いつの間にかみんなのそばに一ノ瀬美空

@antedeluvian

いつの間にかみんなのそばに一ノ瀬美空

「自分には何もない」と彼女は言う。


彼女にとって何かを持っているということは、誰かが自分を誇ってくれるほど光っているものを手にしているということを意味している。


自信のなさもあるのかもしれないが、それよりも、自分に課しているハードルが途轍もなく高いのだろう。


子どもの頃から色々な習い事を経験してきて、あらゆる分野の素地みたいなものが自然と身についている彼女は、「何もない」というにはあまりにもバラエティに富んだ適応能力がある。


言ってみれば、彼女はどんな球でも打ち返すことのできる安打製造機みたいなものだ。




2024年5月11・12日。


彼女が尊敬してやまないアイドル・山下美月さんが卒業していった。


その卒業コンサートを作り上げていく中で、スタッフの中からは「全力でふざけるメンバーがいなくなってしまう」と冗談交じりの声が上がっていた。


山下さんが卒業コンサートの1日目で表現しようとしていたのは、これまでの乃木坂46とその文脈に乗る今現在、そして、これから先のメンバーたちの姿を見せることでもあった。


そうした中で、一ノ瀬美空さんの位置づけはかなり異彩を放っていた。


よく「ファンは推しに似る」というが、一ノ瀬さんは見た目や雰囲気からアイドルというものに対するイメージとリスペクトがひしひしと感じられる。


そして、彼女はそのイメージとリスペクトをあらゆる方法で表現してきた。

それが周囲のメンバーたちの信頼を得ることになったのだろう。


山下さんの中には「全力でふざけられるメンバー」として、一ノ瀬さんへの全幅の信頼があったように感じる。


その全幅の信頼に応えるのに全身で自分を表現できるステージというのは、彼女にとってうってつけの場所だったに違いない。

そこでだからこそ、遠慮なく自分の頭の中にあるイメージを具現化できたのだ。



専属モデルになるということは大々的にお知らせされるものだが、雑誌での連載についてはあまり大きく伝えられないかもしれない。

だから、一ノ瀬さんがすでに2つの雑誌で連載を持っているということを知らない人もいるかもしれない。


一ノ瀬美空という人には、彼女を知っている人は何かを投げかけてみたくなるのだと思う。

彼女それをどう打ち返してくれるのか、誰もが知りたくなるから。


自信なさげに打ち返してみせる彼女に周囲の期待感が募る。


だから、彼女はいつの間にかライブのMCで、朝の情報番組で、歌で、ダンスで、バラエティで、中心となって気持ち良く自分自身を表現している。


自分に向けられた期待への寄り添い方が、彼女を唯一の存在にする。


彼女の姿をよく見るようになったと思う人は多いかもしれないが、それは当然のことである。


どこにでもいられる存在、それが一ノ瀬美空なのだから。




乃木坂46の歴史の中でお気に入りのシーンというのが誰にでもあるだろう。

私のお気に入りのシーンに一ノ瀬さんのものがある。


「新・乃木坂スター誕生!」第37回。

「雪の華」を菅原咲月さんが歌唱、岡本姫奈さんがダンスを担当した。


ここで岡本さんはダンスの振り付けを制作することになったのだが、不安で泣き出してしまう。


そこで一ノ瀬さんが「オランウータンの真似」で元気づける。


仲間のために髪を振り乱してオランウータンと化す野性味溢れる一ノ瀬さんの勇姿は(きっと本人は観てほしくないだろうが)、彼女の魅力を凝縮した最高のシーンだ。


一ノ瀬美空というやつは、めちゃくちゃ良い奴なのである。



「自分には何もない」と謙遜する彼女は、彼女が言う「特別な何かを持っている」まわりのメンバーを誇らしげに自慢する。


誰かのポジティブな一面を見出すのに長けた彼女には類稀なるプロデュース能力があって、それは彼女のファンなら誰でも感じていることだろう。


「にゃんにゃんにゃぎ」だけでなく自分自身も加わっての小川彩さんとの関係性、遠津さくらさんと矢久保美緒さんという既存の関係性に切り込んで展開を生み出す様、自分自身の見せ方……彼女の表現したいことが乃木坂46として発信されていくことで、グループはより色鮮やかに輝きを見せるだろう。



これからもまた大きく変わっていく乃木坂46で彼女がその中心に立つことになっていくのは自然なことで、そんな乃木坂46の姿を見るのも楽しみである。



written by antedeluvian

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