったシールドを使ったほうが勝手がいい。なので今は肩のデバイスのシステムを切っていた。
敵はレーザーを数発撃ったけど、僕のシールドに通じないのを見ると、今度は両腕の二の腕を折りミサイルを出す。
僕はブースターを全開にしながら左右上下に小刻みに動きながらミサイルを躱す。
お返しに右のトンファーをガンモードにして連射弾をお見舞いした。
それを見た敵は足と背中のブースターを全開にして、上方向に逃げた。
僕は幻獣紋のエネルギーを胸の黒く染まった筐体から、僕の両脇の下を通った二本の白い配線を黒く染めながら伝って、背中のブースターに供給していく。
エネルギーを受け取ったブースターは一時的に出力が上がり加速する。
通常のブースターと段違いの加速で迫ってくる僕を見て、サイボーグは折った二の腕からミサイルを発射しつつ、肘と手首を折り曲げて指先を僕に向けてレーザーを照射する。
器用だけど見た目がちょっと気色悪い。
レーザーをシールドで防ぎながら、ミサイルを回避していく。そして敵との距離が近づいた僕は右のトンファーから黒刃を出した。
それを見た敵は逃げられないと腹を括ったのか、ミサイル発射口を閉じて腕を元の形に戻し、両手の甲の側の手首から金属の刃を出す。
ブースターの加速に乗って黒刃で斬りかかる。それを敵は左腕の刃で受け止めた。結構な衝撃があるはずなのに少しも動じていない。
敵は右手の刃を僕に突き立てようとしたけど、張っていたシールドで防ぐ。
互いに武器を押しあて鍔迫り合いの状態で止まった。そこで僕は目の前の敵に疑問をぶつけた。
「これだけの武器を隠し持っていたのに、何でガンダルヴァでそれを使わなかった!?」
「使っても勝てないのは目に見えていたからだ。俺はあんな無能な隊長とは違うからな」
「勝てないのが分かっていてどうして止めなかった?」
「止める意味が無いからな。うまく行けばガンダルヴァを拿捕できるし、そうでないなら切り捨てるだけだからな」
「……? お前はメンテーの兵士じゃないのか?」
押し合いの状態で、敵と問答をする。けど相手の言い回しに僕は疑問が湧いてくる。
その最中に艦長から通信が入った。
『クロム、無事か? 逃げた捕虜はどうした!?』
「艦長。いまソイツと交戦中です! すぐに捕まえ――」
『今すぐそいつから逃げろ!』
「え?」
『そいつはグレゴリー! 帝国のサイボーグ兵士だ! 捕虜から聞いたが帝国からの目付役として派遣されたらしい。 宇宙戦は初のお前じゃ実力差があり過ぎる! 早く戻れ!』
ティターン帝国には孤児や浮浪者を集め改造した、非人道的なサイボーグ軍団がいると聞いた事がある。
連合はOCMMと手を組む前は、彼らにかなり苦しめられたらしい。
今でも連合に警戒される強敵だ。
「メンテーから帝国に鞍替えすると打診があって、奴らを見張るために送られたが、思ったより使えなかったな。一時的とはいえ捕虜になるとは腹立たしい」
そう言うと、グレゴリーの両肩が開く。そこから十ミリ程度の口径の砲台が現れた。そして砲口から光が溢れていく。
そして砲台からビームが放たれた。
僕は黒い壁を作って防いだけど、ビームを受けた反動で体が後方に押し出される。
慌ててブースターを噴射して停止したけど、敵が背中と足底部に取りつけたブースターを全開にして迫ってきた。僕より速い。
僕は両手の武器で黒弾を連射するけど、敵は小刻みに上下左右に切り返し、僕の弾をほとんど避けてしまった。一発掠っただけだ。
射撃じゃ捉えられないと判断した僕は、再度右手のトンファーの短棒から黒刃を出し、左手のトンファーにはシールドを張る。
敵がレーザーを撃ってくるのを盾で防ぎ、近づくのを待つ。そして相手が目と鼻の先まで近づいたところで僕は盾をどかして右手の黒刃を突き出す。
けど黒刃は空振り、そこにいたハズの敵は姿を消していた。
一瞬の事に驚き戸惑う僕に、〈ヤシオリ〉に背後からロックオンされたと警告され、僕は慌てて右方向に避けた。
攻撃は躱せたものの、シールドを張っていた左手のトンファーにレーザーが直撃して破壊されてしまう。
振り返ると、いつの間にかグレゴリーがいた。と思ったら、ブースターで僕の周りを縦横無尽に飛び回り、レーザーやミサイル、ビームを放ってくる。
それらの全方位から向かってくる攻撃に、僕は右手に残った武器から盾を張りながら何とか攻撃を凌ぐ。
けど何回目かのミサイルをシールドで防いだ直後に、敵が僕の左側から猛スピードで迫り切りかかってきた。
身を捩ったことで、敵の刃は僕のヘルメットを掠っただけで済んだ。すれ違いざまに敵が舌打ちするのが聞こえた。
その後も敵は周りを高速で飛び回りながらレーザーやビームで攻撃しつつ、こちらに隙ができたら急接近して切りかかってくる。
ミサイルはさっきので打ち止めになったらしい。けど状況は変わりなく、むしろ僕は追い詰められていった。
『クロム! 何とか逃げて!』
『バリスタで敵を振り払えないの!? 先に出した茅達は!?』
『艦が損傷した状態で使ったら、バラバラになる可能性がありますから無理ですよ!』
『茅が応援に駆けつけるのに急いでもあと二分掛かる。 それまで何とか堪えろクロム!』
通信からパウリーネや艦長達の声が聞こえた。どうやらパウリーネ達はブリッジにいるらしい。ガンダルヴァの方を見ると半数まで減った敵艦隊がガンダルヴァに猛攻を仕掛けていた。
勝ち目はないハズなのに、敵は最後まで戦うつもりらしい。
それでしつこく迫る敵艦に囲まれたガンダルヴァは相手をするしかない様子だった。
ヘルタさん達もいるはずだけど、敵を抑えるのにまだ時間が掛かりそうだった。
艦長が茅をこっちに向かわせた様だけど、あと二分も持ちこたえられるだろうか?
正直キツすぎる。
せめて敵の武器を破壊するか、敵の
どうすれば……?
そうこうしている内に、敵のレーザーが残っていた僕の右手の武器を貫き破壊した。
武器を失った僕は、ブースターを噴射して敵に背を向ける。
敵も全速力で追いかけつつ、レーザーを撃ちまくる。動き回りながら何とかレーザーを躱し、ブースターを全開にする。
けれども機動力は敵の方が上だった。次第に敵との距離が縮まっていく。
そして僕が振り返った時には、敵は僕の目と鼻の先まで迫っていた。両手首に仕込んでいた刃が僕を目掛けて振り払われる。
僕は咄嗟に敵の手首を掴んで刃を止めた。
「フッ、無駄な抵抗だ。足掻くほど苦しむだけだぞ? ……ん?」
勝ち誇った敵が僕を
僕は敵を掴んだまま、幻獣紋のエネルギーを右肩のオートシールドに供給し、すぐにシステムを起動させた。
発生した半透明の淡黒色の球体のシールドは、接触していた敵の体に大きな負荷を掛けた。
「ヌオオォォォッッッッ!!!?」
《右肩部重力波オートシールドの出力80%。警告、これ以上の連続使用はデバイスが過負荷により破損する可能性があります》
《構わない! エネルギーを送り続けるから最大出力を出してくれ!》
《了解、デバイスの出力を100%まで上昇》
僕はオートシールドを『二つ』装着していた。一つは左肩の対レーザー、ビーム用の光学オートシールド。そして『右肩』の対物理用の重力波オートシールドだ。
どちらのオートシールドもエネルギー消耗が激しく、連続的に発動させれば負荷も馬鹿にならない。だから効率良く、センサーで敵の攻撃に反応して自動で瞬間的に作動させるのが普通だ。
けれど僕はこの重力波オートシールドを攻撃手段とすることを思いついた。一瞬でも触れれば、音速で飛んでくる銃弾すら砕く力場だ。
これを直接ぶつければ全身兵器の敵を倒せるハズだ。
そのために僕はわざと背中を向けて逃げた。彼は僕に隙が出来ると、癖なのか自信があったのか、必ず接近して切りかかっていた。
そして僕が抵抗する術が無いと判断した彼は、思った通り僕に切りかかろうと、全速力で飛んできた。
後は掴みかかれる距離まで近づいて来たら、敵を押さえてマニュアルで重力波シールドを全開で発生させるだけだ。
その前に残りのトンファーも破壊されてしまったのは予想外だったけど。
けどうまくいった。
シールドの力場に触れたサイボーグは痛覚があるのか絶叫する。
そして敵の両足と背中のブースターは、重力波が一番強いシールドの境界面に触れ、プレス機で押し潰された様に圧縮していき、使い物にならなくなった。
同時に僕の右肩のアタッチメントも故障しちゃったけど。
ついでに幻獣紋で握力を上げ、敵の両腕を潰して折り曲げておく。
硬い合金で出来てると思うけど、粘土みたく僕の握った手形が付いてひしゃげた。
これで両腕の仕込み刃もレーザーも使えない。
「グギャアァァァッ!! き、貴様!!!!」
武装のほとんどと、ブースターを破壊された敵サイボーグは怒り狂い、両肩に内蔵していた荷電粒子砲を出して僕を撃とうとする。
早くやれば良かったのにね!
敵の腹にニーキックをお見舞いし、敵の体を上方に動かした。放たれたビームは僕の頭の上を掠め通り過ぎた。
「こ、この狼男のクソガキが! 帝国最強のサイボーグ軍団の一員であるこの俺を、こんなコケにした姿にしやがって!! この屈辱は貴様の手足を切り落として千倍にして返してやる!!」
「それより後ろは大丈夫なの?」
「ハ? 後ろがどうし……アァ!?」
僕にいいようにやられたサイボーグ、グレゴリーは喚き散らしリベンジを口にするけどそれは叶わないだろう。
僕は後ろを見るよう促す。
彼が振り返ると、その先には二刀流の妖刀を構えた茅が全速力で向かってくる姿があった。
彼女のブースターは通常の倍の加速を出していたから、多分アガットが
その彼女の姿を見たグレゴリーは酷く慌てた。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待――!!」
グレゴリーは茅に待ったをかけようとした。
けどそれを口にする前に彼は、茅に脳天から股下まで妖刀『綿津見』の唐竹割りを食らった。
物質の代わりに意識を切る妖刀をモロに食らい、サイボーグ男は完全に意識を手放したのだった。
「……助けに来たけど、必要無かったかしら?」
「そんな事ないよ。ありがとう茅」
二時間後、連合の艦隊が僕たちの前に現れた。
艦長は異世界から迷い込んだ難民達と、メンテーの捕虜達を引き渡していく。
その際艦長は連合艦隊司令に、兵士の大部分は無理強いされた事などを陳情して、彼らの減刑を頭を下げて嘆願していた。
連合の司令官は困った顔をしていたけど、話の分かる人だったらしく約束してくれた。
「お前ら俺を誰だと思っている!? 俺はメンテーの軍を統括する総督の息子の――!!」
まあ首謀者の一人である隊長と、唆した帝国のサイボーグ兵は別だけど。
敵の隊長――名前を忘れたけど――が喚き散らしながら護送用の輸送船に乗せられていく。
僕たちが倒した帝国のサイボーグ兵も完全に武装解除され同じ船に乗せられた。まあほとんど武器は破壊されてたし、茅の妖刀に斬られてしばらくは目が覚めないだろうけど。
「さて、残る反逆者のメンテーの総督だが、それはこちらが対処しよう。君達は船の応急修理が終わり次第、帰還してくれたまえ」
「よろしいので?」
「元々こちらの不始末だからな。あまり公言できないが、これ以上君達の力を借りるのは体面が良くないと上層部は思っているらしい。まあメンテーの自治政府と連携を取っているから間違いはないだろう。向こうも今回の汚点を払拭しようと必死だしな」
初老の口ひげを蓄えた将校が自嘲気味に説明する。世知辛いというか何というか。
けどそれを聞いた艦長は上機嫌だ。どうやら面倒事に巻き込まれる事なく、早く帰れるのが嬉しいらしい。
「そういう事でしたらお言葉に甘えさせて頂きます」
「相変わらずだね君は……ところで、シャイニングメテオズが再編されたのは聞いていたが、
そう言って連合の将校は僕に視線を向ける。つい僕は背筋を伸ばして直立不動になってしまった。
そんな僕の前に、将校が側に歩み寄ってきた。ますます緊張してしまう。
「クロム君、と言ったかな。獣人とはOCMMに所属する中でも珍しい種族だが、君は中々優秀なようだね」
「いえ、そんな事はありませんよ」
「どうかな? 我々の軍に入らないか? 獣人を入れるのは初めてだが優遇しよう。君なら一年もすればかなり昇進できると思うよ」
「あらあら、直属の上司の目の前でヘッドハンティングとは、連合も随分と図太くなりましたね?」
「レイヴン少将。お言葉ですが彼は、そしてここにいる全員が、我々に取って必要不可欠でかけがえの無い仲間です。同盟関係にある貴方がたとはいえ、その要望には応えかねます」
目の前で僕を引き抜こうとする連合将校の前に、ヘルタさんとパメラさんが割って入る。
それを見た将校はやや残念そうに笑った。
「分かってるよ。言ってみただけだ。しかしパメラ君といい、連合はどうもいい人材を確保するのが苦手だね。……そう言えば、昔の仲間が何人か見えないけど、彼らはどうしたんだい?」
ふと、少将が気付いて口にする。
『昔の仲間』という単語が出た途端、ヘルタさん達の表情が一瞬固まった。
あれ? 前のシャイニングメテオズって、産休中のマリアネラさんを除けばここにいるので全員じゃなかったの?
「……事情があって全員揃わなかったんです。まあクロム達もいますからご心配はいりませんよ」
「……そうかい、野暮な事を聞いてしまったかな。私達も準備があるし、これで失礼するよ」
連合の将校は何やら気まずい空気を察したのか、話を打ち切り自分たちの船に戻っていく。
艦長は船の応急修理が済み次第、出航できるよう命じて各自解散となった。
けど、僕はさっきの事が気に掛かり、近くにいた芽亜里と茅を呼び止めた。
パウリーネも僕と同じ疑問を持っていて側に寄る。
「あのさ、前のシャイニングメテオズのメンバーって他にもいたの?」
そう聞くと芽亜里は困ったような顔をした。茅も眠たげだったけど眉を顰めている。
「……実はマリアネラの他に、後四人いたんだけど、来れなくてね」
「そうなの? その人達が復帰できないのは何でなの?」
パウリーネからしたら素朴で当たり前な疑問を口にしただけだった。
けれど彼女が質問した瞬間に、茅が目を見開いて僕たちを見る。戦闘中やアイドル活動以外で覚醒する彼女を見るのは初めてだった。
芽亜里もいつもの明るさが消え、目を伏せていた。
「……あ、いや、デリケートな質問だったかな。ごめんね……パウリーネ、行こうか」
「あ、うん……そうね、二人ともまた後で」
そう言って僕たちは芽亜里と茅から逃げる様にその場を離れた。
今回参加していない旧シャイニングメテオズのメンバーの事は気掛かりだったけど、これ以上聞ける雰囲気ではなかった。
けれど、僕たちはすぐ先の未来で、その一人と予想外の形で出会い、そして忘れられない出来事を目の当たりにする。
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